第24話 戦い終わって
決闘が終わって間もなく、生徒たちの熱気も冷めやらぬ頃。
いつもなら感想を語り合う生徒で賑わうはずの食堂には『貸し切り』の看板が掛けられていた。
中には、決闘の主役であり勝者であるゼオとその友人たちが集まっていた。
「ランシア様、ありがとうございます。貸切ってくれた上に料理までごちそうしてもらって」
「いえ、気にしないでください」
ランシアはニコニコ笑みを浮かべながら上機嫌に返す。
この祝勝会も彼女とセナリスが企画したものだった。
テーブルの上には所狭しと料理が並べられている。
「クラハさんも、ありがとうございます。貴女の特訓がなければどうなっていたか……」
同席していたクラハに礼を言うと、彼女は一瞬横目でちらっとゼオを見たものの、すぐに手元の料理に視線を戻した。
「どういたしまして……」
「だが、勝因は貴様の実力に寄るものだ。私は大したことはしていない」
そう言うと彼女はまた口に料理を運び始めた。口調は冷たいものの、祝福してくれてるのは間違いない。
ランシアと共にゼオを応援していたファンガルは、ゼオ以上に
そして、そんなファンガルと同じ勢いで料理を喰らっている者がもう一人。
「うむ、うむ。やはり、貴族科の食堂よりこの食堂の料理の方が口に合うな!」
そう話すのはレヴンだ。
ゼオの決闘相手であった彼は何食わぬ顔で祝勝会に参加している。
もちろん、ゼオに彼を
「なぁーーーんでアンタがここに居るのよ……」
声の主はシャルティナだ。だが、レヴンの主である彼女がこの場にいるのもおかしな気はする。
「そういうシャルティナこそ、ここに居ていいの?」
「そうそう。よろしいのですか?」
セナリスにそう言われ、レヴンにも便乗され、シャルティナは不機嫌そうにウルサイ、とつぶやいた。
レヴンは決闘の最中、主であるシャルティナの命に従うことを拒否し、自らが所属する
未だその発言が撤回されたとは聞いていない。
彼の行いは、ゼオにとっては信じられないものだった。ゼオにとって主の命は絶対のものであり、死ぬまで主の下で尽くす覚悟があった。
そんなゼオの視線にレヴンも気づいたのだろう。彼の方から声をかけてきた。
「おっと、どうした?何か言いたいことでもありそうだな、ゼオ?」
ニヤニヤと笑いながらレヴンは問いかけてくる。本人がそういうなら遠慮する必要もない、とゼオは思い切って聞いてみた。
「では……あの決闘で、どうして本気を出さなかったのですか?」
「本気だったよ」
嘘だ。
その場の全員がそう思った。彼は明らかに手加減していた。
攻撃は消極的で、虎の子の魔導兵装ももっと早く使っていればゼオは瞬殺されてもおかしくなかった。
決闘の最中にシャルティナが口を挟んできたのも分かる。彼女は今も歯を見せて威嚇するように唸りながらレヴンを睨みつけていた。
その剣幕に圧されてか、レヴンは観念したように話し始めた。
「最初に言っただろう。私は全力の君と戦いたかったんだ」
「記憶を失い、本来の力の十分の一も発揮できない君を倒したところで何の意味もない」
「確かに、それは聞きました。でも、なんでそんなに僕にこだわるんですか……?」
ただの
ゼオの予想通り、レヴンは困ったように笑いながら話し始めた。
「実を言うと、君には期待しているんだ。勝手な話で迷惑だろうが」
期待?
「知っての通り、自分は身勝手な男だ。騎士にあるべき忠誠心は欠片もない」
「だから、傭兵まがいをしていたところを拾ってくださった恩人のシャルティナ様を裏切る様な真似も出来る」
自嘲するようにレヴンは笑う。
「その点、君はどうだ。記憶を失った上に、仕える主は一向に姿を見せない」
「にも関わらず、己を信じ忠義を貫く……素晴らしい限りだ。騎士のあるべき姿と言っていい」
まっすぐに褒められ、ゼオは顔が赤くなるのを感じた。思わず訂正しようとしたが、レヴンはそれを許さない。
「謙遜するな。決闘に勝ち、君は己の覚悟を証明したんだ」
「……もっとも、半端な覚悟だったら多少痛い目に遭わせるつもりだったが」
「……」
なんというか……。
「あぶねェなコイツ」
クククと笑うレヴンにゼオは何も言わなかった。代わりに話を聞いてたファンガルが気持ちを代弁してくれた。
「でも、これで私達が君を部下に欲しがる理由も分かったでしょ?」
妙な雰囲気になった場の空気をセナリスが変えていく。いつもの通り、彼女は愛嬌のある笑みを浮かべていた。
「腕は立つうえに、忠誠心が高く義理堅い。レヴンくんも腕は立つけど……ねえ?」
セナリスが視線を向けると、レヴンは笑いながら頭を
「私やランシアはもちろん、シャルティナは特に部下に迎えたかったでしょうね。だから決闘なんて仕掛けたのかしら?」
ニヤニヤと笑うセナリスに対し、シャルティナはうっと渋い顔をした。図星のようだが、記憶喪失で世情に
「はぁーあ……っ!いいわよ、どうせ隠したって仕方ないもの」
そんなゼオの様子を見かねて、観念したようにシャルティナは話し始めた。
「
「一枚岩ではないんだな、これが」
割って入ったレヴンをシャルティナはキツく睨みつけた。
「ウチを纏めてるのは相互協力っていう盟約だけ。どいつもこいつも自分のこと優先でまるで話は進まない」
「アタシも王女って呼ばれてはいるけど、正確には盟主の娘で……セナリスやランシアと違って強引に権力を振るうことは出来ないのよ」
「決闘の立ち合い人を私に頼んだのも、自分では箔が付かないからですね」
ランシアの言葉にそーそーと返すと、彼女は深いため息を吐いた。
「せめて信頼のおける部下が居たら、いくらか楽になったって言うのに……」
「まったく、目当てのゼオだけじゃなくて、レヴンまで失うことになるなんて……」
再びシャルティナがキツくレヴンを睨みつけた。レヴンはまた笑って誤魔化している。
「いやあ、まったく申し訳ない。今からでも発言を撤回させてもらえませんか?」
「絶対イヤ。反省しなさい」
レヴンの提案をシャルティナは一蹴した。雇い主というだけあって、力関係は
シャルティナの方が上のようだ。
「まあ、対価とする情報を用意できなかった時点で、ゼオくんとは縁がなかったわね」
「そういえば、ランシアは今回随分手回しが早かったわね?」
セナリスにそう問われ、ランシアは答えた。
「
「だから、あっさり決闘を中止させられたわけね……はぁーあ、二人が羨ましいわ」
シャルティナの言葉に、セナリスとランシアは上品に笑った。なんだかんだ、三人とも仲が良いというのは間違いないようだ。
暖かな雰囲気のまま、激闘の後の夜は更けていった。
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