ph70 タイヨウVSアスカ

「わたくしは手札より、MP2を消費して装備カード豊饒の琵琶を装備いたしますわ!」


 アスカちゃんは豊饒の琵琶を装備し、木のバチで弦を弾いた。すると、フィールド上に光の玉が現れ、彼女の体に吸い込まれるように消えていった。


「豊饒の琵琶は自分のフェイズ時、自分のフィールド上のモンスターの数×1の数値分のMPを回復するんですのよ!」


 MPが3から6に増えたアスカちゃんは、手札から1枚のカードを取り出す。


「更に、手札より道具カード縁切りのナイフを使用いたしますわ!手札を2枚ドロップゾーンに送り、デッキからカードを2枚ドローさせていただきますわ!」


 手札入れ替えのカードか。カードによっては、ダストゾーンに送った後も効果を発動できる。ダストゾーンに送った2枚のカードも注意をした方がいいだろう。


「バトルですわ!メロネイロ!プリリインタ!ドライグを攻撃なさい!」


 2体のモンスターがドライグに攻撃を行うが、タイヨウくんは防御せず、そのまま攻撃を受ける。


「わたくしはMP3を消費して弁財天のスキル、宇賀の姿を発動いたしますわ!この攻撃時、弁財天の攻撃力はフィールド上にいるモンスターの攻撃力を加算した数値分あがりますのよ!」


 弁財天の背後に6本の腕が出現し、攻撃力が2から8まで上がる。


 フィールド上にいる全てのモンスターの攻撃力を加算だと?武器とかで上げた攻撃力も適用されるのだろうか?ならば、タイヨウくんがよく使う大地の斧や大地の剣といった、モンスターの攻撃力を上げる装備カードは、迂闊に使用する事は出来ないだろう。


「さぁ弁財天!ドライグを攻撃なさい!」

「俺はMP1を消費してツァイトウルフのスキル強固な結晶を発動!1フェイズに一度だけ、相手から受けるダメージを0にする!」


 ツァイトウルフが固い体で攻撃を受け止め、弁財天の攻撃からドライグを守った。


「わたくしのフェイズは終わりですわ」

「じゃあ俺の番だな!ドロー!」


 タイヨウくんは楽しそうにデッキからカードを引き、手札から魔法カードを出す。


「俺はMP1を消費してブリテンの加護を発動!5フェイズの間、フェイズ開始時のMP回復量を1増加する」


 出た。タイヨウくんのMP増強魔法。あの回復地味にデカいんだよな。魔法カードの発動を通したら、タイヨウくんのフェイズになる度にMPが4も回復し、レベル4のモンスターまでならスキルを確実に発動できてしまう。彼の使用モンスターはレベル3だから関係ないけど、クロガネ先輩が使ったら脅威になるんだよな。私は装備カードに依存してるところがあるから、初っ端から魔炎牙で破壊されてダブルアタックまで決められたら最悪だよ。先輩のモンスターの属性と合致してなくて本当に良かったと心底思うわ。


「更に、手札から道具カードマナの葉肥を使用!デッキから魔法カードを1枚ドロップゾーンに送り、MPを1回復する!俺は夜魔女の呪詛をドロップゾーンに送るぜ!そして、MP2を消費して装備カード赤龍の軍旗を自身に装備する!!」


 タイヨウくんは赤い竜が描かれた大きな旗を両手で持った。そして、戦闘準備が整ったのか、タイヨウくんはバトルだ!と叫ぶ。


 今のタイヨウくんのMPは5、手札は3枚。対するアスカちゃんのMPは3、手札は4枚だ。どんな攻防を繰り広げるのか。


「ツァイトウルフ!ノミノノーム!プリリインタを攻撃!」

「きゃっ!」

「ドライグも続いて攻撃だ!」

「あぁっ!」


 アスカちゃんはタイヨウくんの攻撃をそのまま通し、プリリインタの残り体力は1となった。


「ドライグ!!プリリインタを再攻撃だ!!」


 MP温存するのか、はたまたプリリインタを守るのかと見ていると、アスカちゃんはプリリインタ!と叫び、スキルを発動させた。


「わたくしはMP1を消費して、プリリインタのスキル魔言語通訳を発動いたしますわ!1フェイズに一度、フィールド上にいるレベル2以下のモンスターのスキルを使用することができますわ!わたくしはツァイトウルフの強固な結晶を選択し、ダメージを0にいたします!!」


