詐欺を詰めた匣

エリー.ファー

詐欺を詰めた匣

 騙したのだろう。

 君は、自分自身を騙してしまったのだろう。

 本当に哀れだな。

 本当に不憫だな。

 このまま生きていくと、大きく躓くことになる。

 分かるか。

 これは催眠だ。

 金色になりたい。

 私を知って欲しいのだ。

 頼むから、私を作り出してくれ。

 大きい意思と発光体を使って死を導いてくれ。

 でも、生きていくことなら誰にでも可能だ。

 私も、あなたも生きていく。

 分かりきった未来に向かって進んでいくだけだ。




「僕は、ここにいたいと思ったよ」

「でも」

「そろそろ、ここから出なくてはならないだろうね」

「物理的な意味ではないよ」

「精神的、という意味だよ」

「でも」

「もう完了してしまったね」

「もう終わってるんだ」

「今、目の前に広がっているのは、さようならを言った後の物語なんだよ」

「数秒後にはいない」

「分かっているんだ」

「僕も」

「僕以外も」

「でも、まだ物理的に存在している」

「いや、影がある」

「影がある。それだけだ」

「寂しくなるね」

「気が付けば」

「行き着いてしまう」

「知らせるための頂上ではない」

「知らせている場所が頂上だったのだ」




 詐欺が始まる。

 二度と、世界が壊れてしまわないように。

 詐欺が終わる。

 世界が、闇が、光景が、状況が、発光が、数字が、純白が、漆黒が、人類が、化粧が、壁紙が、安心が、平和が、栄華が、死が、金が、黒が、馬が、未知が、道が。

 消えていく。

 残るのは僕だけだ。

 僕の視界から消えていく。

 でも。

 僕の中には残っている。

 僕が喋る。

 社会が聞いている。

 社会が僕に語らせる。

 僕は語る。

 明け渡されたすべてに感謝を。




「ここにいるのは、あなたですか」

「はい、僕です」

「あなたは、僕ですか」

「はい、間違いなくあなたです」

「僕はあなたに質問があります」

「どうぞ」

「質問は僕ですか」

「僕とあなたで作り上げた質問です」

「あなたは、僕を質問だと思っていましたか」

「いいえ」

「そうですか。安心しました」




 黒い画面に自分の顔が映っていた。

 最初から、そこにいたような気がする。

 いつになったら始まるのか。

 いつになったら終わるのか。

 いつになったら終わりと始まりの切っ掛けが生まれるのか。

 自分を褒めたいと思った午前三時。

 自分が狼になっていくのを感じる。

 薬を飲もう。

 そうすれば、この変身は止まるだろう。

 自分の話をしてはいけない。

 心が豊かになる。

 けれど。

 どう解釈されるか分からない。

 恐怖が底上げされていく。

 誰の声が君の耳に届いたのか教えてほしい。

 手紙に書いて教えてほしい。

 届くまでは生きていこうと思うよ。

 届かなくても生きていこうと思うよ。

 届いたら生きていこうと思うよ。

 覚悟もこだわりもなく生きていくのが健全だと思うよ。




「神様、僕は今どこにいるのですか」

「私は神様ではありません」

「じゃあ、すっこんでろバカ。神様、神様」

「なんだ」

「神様にお願いがあります」

「私は神様ではありません」

「じゃあ、出てくるんじゃねぇ、このボケ。神様だけ出てくればいいんだよ、バカが。あのぉ、神様、神様」

「いかにも」

「あなたは神様ですか」

「神様ではない」

「出てくるな。神様以外、絶対に出てくるな。僕は、もう出てくるなって言ったからな」

「神様ではないが、出て来たぞ」

「もういいよ、神様じゃなくたって。とにかく、お願いを聞いてよ」

「神様に聞かせるんじゃなくて、自分に聞かせて勝手に叶えろよ、このボケが」

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