第1章 出会い編

ph1 転生者は異世界を受け入れる

「地球は一度粉々になってしまいましたが、一枚のカードが新たな地球を創造し、今のネオアースが誕生したのです」

「先生、ちょっと何言ってるか理解できません」


 そう真顔で発言した小学1年生の夏、私はクラスメイト達に変な奴を見るような目で見られ、先生から困った顔で微笑まれたという苦い思い出が忘れられない。


 目が覚めたら赤ん坊になっていた。よくあるネット小説の話だが、私はそれを現在進行形で体験している。私の前世はごく普通の社会人であり、特に死んだ記憶はないのだが何故か赤ん坊になっていた。

 前の世界に戻ろうにも方法なんて分からないし、諦めて今の世界を応化しようとしたところとんでもねぇ常識をぶっ混まれた私の心情を誰か理解して欲しい。


 この世界はカードゲームが全てであり、カードゲームが当然のように義務教育に組み込まれている。

 警察も犯人を捕まえるのにカードゲームするし、裁判の判決をカードゲームに委ねるなんてのもざらにある。

 被告!裁判官と勝負の末無罪を勝ち取る!!なんてニュースが流れた日は、ちゃんと裁判しろよこの世界の司法はどうなってんだと本気で思ったものだ。


 このように全てがカードゲームを中心に回っており、貧富の差もカードゲームの強さに直結していたりする。カードゲームが強い奴が優遇される。そんな意味の分からない世界なのだ。


 この世界の中心になっているカードゲームの名前はサモンマッチと言い、プレイヤーはサモナーと呼ばれる。最初にモンスターを召喚し、その召喚したモンスターを全て倒した方が勝ちというシンプルなゲームだ。


 召喚出来るモンスターにはレベルがあり、その合計が5になるように召喚しなければならない。なので、レベル1二体とレベル3一体とか、レベル5一体のみ召喚など自分の戦闘スタイルに合わせて様々な組み合わせがある。

 そのモンスターを補助する為のカードは道具カード、装備カード、魔法カードの三種類あり、その三種類のカードを50枚前後で構成した山札をデッキと言い、このデッキを駆使して戦う。

 因みに、モンスターの行動と魔法カード、一部の装備カードを使用するにはMPが必要であり、このMPは最初のターンにお互いに5ポイント付与され、自分のターンがくる毎に3ポイント回復する(ただし、最初の先行ターンでは3ポイントの付与はない)そして、最高10ポイントまで溜めることができる。

 レベルの高いカードほどMPのコストがかかるため、サモンマッチではMPの運用方法が重要になってくるのだ。


 と、ここまでサモンマッチのルールを説明したが、私は前世でカードゲームなんてやったことはなく、カードゲーム系のアニメなども視聴したことはない。こういうのって普通カードゲーム強い奴が転生して最強ムーヴかましたり、カードゲーム系のアニメオタクが知ってるアニメに転生して奔走するのが定石ではないのか?何故よりにもよって、カードゲームのカの字すら知らない私がこんな世界に転生したのか理解に苦しむ。


 まぁ、現状を受け入れた手前、この世界に適応するべく努力はしている。主には…。


『おい!マスター、ヒマだ!かまえ!』


 この私の影と同化している目付きの悪いお化けみたいなよく分からん生物を相手にする事とかかな…。


 ため息を付きたい気持ちを飲み込み、私は自分の影を見た。


「分かったから声音を落として、影法師」


 よく分からん生物こと影法師は、ウヒヒと笑いながら影から飛び出し、私の背中に抱きついた。


『マスター!マスター!ぎゅー!』


 影法師にしっぽが付いていたら盛大に揺らしているだろうと分かるほどご機嫌である。何がそんなに楽しいのかと疑問に思いつつも頭を撫で、影法師の会話に適当に相槌を打つ。影法師が何かって?カードの精霊だよ。え?カードの精霊って何なのって?うるせぇ知らねぇよ。カードには希に精霊が宿ってんだよ。そういうもんだ察しろ。


 精霊が宿っているカードを持っているサモナーは加護持ちと言い、精霊は強いサモナーか、将来性のあるサモナーにしか現れない為、加護持ちと言うだけで一目置かれる。

 授業でサモンマッチをする度、お前加護持ちか!みたいな反応を飽きるほどされたわ。


 ふと、窓ガラスに映った自分の顔を見る。生気のないジト目に、鬱陶しいほどの長い前髪と腰まで伸びている紫がかった黒髪。もう見慣れた容姿だが、影薄かげうすサチコという名にこれ程ピッタリな容姿はないだろう。名が体を表しすぎている。