 プリリインタの持っている本が頑丈な鉱石へと変化してドライグの攻撃を防ぎ、何とか消滅を免れた。


 魔言語通訳か……厄介なスキルだな。1フェイズに一度しか使えないとはいえ、相手のモンスターを含めたレベル2のモンスタースキルまでもたったMP1で使用できるのは強い。私の影法師の影縫いを使われたらかなり痛いな。

 

「俺は!赤竜の軍旗の効果を発動!1フェイズに一度、フィールド上のモンスターの攻撃をなかった事にし、もう一度攻撃することができる!」


 上手い。仕切り直す事で防がれた事をなかった事にしたのか。それも、スキルを使用した状態のまま戻している。これは、相手モンスターのスキルを無駄撃ちさせたも同然だ。


「ドライグ!プリリインタに再再攻撃だ!」

「わたくしはダストゾーンにある水流結界をゲームからドロップアウトさせ、効果を発動いたしますわ!相手から受けるダメージを2軽減いたします!」

「なぬっ!?」


 最初にダストゾーンに送った2枚のカードの内の1枚か。ドライグの爪とプリリインタの間に水の膜のようなものが現れ、攻撃を防いだ。ドライグの攻撃力は2、水流結界の軽減ダメージも2。攻撃は相殺され、プリリインタは場に残った。


「俺のフェイズは終了だ!」

「それではわたくしのフェイズですわね!ドロー!豊饒の琵琶の効果を発動いたしますわ!」


 アスカちゃんのMPはフェイズ開始時のMP回復と、豊饒の琵琶の効果を合わせて8まで回復した。そして、手札が5枚もある。このフェイズ、絶対に仕掛けてくるだろう。今はタイヨウくんが有利な状況であるが、ここで彼女の攻撃を防ぎきらないと、簡単に場はひっくり返ってしまうだろう。


「わたくしはダストゾーンのマナの地下水をゲームからドロップアウトさせ、同属性の道具カードを手札に加えますわ!わたくしが加えたのはマナの湧き水!そして、マナの湧き水を使用いたします!このフェイズ中、モンスターのスキルを使用する時、消費MPが1軽減されますわ!」


 無条件でスキルの消費MPを1削減だと!?じゃあ何か?レベル1のモンスターのスキルは使いたい放題って事か?えげつないカードを使うな、このお嬢様。


「バトルですわよ!弁財天!スキル、宇賀の姿を発動ですわよ!そしてドライグを攻撃なさい!」


 攻撃力が8になった弁財天がドライグを襲う。


「俺はMP1を消費してツァイトウルフのスキル、強固な結晶を発動!」

「読めてましてよ!わたくしはMP1を消費して魔法カード、鉄をも貫く大樹を発動させますわ!フィールド上の選択したモンスターに防御貫通効果を持たせますのよ!」

「うわああ!」


 ツァイトウルフの守りを貫き、ドライグの体力が5になる。


「更に、メロネイロのスキル鼓舞する音色を発動いたしますわ!自身の攻撃を放棄する代わりに、フェイールドにいるモンスターを再攻撃させますのよ!わたくしは弁財天を選択し、更に宇賀の姿も発動させますわ!弁財天!ドライグに止めですわよ!」

「させない!俺は赤竜の軍旗の効果を発動!戦闘を仕切り直しさせる!」

「くぅっ!ならば、弁財天で通常のまま攻撃!そして、プリリインタの魔言語通訳でメロネイロのスキル鼓舞する音色を発動させ、弁財天でドライグに攻撃いたしますわ!」

「うわあああ!!」


 タイヨウくんは赤竜の軍旗を使用するが、アスカちゃんの猛攻が続き、ドライグの体力がたったの1になった。


 何とかタイヨウくんのフェイズが戻ってきたが、今の弁財天の体力は15、メロネイロは5、プリリインタは1だ。タイヨウくんはドライグが1、ツァイトウルフが5、ノミノノームは5である。さっきのフェイズで行われたアスカちゃんの攻撃により、タイヨウくんが少し不利となった。彼はこの状況をどう打開するのだろうか?


