ph59 ダビデル島


 転送魔方陣によって飛ばされた場所は森林エリアだった。火山とか砂漠じゃなくて良かったと安堵しつつ、近くに落ちていた木の棒を拾い、考えを整理する為に地面にガリガリと文字を書く。


 SSSC参加チームは合計47チーム。1チームの人数は3~4人。そして、1人につき3ポイント与えられている。1チーム3人として計算するならば、大会全ての合計ポイントは423ポイントだ。決勝進出への条件はチーム合計を100ポイントにし、全員で氷山エリアにたどり着くこと。時間制限はない。ならば、チーム合計が100ポイントになった時点で、奪われさえしなければシロガネくんを探す時間は十分に確保できる。



 けど、私達以外のチームが全て4人構成だとしたら、合計563ポイントになり、100ポイント持つことが出来るチームは5チームになる。そうなると、私達が100ポイント持っていても、他のチームがポイントを集めて氷山エリアにたどり着いてしまえば、SSSCの決勝に出れなくなる。悠長にダビデル島を歩き回る時間はないだろう。私達が200ポイント集めればその問題は解決出来そうだが、それは物理的に無理そうだった。


 私は腕時計型端末を操作し、チーム合計ポイントが表示される画面を映し出した。


 数字の表記は9/100となっていた。これを見る限り、チームで持てる最大ポイントは100ポイントまでだろう。更に、個人のポイントを確認してみると、私の数字の表記は3/50となっていた。どうやら個人で持てるポイントも決まっているらしい。1つのチームがポイントを独占しない為の処置なのだろうが、余計なことをしてくれると舌打ちしたくなった。


 チーム合計ポイントが0にならない限り脱落にはならない。が、チーム間でのポイントの移動が出来ないと言うことは、個人の所持ポイントが0になった時点で賭けるポイントがなくなり、マッチする事が出来なくなる。更に、1人が持てる最大ポイントが50ポイントまでならば、チームメンバーの内、2人は必ず生き残らなければ、実質的な脱落となってしまう。3人チームは4人チームに比べ、人数も、初期ポイントも少ない分不利なのだ。なるべくポイントを0にはしたくない。


 しかし、SSSCの参加チームは、各都道府県のSSCを勝ち抜いた猛者ばかりだ。訓練のおかげで前よりも強くはなったとはいえ、相性の悪い相手と出くわしたら勝てる自信がない。開始早々0ポイントになるとか笑えない冗談だ。2人と合流しようにも、スマホの画面には圏外と表示されている。これじゃあ連絡が取れないとため息をついた。



 腕時計型端末に連絡機能はないのかと適当に弄っていると、電子音とともに空中にディスプレイが現れ、ダビデル島の地図が映し出された。


 5つある島の内、森林エリア、砂漠エリア、湖沼エリアにアイコンがあり、点滅していた。


 もしかして、これはチームメイトの位置を表しているのだろうか?チームメンバーの位置なら把握出来るという事か?なら、森林エリアのアイコンが私だとすると、2人はそれぞれ砂漠エリアと湖沼エリアにいるのだろうか?砂漠とか最悪な場所にいるのは誰だ?


 私が砂漠エリアのアイコンをタップすると、画面にタイヨウくんの顔が表示された。


 た、タイヨウくん……可哀想に。


 砂漠なんてとんでもエリアに1人でサバイバルさせられるなんて……サバイバルにおいて、単独行動は危険だ。3人まとまって行動した方が安全だろうし、タイヨウくんを迎えにいきたいところではあるが……まぁでも彼なら大丈夫か!私の位置からだと湖沼エリアの方が近いし、先にヒョウガくんと合流しよう。決して砂漠に行きたくないからではない。そう、決して。


「うっひょー!弱そうなネクラはっけーん!!」


 方針を決め、地面に書いた文字を足で消していると、頭上から頭の悪そうな声が聞こえた。


 やべっ。さっそく敵に見つかってしまった。……まぁ、こんな所で堂々と立っていてバレないはずがないか。


 私は逃げるのを諦め、何処から来るのかと周囲を警戒した。


「俺ってばついてるぅー!」


 ガサガサと葉の擦れる音とともに、ニタニタと嫌な笑みを浮かべた少年が木の上から降ってきた。


「俺とポイントをかけて戦おうぜ?ネクラちゃん!」


 少年が腕輪を構えると、腕時計型端末が光り、私の腕輪が勝手に作動した。


 ……なるほど、マッチを挑まれたら拒否権はないのか。じゃあバトルフィールドの装置がある場所までこの少年と一緒に移動するのだろうか?


「賭けるポイントは3ポイントでいいよな?いいだろ!」


 了承していないのに、勝手に賭けポイントが3ポイントになり、バトルフィールドの魔方陣が足元に現れた。


 え!?な、なんで!?装置も、マナ使い同士のマッチでもないのに、なんでバトルフィールドが現れんの!?もしかしてダビデル島全域がバトルフィールドになるということか!?何?サバイバルってそういう事なの!?


