ph61 サチコと合流ーsideヒョウガー


 俺は腕時計型端末マッチデバイスの通信機能をoffにし、影薄との通話を切る。


 五金家の使用人からSSSC参加者全員に配られていると、この端末を渡された時は驚いた。


 このMDマッチデバイスは、氷川ヒョウケツがローズクロス家にいた頃から開発していた簡易バトルフィールド装置だ。


 俺が精霊狩りワイルドハントにいた頃は、バトルフィールドの展開すら儘ならなかったのだが、たった一年足らずで完成させたうえに多様な機能を追加させ、ここまでの小型化に成功させていたとは……。奴1人で成し遂げたとは考えにくい。


 マナ使いに関しても気がかりだ。俺が抜け出してからの進歩が著しすぎる。外部から何かしらの介入があったのだろうか?たどしたら介入した意図は何だ?MDマッチデバイスの機能に目をつけた一般企業ならばまだいい。しかし、サタンの実体化に賛同する新たな勢力だったら?


 くそっ……情報がない今は考えても仕方がない、か……。それよりも、影薄達と合流する事を考えた方が有意義だろう。


 俺は頭の中を切り替えるように、タイヨウと影薄の現在位置を把握する為、MDマッチデバイスのマップアプリを開いた。


 タイヨウのアイコンは、砂漠エリアにVSと表示されたマークの上に重なっていた。どうやらマッチ中のようだった。


 タイヨウの持ちポイントを見てみると、9/50と表示されている。順調にポイントを獲得しているようだ。


 ……アイツは放っといても良さそうだ。ならば、先に影薄の方へと向かう事にしよう。精霊狩りワイルドハントに狙われている影薄を1人のままにさせておく訳にはいかない。なにより、アイツの痣はまだ消えていないのだ。何があってからでは遅い。




 マップのアイコンを見る限り、上手いこと移動しているようだが、いつ敵に見つかるか分からない。速く影薄の元へ向かわなければ。


 俺はマップを消し、森林エリアの方へ足を向けた。


 SSSCは通常の大会とは違い、精霊の実体化が許可されている。飛行能力のある精霊の力を使えば簡単にエリア間を移動出来そうに思えるが、島全体に精霊捕獲装置を応用させた防護壁シールドが張られている。エリア間を移動する手段は橋を渡るしかない。


 ならば、橋で待ち伏せ、罠を張っている選手がいるのは必然と言えるだろう。


 影薄もその事に気づいていたのか、橋付近は警戒した方がいいと言いかけていた。橋を通るならば、敵の的となる覚悟をした方が良いだろう。


「ふん……好都合だな」


 来るなら来い。ポイントが自らやって来るのならば探す手間が省けるというもの。全て返り討ちにしてやる。



















「コキュートス。戻れ」

「ゴー!」


 俺はコキュートスの背中から飛び降りながら、精霊をカードに戻した。


 あえて目立つようにと精霊に乗って移動していたが、狙い通り、橋で待ち伏せしていた奴等からポイントを奪う事が出来た。 


 森林エリアに入ってからも、数人とマッチした。もう少しポイントを増やしたかったが、マップの機能が正しければ、影薄はこの近くに潜んでいる。目立つ行動は避けたい。


 俺は木々で体を隠しながら、息を潜め、静かに移動した。






 暫く歩いていると、岩壁に道を阻まれた。どうやら行き止まりのようだ。


 マップに表示された影薄のアイコンはこの場所を指している筈なのだが……。


 もしかしたら、壁の窪みか何かに隠れているのかもしれないと、岩壁を覆っている蔓に触れる。すると、不自然に近くの木々が揺れ、そこから黒い影が飛び出してきた。


「マスターに近づく怪しい奴め!!おれが成敗してやるぅ!!」

「なっ!?影法師!?」


 影法師は、影から飛び出した勢いのまま俺を攻撃しようとしている。俺はデッキからカードを取り出し、魔法を発動させて影法師を空中で拘束した。



「うわー!はなせこのやろー!!」

「落ち着け。俺だ」


 氷のリングによって体の自由を奪われた影法師は冷静さを失っているのか、ジタバタと暴れ、俺に気づく気配はない。


「影法師」


 どうしたものかと頭を悩ませていると、後方から聞き慣れた、心を落ち着かせるような声が影法師の名を呼んだ。俺はその声に誘われるように後ろを振り返る。すると、予想していた通りの人物、影薄の姿があった。俺は自然と肩の力が抜け、表情が緩む。


「……影薄」

「や、ヒョウガくん。うちの相棒がごめんね」


 いつもと変わらない様子で現れた影薄に安堵する。


 ……良かった。どこも怪我してないようだな。


「ほら、影法師。ヒョウガくんは味方だから暴れない」

「えー」


 不満そうに返事する影法師に、もしや分かっていて攻撃してきたのか?と頬が引き付りそうになる。それを何とか堪えながら、影薄が影法師をカードに戻す姿を眺めた。


「これからどうする?」

「ポイントを稼ぐ。タイヨウとは可能であれば合流しよう」

「大丈夫なの?」

「……どうせアイツはマッチに熱中しすぎて通信に気づかんだろう」

「あぁ、確かに。何度か連絡したけど、タイヨウくん全然出ないね」

「型破りな奴の思考は予測できん。連絡もなしに追いかけるのは愚策だろう。ならば、連絡が取れるまで近くのエリアでポイントを集めた方がいい。最悪、100ポイント集めてから氷山エリアで合流する腹積もりでいた方がいいだろう」


 幸い、タイヨウは順調にポイントを稼いでいるようだった。既に16ポイントも貯めており、暫く放っておいても脱落することはないだろう。



「りょーかい。じゃあ鉱山エリアに行く?それとも火山エリア?……私個人としては鉱山エリアがいいんじゃないかなぁと思うんだけど」

「いや、火山エリアに向かう。ここからも、砂漠エリアからも近い」

「え゛っ……。火山エリア、かぁ……うん、火山エリアねぇ……」

「何だ?不服か?」

「や、やだなぁ。ソンナワケナイジャナイデスカー。ただ、鉱山エリアの方が隠れる場所が多そうだし、安全にポイントを稼ぐならそっちの方がいいんじゃないかなぁ、なーんて……ここからはちょっと遠いけど、砂漠エリアとも隣接してるし……」



 ……全く、無表情の癖に分かりやすいな。


 グダグダと言葉を羅列し、火山エリアを避けようとする影薄に、どうせ熱いから嫌だとか、そんな仕様もない理由で嫌がっているのだろうと呆れ、問答無用で影薄の手を掴んだ。


「時間が惜しい。さっさと火山エリアに向かうぞ」

「ちょっ!?ヒョウガくん!?」

「鉱山エリアに拘る理由があるのか?」

「そ、れは。特にないけど……」


 まだブツブツと言っている影薄を無視して歩いていると、俺の態度に観念したのか、影薄は素直に足を動かし始めた。


 その諦めた様子に、もう手を掴んでいなくとも問題なさそうであったが、何となく離したくなくて、影薄の手を痛まない程度に強く握りなおし、そのまま火山エリアに向かう事にした。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る