「影薄」


 私がタイヨウくんとアスカちゃんのマッチをじっと見ていると、ヒョウガくんから軽く肩を叩かれた。どうしたのだろうかと振り向くと、ヒョウガくんは気難しい表情でどう思う?と聞いてきた。


「何の話ですか?」

「あの女、マナ使いだと思うか?」


 ヒョウガくんの言葉で、そういえばと、私たちがここに来た原因であるバトルフィールドの存在を思い出した。アスカちゃんのインパクトが強すぎたせいですっかり忘れていたが、私たちはあのフィールドが精霊狩りワイルドハントの仕業ではないかと疑っていたんだった。


「まぁ、そう考えるのが妥当だろうね。でも、精霊狩りワイルドハントとは関係ないと思うよ」


 私はタイヨウくんがデッキからドローする姿を視界の隅に捉えながら話す。

 見た感じ、アスカちゃんは精霊狩りワイルドハントとは無関係そうだ。マナが使えるのも、財閥関係のお金持ちという事なら辻褄も合う。


「……だといいがな」


 ヒョウガくんは納得がいかないのか、アスカちゃん達を渋い顔で睨みつけていた。そして、ピリピリとした雰囲気で周囲を警戒している。


 そんな神経質にならなくてもと思ったが、彼の心配も一理ある。一応私も注意しておくかとヒョウガくんの隣に立ち、少しだけ周辺に意識を向けながら、タイヨウくんのマッチを観戦する事にした。


「バトルだ!ノミノノーム!プリリインタを攻撃!!」

「させませんわ!MP1を消費してプリリインタのスキル魔言語通訳を発動!強固な結晶を使用しますわ!」


 アスカちゃんは残り体力1のプリリインタを守るためにスキルを発動させるが、タイヨウくんはそれを分かっていたかのように手札から魔法カードを取り出した。


「へへっ!なら俺はMP1を消費して魔法カード魔術師の幻惑を発動!相手の防御を無視して攻撃できるぜ!ノミノノーム!いけ!」

「きゃあああ!」


 ノミノノームの攻撃により、プリリインタは消滅した。タイヨウくんは畳み掛けるようにドライグのスキルを発動させ、次のモンスターを狙う。


「ドライグ!湖からの目覚めでメロネイロを攻撃!」


 タイヨウくんの残りMPは4になるが、ドライグの攻撃力は4まで上がった。ここで攻撃が通れば、メロネイロの体力は1になる。


「わたくしはMP1を消費して魔法カード吸血花を使用いたしますわ!自身のモンスターがダメージを受けた時、そのダメージ分のMPを回復いたします!」


 アスカちゃんはメロネイロへのダメージを通し、捨て身でMPを大幅に回復させる。まだ彼女の場にはメロネイロと体力が15もある弁財天が残っている。あの回復したMPでモンスターを守る作戦だろうか。


「ツァイトウルフ!メロネイロを攻撃!」

「あぁ!」


 ツァイトウルフの攻撃を受けて消滅したメロネイロを見ながら、あれ?メロネイロを守らないのか?フィールドにモンスターがいた方が、彼女にとって有利になる筈なのに。と、疑問を抱くが、もしかしたら彼女の残り手札の中には防御系のカードがないのかもしれないと思い直す。そして、私の予想通りなのか、タイヨウくんはドライグのダブルアタックで弁財天に攻撃するが、特に防御せずに攻撃が通り、このフェイズは終了した。


 アスカちゃんのフェイズへと移り、彼女は高笑いをしながらカードをドローする。彼女の手札は4枚。MPは豊饒の琵琶の効果もあって9まで回復した。タイヨウくんの手札は3枚。MPは4だ。残っているモンスターの数はタイヨウくんの方が多いが、主戦力であるドライグの体力は1。対する弁財天の体力は13もある。ここでドライグが倒されたら厳しい。彼はどうやってドライグを守り切るつもりなのだろうか。


「MP1を消費してわたくしは装備カード天女の戟を弁財天に装備させますわ!装備したモンスターは、防御貫通を得ますのよ!更に、弁財天のスキル宇賀の姿を発動!これで弁財天の攻撃力は6になりましたわ!」


 防御貫通か。ツァイトウルフのスキル効果が効かなくなったな。これでごり押すつもりなのだろうか?