 もしもこの世界がカードバトル系のアニメの世界だったとしたら、私はどんな立ち位置にいるのだろうか。ただのモブなら問題ないが、こんな特徴的な見た目のモブはいるのだろうか?それに只のモブが加護持ちなんて大層な者になれるのだろうか?こういったキッズアニメはあまり観ていなかったから判断するデータが少ない。


 ただ、キッズアニメなら私みたいなキャラは主人公の可能性は限りなく低そうだから安心だ。主人公はさっき怒谷くんと戦っていた赤い髪の晴後はれのちタイヨウくんみたいな熱血漢が相応しい。それで、ヒロインはピンク髪の打上うちあげハナビちゃんだろう。


 あの二人は私の学年では有名な幼馴染みだ。タイヨウくんは加護持ちでサモンマッチが強く、更に彼は困っている人を見たら放っておけない性格で、よく人助けをしているため男女関係なく慕われている。


 ハナビちゃんは学年のマドンナ的存在の美少女だ。ハナビちゃんがタイヨウくんに片想いしているのはタイヨウくん以外には周知の事実であるが、それでも彼女に淡い恋心を抱いて散っていった男子は多いと聞く。


 そんな目立つ二人と私はクラスメイトであるが、今まで関わった事はほぼない。話したとしても、委員会の用事や業務連絡程度で私的な会話は一切ない。学校で何らかの騒ぎがあった場合、この二人は常に中心人物となっている。関わったら最後、録なことがないだろう。このまま関わりなく平凡に過ごしていこうと思っている。
















 と、思っていた時期が私にもありました。

 目の前にはタイヨウくん。周囲には沢山のギャラリー。そして何故かサモンマッチのバトルフィールドに立っている私。


「サチコ!お互いに正々堂々戦おうぜ!!」


 やめろバカ。気安く下の名前で呼ぶな。小学生特有の距離の詰め方をするな。私はお前と仲良しこよしするつもりはないんだよ!!


 ニコニコと圧倒的光属性の笑みで話しかけられ、どうしてこうなったと痛む頭を押さえながらこれからの行動について思考する。


 こうなった状況を簡単に説明するならば、サモンマッチを心から楽しめていない私を心配したタイヨウくんの善意の暴走である。

 彼の言い分を要約すると、サモンマッチは楽しい!それを全力で楽しめないのは可哀想だ!じゃあ俺がサモンマッチの楽しさを教えてやるからマッチしようぜ!ということだ。

 正直ふざけるなと言いたい。それはお前の価値観であって私がどう思おうとも自由だろ。楽しめない=可哀想とか極論がすぎる。モラハラで訴えるぞ。


 ぶっちゃけ逃げ出したいが周囲のギャラリーのせいで外堀が完全に埋められている。加護持ち同士のマッチは最高の見世物であるため、ギャラリー共はマッチはまだかと目をランランに光らせて待っている。


 ……ここで勝負を断ったら明日からの学校での立場は悪くなるだろう。小学生とは空気の読めない奴に対して厳しい。集団に上手く混じれない奴は淘汰されやすいのだ。


 いや別に腰抜けとか陰口を言われる程度なら全然平気なのだが、陰口から暴力的な虐めに発展するならば大問題だ。カードという凶器を持っている奴らから虐められると只ではすまないだろう。下手すりゃ病院生活だ。そんなのごめん蒙る。私は平穏に暮らしたいのだ。無駄なトラブルはないに越したことはない。このマッチをする事で今後の学校生活が約束されるのならば安いものだ。それで、勝敗がどうであれマッチが終わった後にサモンマッチ楽しい的な発言すれば全て丸く収まる。


 私は深呼吸して心を落ち着かせると、タイヨウくんと視線を交わらせた。


「……いいよ、やろう。サモンマッチ」





 大きい長方形のど真ん中に大きな魔方陣があり、その魔方陣と長方形の短辺にかかるように小さめの魔方陣が描かれている。

私は小さめの魔方陣の上に立つと、逆方向の魔方陣に立っているタイヨウくんと向き合った。

 お互いにデッキのデータが入っている腕輪を構えるとフィールドが光だし、フィールドに描かれていた模様が空中に上がると共に私たちも浮かび上がる。


「コーリング。影法師、影鰐かげわに


 私がモンスターの名前を呼ぶと共に、レベル2の影法師とレベル3の影鰐が現れた。


「コーリング!ドライグ!わたんぼ、アチェリー!!」


 タイヨウくんがモンスターの名前を呼ぶと、レベル3のドライグとレベル1のふよふよと浮かんでいる綿毛のようなモンスターのわたんぼと、顔に傷がある弓矢を背負った兎のアチェリーが現れた。


「レッツサモン!」


 こうしてタイヨウくんVS私のマッチが始まった。

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