ph17 五金親子の会話ーsideシロガネー


 僕とタイヨウくんは運命的な出会いをしたんだ。


 きっかけは些細な噂だった。僕と同じ年で、どんな逆境でも絶対に勝つサモナーがいるというものだった。


 普段ならそんな眉唾な話を気にする事はなかったのに、何故か妙に気になった。だから、僕は噂の真相を確かめるべく、タイヨウくんにマッチを挑んだ。


 最初は僕の優勢だった。けれど、本気を出していなかったとはいえ、絶体絶命な状況で噂通りたった1枚のカードで逆転し、僕は初めて敗北したんだ。


 それから、あの奇跡がまぐれかどうかを見極める為に、タイヨウくんの関わる事件について行った。


 結果は……タイヨウくんの噂は本物だった。どんなに危機的状況に陥っても、誰もが無理だと諦めても、彼だけは絶対に諦めず、必ず勝利を掴むんだ。


 そして僕は悟ったんだ。他が為に行動し、絶対的な勝利をもって救う彼は、きっと神が地上に遣わした救世主メシアなのだろうと。運命は彼を勝利へと導くことを望んでいる。僕が彼の噂を聞いて興味を示したのも、彼を支えろという神の啓示だったのだ。



 だから僕は、タイヨウくんにSSCに一緒に出てくれと言われた時、天にも昇るような気持ちになった。


 彼が僕を頼りにしてくれている。彼は僕を必要としてくれているんだ。その事が嬉しくて二つ返事で快諾した。……氷川ヒョウガと影薄サチコもいたのは不服だったけれど。


 そして、待ちに待った大会当日。タイヨウくんが遅刻した。すぐに迎えに行きたかったが、タイヨウくんはこの大会を楽しみにしている。僕がいなくて予選敗退にでもなったら彼は悲しむだろう。


 そんな事は許されない。彼の憂いは全て僕が排除するんだ。大丈夫。彼はきっと無事に会場にたどり着ける。


 そう心を落ち着かせ、彼が大会に出るために必要なチームを守らなければと、会場に残っていたのだが……。


 嬉しい誤算があった。影薄サチコが思ったよりも使えそうだったのだ。彼女の言う通り、彼女の実力なら予選程度の奴等なら問題ないだろう。気に入らない彼女の提案に乗るのは癪だが、タイヨウくんが心配だったので致し方なく受け入れる事にした。


 ミカエルを呼び出し、空からタイヨウくんを捜す事数分、タイヨウくんが見知らぬ少年に襲われているのを発見し、僕はタイヨウくんを守るため、内心慌てながら彼の前に躍り出た。


 神は彼に絶対的な勝利を与えるが、同時に様々な試練を課している。彼を迎えに行って正解だった。


 

 精霊狩りワイルドハントと名乗った男、火川エン。奴は僕と同じ能力を使っていた。三大財閥の血族のみが知っている力。マナを操る力だ。


 マナを操る力を潜在的に持っている者は、カードの精霊を実体化させ、加護持ちとなる。しかし、世間一般的にその力を公表していない。混乱を避けるため、三大財閥で管理しているのだ。それなのに、あの少年は僕と同じ力を自由自在に操っていた。


 これは由々しき事態である。今すぐ父上に報告しなければならない。しかし、あの少年に襲われたタイヨウくんをこのまま放置して行く事なんて出来なかった。


 タイヨウくんは大会に出たそうにしている。でも、またあの少年が襲ってきたら?マナを知らない彼は危険な目に合うかもしれない。


 僕は悩んだ末、タイヨウくんも父上の元へと連れていく事にした。





 サモンマッチ協会公認のサモナー犯罪対策組織“サモンユニオン”とは別の、父上が設立したサモナー犯罪対策特別自警団体“アイギス”の施設に移動し、父上の書斎へタイヨウくんと共に向かった。