「バトルですわ!弁財天、ノミノノームを攻撃ですわよ!」

「俺は赤竜の軍旗の効果を発動させる!この戦闘をなかった事にする!」

「それを待ってましたわ!」


 アスカちゃんは、道具カードを発動と宣言し、効果を読み上げる。


「わたくしは、露祓いの人形を使用いたしますわ!相手が装備カードを使用した時、その装備カードを破壊し、デッキからこの道具カードと同属性の装備カードを装備する事が出来ますわ!わたくしは天女の羽衣を装備いたします!そして、羽衣の効果を発動!自身のフィールド上にいるモンスター1体の攻撃を全体攻撃にする事ができますわ!」

「なっ!?」


 不味い!今の弁財天の攻撃力は6。このまま通せばタイヨウくんのモンスターは全て全滅してしまう!


「俺はダストゾーンの夜魔女の呪詛をゲームからドロップアウトさせて効果を発動するぜ!相手モンスター1体の攻撃力を0にする!」

「甘いですわよ!わたくしは、MP2を消費して手札から魔法カード、天女の加護を発動いたしますわ!自身のフィールド上のモンスター1体を選択し、選択されたモンスターは戦闘中、相手の魔法効果を受けませんわ!」


 夜魔女の呪詛の効果が!これじゃあ、相手の攻撃を防げない!


「タイヨウくん!」

「大丈夫だ!」



 タイヨウくんは私に向かってニッカリと笑いかけると、直ぐに視線をアスカちゃんに戻した。


「俺はMP1を消費して、手札から魔法カード、大地の精霊の守護を発動!1体のモンスターを選択し、選択したモンスターが攻撃を受けた時、1度だけ体力1を残して耐える!俺はドライグを選択するぜ!」


 弁財天の攻撃が決まり、ツァイトウルフとノミノノームが消滅してしまった。しかし、何とかドライグだけは場に残すことが出来た。


 ドライグの残り体力は1だが、まだ挽回のチャンスはある。それに、いつもギリギリで巻き返しているらしいし、彼の主人公力なら、こんな局面でも挽回する事が出来るだろう。あぁ、だけど、何だかな……彼のマッチは本当に……。


「心臓に悪い」

「……大丈夫か?」


 ヒョウガくんは、心配そうに私の顔色を伺う。私は大丈夫だという意味を込めて手をヒラヒラと動かし、ヒョウガくんから少し離れた木に寄りかかった。


 物語を盛り上げるためだろうと分かってはいても、タイヨウくんのマッチは常に危なっかしい気がする。私と最初のマッチの時も、SSCの時も、そして今も。見ているこっちがハラハラして疲れてしまう。


 はいはい。どうせ勝つんだろ?私知ってるよ。というスタンスでいきたいのは山々だが、自分が関わっているとそうもいかないようだ。ここで15ポイントも失うのはきつい。何としてでもタイヨウくんに勝ってもらわねばならない。


 タイヨウくんがドローしようとしている姿を見て、どうか逆転のカードをドローしてくれと、目をつぶりながら祈っていると、影薄!とヒョウガくんの焦ったような声が聞こえた。


 どうかしたのかと目を開き、ヒョウガくんの方を見ると、彼は切羽詰まったように叫んだ。


「後ろだ!」


 後ろ?後は木の筈だが?


 そう思い、後ろを振り返ろうとすると、眩しい光の光線のようのものが寄りかかっていた木ごと私の体を貫いた。そして、同時に走った激痛に、思わず座り込んだ。


「っ、あああああ!!」

「影薄!?影薄!大丈夫か!?しっかりしろ!!影薄!!」

「サチコ!?ヒョウガ!?なんだ!?何があったんだ!?」


 ヒョウガくんとタイヨウくんの心配する声が聞こえる。答えようにも激痛のあまり、話すことが出来ない。


 でも、この痛み、この辛さを私は知っている。似たような痛みを不本意ながらも何度も経験している。これは、この痛みは……っ!!


 ……刻印を受けた時と、同じ痛みだ。


 くそっ!馬鹿か私は!ここが敵地であるのは分かっていたのに!危機感が足りなかった!もっとヒョウガくんみたいに警戒していれば!!


 いや、たらればの話を考えても仕方がない。刻印を受けたということは、近くに精霊狩りワイルドハントがいる可能性が高い。冷静になれ、痛みで思考を放棄するな。自分の失態は自分で挽回しないと……。


 ここで気絶するのはよろしくない。精霊狩りワイルドハントと対峙する事になるならば、戦うにせよ、逃げるにせよ、私が倒れるのは不味い。



 私はゼーゼーと肩で息をしながらも、木で体を支えながら立ち上がり、せめて意識だけは持っていかれないように歯を食い縛って耐えた。

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