ph13 サチコの提案
話し合いの結果、どちらが大将になったのかと確認すると、二人は罰の悪そうな顔して視線を反らした。
……まさかまだ決めてなかったのか?
二人の強情さにうんざりしつつ、私はもしもの為に考えていた妥協案を提示する事にした。
「……分かりました。それではヒョウガくん、君が中堅として出場して下さい」
「っ、なんで俺がーー」「そして、シロガネくんはタイヨウくんを迎えに行って下さい」
ヒョウガくんの文句を最後まで言わせないように言葉を被せ、シロガネくんを見る。
「シロガネくんは五金家でしょう?それなら先輩と同じように、精霊の公共場所における能力の使用許可が降りているのでは?」
「……まぁ、ライセンスは持ってるね」
普通なら能力の使用許可とかライセンスとか何言ってんだと思うだろう。実際私はそう思っていたし、影法師と出会うまではカードゲームで凶悪犯罪が起こることに疑問しかなかった。何故カードで銀行強盗が出来るのか意味が分からんとね。
しかし、影法師と出会い、その能力を目の当たりにし、なるほどそういう事かと否応なしに納得せざるおえなかった。
この世界において、加護持ちのサモナーはサモンマッチ協会から許可が降りないと、精霊の能力を公共場所で使用出来ないのだ。実体化まではいい、しかし、精霊の能力は人間にとって脅威であり、加護持ちだからと言って全員が善人なわけではない。精霊は、サモナーとして能力が優れていれば誰にでも現れる生命体だ。当然、その力を利用して悪事を働く者もいる。それを取り締まる為、三大財閥……特に五金家はサモンマッチ協会においても独自の自警団組織を持ち、積極的に取り締まっている。
五金家であるシロガネくんなら当然の如く精霊の能力使用許可証を持っているだろうと思っていたが、私の予想は当たっていたようだ。
まぁ、コイツ学校で普通に能力使ってたしな。ライセンスがなければ完全にアウトだ。
というか、コイツ私に精霊使って危害を加えてたよな?君取り締まるんじゃなく取り締まられる側じゃね?お巡りさんこの人です。……私?私はあの時正当防衛が適応されていたからセーフなんだよ。
「それなら精霊の能力を使ってタイヨウくんをさっさと連れて来て下さい。私の実力は分かったでしょう?貴方がいなくとも予選ぐらいなら通過できます。……ヒョウガくんが負けなければの話ですが」
「貴様誰にモノを言っている!俺が負けるはずないだろう!」
「……だ、そうですので安心して迎えに行って下さい」
シロガネくんは少し思案する素振りを見せるが、ゆっくりと立ち上がると、私達に背中を向けた。
「分かったよ。僕はタイヨウくんを迎えに行く」
シロガネくんは数歩歩いて出口にたどり着くと此方を振り向き、射抜くような目で私を見た。
「負けたら許さないよ」
そう言い残すと、コツコツと足音を立てながらタイヨウくんの元へ向かった。
……いや、そう言うならさっさと行けよ。何のんびり優美に歩いてんだ。もっと全力疾走していけ
私はシロガネくんの背中をジト目で見送ると、ヒョウガくんの方へ視線を向けた。
「それで?私達二人しかいないのに、ヒョウガくんは今さら大将が良いなんて言いませんよね?」
ヒョウガくんは無言で立ち上がると会場の方へと歩き出した。そして、私の横を通りすぎる瞬間、此方を見ずに口を開く。
「止むを得えんからな、貴様の案に乗ってやる……負けたりしたら許さんぞ」
「それは此方の台詞です」
「……ふん」
ヒョウガくんはもう言いたい事はないという風に、さっさと会場内に入って行った。そして、バトルフィールドの上に立つ。
当初の予定では、補欠のまま楽して賞金を獲得するつもりだったのだが、これでは無理そうだ。それに、最悪の場合来る道中に何らかの事件に巻き込まれて更に遅れる可能性もあるため、SSCの予選は私とヒョウガくんで勝ち残るつもりでいた方がいいだろう。
でも、まぁ。遅刻ハプニングというものは、アニメにおいて大体1回ぐらいしかないのだ。ここさえ乗り切れば本選では楽できるだろう。選手控え席に座って賞金が手に入ったら何を買おうかと考えつつ、ヒョウガくんのマッチを見学する体勢になった。
『さぁ波乱の先鋒戦だったが次はどうなる?中堅の選手はバトルフィールドへ!!』
ヒョウガくんと対峙するように、相手チームのメガネをかけた軍服の少年が立った。
『おおっとぉ?チームアーミーもう後がないと判断したのかぁ?チームを導く司令塔!チームの要のコマンダー!
頭野イセキは、メガネをクイッと上げる。
『対するチームタイヨウは俺に触れると霜焼けするぜ?熱い氷を胸に秘める男!
さっきから思うがこの選手紹介は何なんだ?自己申告して言わせているのか?それとも実況の主観か?……まぁ、ヒョウガくんの性格を鑑みるに、霜焼けするぜとか言いそうにないから後者かな……どうか後者であって欲しい。前者なら痛すぎる。
『それじゃあお互いのモンスターを召喚だぁ!!』
「敵を凍てつくせ!コーリング!コキュートス!ジャックフロスト!!」
「貴方は私の策からは逃れられない!コーリング!アーマーソルジャー!アーマーコマンダー!!」
レベル3のコキュートスが、ヒョウガくんに答えるように「ゴー」と鳴く。どうやら彼の精霊はコキュートスのようだ。
……そんなことより、召喚前の口上が気になったが、そういうお年頃何だろうと気にしない事にした。
実況の蟻乃ママヲが空に指を差すと観客に呼び掛けるために大きく息を吸った。
『またまた皆さんご一緒に!!』
『レッツサモン!!』
蟻乃ママヲが腕を振り下ろすと同時に、マッチが始まった。
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