「父上!!」


 僕が書斎の扉を開けて部屋に入ると、父上は此方をチラリと見たが、直ぐに視線を書類に戻した。


「……騒々しいぞ」

「すみません。父上。ですが今すぐお伝えしたい事があるんです」


 父上は無言のまま書類に目を通しているが、僕は構わず続けた。


「マナ使いが現れました」


 父上の眉がピクリと動いた。


「その者の名は火川エン。精霊狩りワイルドハントという組織に所属しているピンク色の髪をした少年です」


 父上は書類を置いて此方に視線を向けた。どうやら話を聞いてくれるようだ。


「少年の詳しい目的は分かりません。しかし、精霊を狙っているようで、ここにいる彼が被害に合いました。最近起こっている精霊誘拐事件にも関与している恐れがーー」

「ちょぉぉっと待てよ!!」


 僕が父上と話していると、タイヨウくんが両腕を広げながら僕の目の前に立った。


「どうしたんだい?タイヨウくん」

「どうしたんだい?じゃねぇよ!俺、さっきから展開についていけねぇんだけど!!取りあえず、マナ使いって何なんだ?精霊誘拐事件って何の事だ?」


 連れて来たのは僕だが、タイヨウくんの問いに答えて良いものかと父上の方を見る。すると、父上はジロリと冷ややかな目でタイヨウくんを睨んだ。


「貴公は知らなくても良いことだ。シロガネ、つまみ出せ」

「なっ!?そんな言い方しなくてもいいだろ!……です!」


 タイヨウくんはあまり丁寧な言葉を使い慣れていないのだろう。とってつけたような敬語に、いつもならクスリと穏やかな気持ちで笑っていたが、今の僕にそんな余裕はなかった。父上とタイヨウくんの間で板挟みになり、反応のすることができない。


 父上は動かない僕を見て、此方に向けていた視線をまた書類に戻して口を開いた。


「……精霊狩りワイルドハントなら既に知っている。最近の精霊に関する事件も奴等の仕業だ」


 父上の言葉に少し驚くが、同時に納得した。父上は五金家としてサモンマッチ規約に厳格なのだ。三大財閥における最大の秘密と言っても過言ではないマナに関する事で、見逃す事はないだろう。精霊狩りワイルドハントについて知っていても当然と言える。


 僕はアイギスの一員として何らかの命令が下るだろうと、父上を見つめた。しかし……。


「……が、子供には関係のない話だ。忘れろ」


 父上の言葉は予想とは違っていた。


 まるで僕に期待していないと言うような冷淡な……延々とした口調に、僕も兄と同じように捨てられるのかと不安になり、俯いた。


「……シロガネ」


 消沈していた僕は、父上に名を呼ばれすぐに顔を上げた。やはり精霊狩りワイルドハントに関する命令を何かしら下さるのだろうと待望していると……。



「クロガネに戻ってもいいと伝えろ」

「なっ、んで……あの落ちこぼれを!!……あんな奴いない方がマシだ!!父上だってそう言っていたじゃないか!!五金の癖にマッチも弱い、マナすらもまともに扱えない役立たずだって!なのにどうして!」


 しかし、父上の言葉は更に僕を追い詰めた。アイギスとして、父上の息子として何か手伝える事があればと期待していたのに、聞きたくもない愚兄あにの名前が出てきて狼狽えた。




「……あれにも五金の血は流れていたらしい」


 そう言うと、父上は机の上に置いてある書類を投げた。その書類を拾い上げ、内容を確認すると、愚兄あにの最近におけるサモンマッチに関するデータであった。


 そして、そのデータに驚愕する。


 あの愚兄ぐけいは、五金家を追い出されてから様々な大会や学園内の成績において、著しい成果を見せていた。


 これは、本当に愚兄あにの業績なのか?


「何があったのかは知らんが、最近のあれには目覚ましいものがある。もう一度五金の血族としての機会を与えるのも悪くはない」

「……っ、ですがアイツは!」

「シロガネ」


 父上の有無を言わせない声に僕は黙り込む。



「…………わかり、ました……」


 僕は父上の言葉にしぶしぶ了承した。そして、僕が大声を上げた事で困惑しているタイヨウくんに優しく声をかけた。


「タイヨウくん、ごめん……行こうか」

「え、あ……お、おう……」


 タイヨウくんは僕と父上の顔を見比べた後、口をモゴモゴと動かしていたが、何も聞かず無言で僕の後をついてきてくれた。








「……シロガネ、大丈夫か?」


 書斎から出て数歩ほど歩くと、タイヨウくんは心配そうな声で問いかける。僕はそれに力なく笑って答えた。


「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう……僕の都合に付き合わせてごめんね」


 僕はタイヨウくんにそっと手を差し出す。


「さ!サモンアリーナに向かおう!今なら予選に間に合うかもしれないから」


 タイヨウくんは戸惑いつつも、僕の手を握った。









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