「俺に見つかったのが運の尽きだったなぁ!お前のポイント!俺が根こそぎ奪ってやるぜぇ!!」


















「影鬼!!凝血暗鬼で犬神を攻撃!!」

「きゃいん!!」


 影鬼の攻撃が決まり、マッチの勝敗が決まった。少年は目を回しながら倒れ、私の持ちポイントは6になった。


「くっそ!!覚えてろよ!!」


 少年は捨て台詞を吐きながら去っていく。


 無事に撃退する事ができたが、次も勝てるとは限らない。今回は1人だったが、多人数で襲われでもしたらたまったものではない。


 周囲でもマッチが始まっているのだろう。マッチ特有の魔方陣の光が見え、バトルの音も聞こえた。これだけうるさいなら私のマッチの音も聞かれているはず。


 新たな敵に見つかる前にこの場から離れようと湖沼エリアに向かって走った。


 速くヒョウガくんと合流しなければと急いでいると、腕時計型端末が震えた。今度はなんだと端末を見ると、ヒョウガくんからの通信のようだった。


 この端末通信機能があるのか。これで合流が楽になるなとヒョウガくんからの通話をONにする。


「ヒョウガくん、今どこにーー」『影薄!!無事か!?』


 う、うるせぇ。声の大きさを考えて欲しい。何でこんなに焦ってんだこの人。


『お前今どこにいる!?』

「ちょっ、ヒョウガくん!もうちょい声落として!敵に見つかる!」

『す、すまん……』


 声の大きさを指摘すると、ヒョウガくんは素直に謝り、声量を抑えた。


「私は森林エリアにいるよ。ヒョウガくんは湖沼エリアだよね?」

『!……わかるのか?』

「端末の機能だよ。メニュー画面からいけた」


 私が見つけた機能について話し、ヒョウガくんからも通信機能の説明を受けながら、木々でなるべく姿を隠すように走る。


「今そっちに向かってるんだけど、落ち合う場所はどうする?」

『俺が向かう。お前は隠れてろ』

「お互いに向かった方が速いでしょ。それに、橋付近は警戒した方がーー」

『交戦しただろう』


 何で私がマッチした事を知ってるんだよと疑問を抱くが、あぁ、そういえばと合計ポイントだけじゃなく、チームメンバー個人のポイントも見れた事を思い出した。


 私のポイントが増えたからマッチした事が分かったのか。もしかして、私が負ける事を懸念して連絡してきたのか?いやでも、私の実力に関しては過剰な評価をしてくれてるみたいだし、それはないか。じゃあ何で通知をONにした時、あんなに切羽詰まったような雰囲気だったのだろうか。



精霊狩りワイルドハントが何処に潜んでいるか分からない。痣もあるんだ。無理をするな』



 そうだった。ヒョウガくん、私の痣めちゃくちゃ気にしてるんだった。この件については、彼は絶対に譲らないだろう。このまま続けても水掛け論になりそうだし、ここは私が折れた方が良さそうだ。


『お前は単独行動をするな。俺が迎えに行くまで隠れていろ』

「……分かった。じゃあ適当な場所で待機してるよ」

『あぁ、そうしてくれ。直ぐ行く』


 

 通信が切れたのを確認し、画面をマップに変える。森林エリアの地図を拡大させ、隠れるのに適した場所を探す。


 すると、先程まではなかったが、仲間の位置を示すアイコンとは別に、VSと書かれた魔方陣のようなマークが表示されていた。もしや、このマークは現在、マッチが行われている場所を指しているのだろうか?


 ならば、私の近くでもマッチが行われているようだし、早くこの場から離れよう。それに、他のチームも私達と同様にバラバラになっているのであれば、エリア間での移動に橋を使うことは必須。会敵を避けるならば、橋周辺も気を付けた方が良いだろう。


 マップを操作し、人が少なそうな場所に当たりを付け、その場所に向かう事にした。
















 蔦と葉に隠された、潜伏するのに良さそうな洞窟を見つけた私は、洞窟の中に入り、蔦を引き寄せ、出入り口を完全に封鎖した。


 念には念をと影法師を実体化させ、敵がきたら直ぐに知らせるよう見張りをさせる。


 これで暫くは大丈夫だろうと安堵し、走り続けて疲れた足を休めるように座った。



 これで暇になったなと、これからどうするかと考え、ふと、クロガネ先輩からのプレゼントの存在を思い出した。


 レッグポーチから手のひらサイズの小箱を取り出し、くるりと回して全体を見る。


 ……この軽さとサイズ感、指輪っぽいんだよなぁ。プレゼントに指輪とか重すぎるだろ。いやでも、いくら先輩でも流石に異性の友人へのプレゼントに指輪をチョイスする訳が……ないと言いきれないのが怖い。あの人の独占欲が日増しに酷くなっているのを実感してるから完全否定が出来ないのが辛い。


 これがただの私の自意識過剰な考えならばいいのだが……え?大丈夫?この箱開けても大丈夫なの?受け取ってしまった手前、放置したら後で絶対に面倒な事になる。


 放置した後と、箱を開けた後の先輩の行動を天秤にかけ、後者の方がマシだと判断した私は、覚悟を決めて箱を開ける事にした。


 ええいままよと包装を解く。恐る恐る、どうか常識の範囲内の物であってくれと思いながら箱を開くと、中に入っていたのは指輪ではなく、イヤーカフが一つ入っていた。


 イヤーカフはブラックにシルバーのラインが入ったシンプルな物だった。ワンポイントに埋め込まれた赤い石の中には、魔方陣のようなものが描かれている。


 先輩を彷彿とさせるようなデザインだなと思いつつ、指輪でなかった事に安堵してイヤーカフを手に取った。


 この魔方陣は何だろうか?ただの模様か?それともマナ関連か?


 取りあえずマナを流してみるかとイヤーカフに向かってマナを送る。すると、一瞬だけイヤーカフに埋め込まれた石が光ったかと思うと、通信のノイズのような音が流れた。


 


『サチコか!?プレゼント受け取ってーー』



 突然聞こえた先輩の声に驚き、マナを送るのを止めた私は悪くないと思う。

 

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