ph11 クロガネ先輩とデッキ強化と


 タイヨウくん達に大会に誘われた翌日、ちょうど休日だったので、私はSSCに向けてデッキを強化しようと、いつもより遠くにある大規模なカードショップに来ていた。そして隣には不機嫌なクロガネ先輩。


 SAINEで何時も通りの文章でマッチしようぜと朝に連絡が来たので本日の予定を伝えたところ、俺も行くと付いてきたのだ。そして、突然デッキ強化する事になった理由を聞かれ、正直に答えたところこの有り様である。


 あの、横でイライラするの止めてくれません?気まずいんですけど?


「先輩。別に1人でもカード買えるんで、無理して一緒にいなくてもいいんですよ」

「うるせぇ。無理してねぇよ」


 先輩の苛立ちの原因は分かっている。私がクロガネ先輩を差し置いてシロガネくんとチームを組んで大会に出るからだ。どうやら五金兄弟は揃いも揃って友人に対する独占欲が強いらしい。勘弁してくれ。


 私はため息をつきつつ、闇と影属性のパックを手に取る。


 私の影法師と影鰐の属性はどちらとも影、闇、妖怪3つだ。サモンマッチでは、サモナーが使える魔法カードや道具カード、装備カードといった補助カードは、召喚したモンスターの属性しか使えない。その為、モンスターの属性が幅広いほど沢山のカードが使える。ただし、自分のモンスターに反映させる装備カードや魔法カードは、そのモンスターの属性に対応しなければ使用できないため、召喚するモンスターの3つある属性のうち、一つは合わせるのが鉄板だ。


 私が影と闇、どちらのパックを多めに買おうかと悩んでいると、クロガネ先輩は、炎、地獄、獣の最新パックの入ったBOXを手に取っていた。

 こ、こいつ…箱買い…だと…!?


「何悩んでんだ。さっさと取れよ」


 この金持ちの坊っちゃんめ……。

 格差社会に歯噛みしつつ、闇属性のパックを多めに取った。





 会計を済ませ、この後どうしようかと思案していると、先輩から「おい」と声をかけられる。


「お前、これからデッキ組むんだろ?調整はどうすんだ」

「そうですね。取りあえず、使えそうなカードがあれば導入してみて5切りして微調整をしようかと」

「実際にマッチして回した方がいいんじゃねぇのか?」

「まぁ、それができるならありがたいですが」

「だったら……」


 クロガネ先輩は、人差し指で頬を掻きながら視線を反らした。


「俺の家で一緒に組まないか?」

「遠慮します」


 私の即答に先輩は不満そうな顔をする。


「……何が嫌なんだよ」

「だって先輩の家って五金財閥でしょう?そんなお家お邪魔したら気後れしますし、何よりシロガネくんとは会いたくないです」


 私が心底嫌そうにシロガネくんと会いたくないと言うと、クロガネ先輩の機嫌が少し良くなった。


 お前…本当に分かりやすいな。


「実家じゃねぇから安心しろよ。俺、一人暮らししてんだ。アイツは本邸にいるから会うこともねぇよ」


 クロガネ先輩は何てことないように言うが、私はさらっと言われた内容に困惑した。


 一人暮らし?えっ、中学生で一人暮らししてんの?いや、法律上問題はないが、これは一人暮らししているのか、のかでニュアンスが変わってくるぞ。


 私が思わず黙ってしまうと、先輩は私の頭をくしゃりと撫でた。


 私が先輩の一人暮らしについて懸念を抱いたことが分かったのだろう。先輩は心配すんなというように表情をやわらげた。


「俺から言い出したんだ。気にすんな」

「……そうですか。」


 嘘か真実かは分からないが、先輩がそう言うのならば、そうなのだろうと気にしないことにした。


「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
















 そして私は今、先輩のマンションにお邪魔させて頂いているが、ここでも格差社会を感じ顔がひきつった。


 ここまで来る道中、どんなマンションかと聞いたら普通の2LDKと言っていた時点で良いとこ住んでんなと思っていたが、これは普通じゃない。絶対家賃トリプルスコアは叩き出している。


 マンションの外観から凄かったからね。絶対一般人は住めねぇよ。


「狭くて悪いな、適当なとこ座ってろ」


 狭い?これが狭いだと!?お前の基準はどうなっている!それとも日本人特有の謙遜で言っているのか!?そういう過ぎた謙遜は嫌味に聞こえるんだが!!


 先輩がお坊ちゃんであることを再認識しつつ、床を傷つけないかと恐る恐る部屋を歩いた。


 部屋のリビングに入り、ふかふかのソファーに腰を下ろすと、ダイニングキッチンに立った先輩が、ケトルで水を沸騰させながらこちらを振り向いた。


「お前、門限とかあんのか?」

「一応夕方の6時までです」

「じゃあ5時30分になったら送る。コーヒーと紅茶どっちがいい?」

「こ、紅茶で」

「砂糖とミルクは?」

「ミルクだけでお願いします」


 先輩は慣れた手つきで紅茶を入れると、御茶請けにスコーンも用意して持ってきた。


 先輩に食えよと進められ、頂きますと手を合わせ、出されたミルクティーを一口飲む。すると、あまりの美味しさに衝撃を受けた。


 え?何これうまっ!!こんなに美味しいミルクティー始めてなんだが!?


 私は先輩の紅茶の腕に感動しつつ、スコーンも食べた。バターの風味とミルクが絶妙に混ざり合い、お互いの旨味を引き立てている。そこにスコーンに入っているチョコの余韻が口の中で広がり震えるほど美味しい。


「あの、先輩」

「あ?」

「このスコーン物凄く美味しいです。どこで買いました?」

「…あー……」


 先輩は言いづらそうに口ごもる。そして心なしか顔が赤くなっているようだ。

 おい、もしかしてその反応はもしかするのか?


「…………俺が作った」


 ギャップぅうぅぅぅ!!え?なんなん?先輩どうした?普段悪ぶってる癖にお菓子作りが得意とか君はどこを目指してるの?ちょっと君のキャラ迷走してません?私もうついて行けないんですが!!


 私が思わず先輩を凝視していると、先輩は恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながら頭を掻きむしる。


「あんま見んなよ!スコーンぐらい誰でも作れんだろ!!おら、デッキ調整すんぞ!」


 先輩は照れ隠しのように勢いよく紅茶を飲み干すと、買ってきたBOXを机の上に置いた。






 私と先輩は向かい合いながらデッキを組み、ある程度まとまるとプレイマットでマッチをするという行程を繰り返していた。


「地獄の判定で影法師のモンスター効果を無効。そのままブラックドッグで攻撃」

「あぁ!また負けた!」


 私は頭を抱えながら項垂れる。


「…お前、デッキの回り悪くなってんぞ。さっきも事故ってたし無理にそのカード入れる必要ねぇんじゃねぇのか?」


 先輩の言うそのカードとは、闇属性パックに入っていたモンスターの攻撃力を上げる効果をもつ魔法カードの事だ。


「いやでも、私の弱点って火力が少ないとこじゃないですか。手元に釜がないと相手の展開防げないですし、高レベルモンスターの火力のゴリ押しに勝てないんですよ」

「なら、こっちの相手のMP奪うカード入れりゃいいじゃねぇか。さっきそっち使ってりゃ地獄の判定防げただろ」

「あまり入れすぎると相手のMP依存になるからそれはそれで展開しずらいんですよ。それに、結局じり貧になりますし、複数召喚する相手なら影鰐の範囲攻撃が火を吹きますが、単体だと本当にきついんです」


 私の言い分を聞いた先輩は、少し考え、ちょっと待ってろと席を離れると、一枚のカードを持って戻ってきた。


「火力の上げ方は別に魔法カードだけじゃねぇだろ」


 そう言うと、先輩は持ってきたカードを私に差し出す。反射的に受けとり、カードを確認すると、それは影鬼というレベル3のモンスターカードだった。


「やる」

「え!?そんな、悪いですよ!」


 少し年季を感じさせるカードだが、傷もなく、スリーブに入られ、とても大事に保管されていた事が一目で分かった。

 これはさすがに貰えないと先輩に返そうとするが、頑なに受け取らない。なので、適当に机において帰ろうかと考えてると、その思考を呼んだのか先輩はジト目でこちらを見た。


「持ってても俺は使わねぇんだよ。ならお前にやった方がいいだろ」

「いやでも…」

「…それ、俺が昔使ってたんだよ」


 どうやっても受け取ろうしない私に、先輩は罰が悪そうに胸の内を明かし始めた。


「……お前の初めては俺が良かった……が、決まっちまったもんは仕方ねぇ…だからせめて、俺の代わりにソイツを持っていってくれ……別に使わなくてもいい、ただお前に持っていて欲しいんだよ」


 言い方に物凄く問題はあるが、クロガネ先輩の気持ちは伝わった。それで彼の気が済むならと私は受け取る事にした。



「……分かりました。大事に使わせて頂きます」


 私がそう言ってカードをデッキケースにしまうと、先輩は満足そうに笑い、時間も時間だからと送っていくとブラックドッグを呼び出した。


 ブラックドッグは先程まで眠っていたのだろう。欠伸をしながらダルそうに口を開いた。


「んだぁ?逢瀬は終わったのか?ご主人様」

「あぁ、サチコを送る」


 先輩は机の上のカードを片付けると、ブラックドッグに実体化をするように指示して玄関に向かった。


 いや、何逢瀬発言スルーしてんだ。ちゃんと否定してくれよ。今回は2人だけだったから良かったものの、誰かに聞かれるとあらぬ誤解を受けるんだが?


 そう思うものの、そもそもクロガネ先輩の発言事態がアレな事を思い出し、これから先輩と会う時は周りの目に気を付けようと再認識しながら私も先輩を追いかけた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る