人神戦争-Re_Start-
神前歩人
prorrge
どうやら…
神様はこの世界を見限ったようだ。
いつもの日常で、見慣れた通学路を通る何も変わらない学校への登校中。
突然空から現れた黒よりも黒く悍ましい闇が、光や音、温度や景色などのその全てを消していくかのように、空一面に広がってゆっくりと落ちて来た。
周りの全てがまるで、作品に黒の絵具をぶちまけたように塞がっていく光景に、逃げ道なんてどこにも無くて…
不意に訪れた一瞬の寒気と共に、特筆するべき感想も出せられず。
全てが唐突に…無慈悲に世界は終焉を迎え、
あっけなく僕の人生も、皆と共に終わりを迎えたのだった。
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次に意識が覚醒した時、
どこまでも続きそうで、透明な空間の中に人類は漂っていた。
周りを見渡せば人型を形成しているホログラムのような周囲の人々の身体は透けていて、何が起きているのか解らないその光景に、必死になって触れようとしたが、
気がつけば自身の手も同じように透けていて何も感じない…、戸惑った時の身体の竦みも、震えあがる恐怖の強張りも、体温も、涙でさえも…
「君達には失望したよ」
不意に頭上から声が聞こえた。
上を見上げれば眩い光が巨大な人型を形成しており、その素顔を見る事はできなかったけれど、中性的でありながらも聞くもの全ての心を魅了するかのようなその声が、
「だから私はこの世界は終わらせる事にしたんだ。」
無情にも人類へ世界の終わりを告げられたのだった。
何も感じない筈なのに、生きていた頃の思い出をなぞる様に、大多数の人型のホログラムが絶望し、頭を垂れていく、
そんな光景を目撃しているというのに、目の前の存在は人類を侮蔑したまま酷く落胆したように言葉を吐き捨てて行く、
「だから人類は駄目なんだ。
一つの事象に対して、人類は何も努力をせず、そうしてなすがままを受け入れて思考を停止させてきた!!
そのような存在に、どうしてこれ以上期待を込める事が出来るのだろうか」
否と力強く中世的な声は否定し続きを紡ぐ
「答えは断じて否だ。
都合の良いように神の名を利用しては物事から目を逸らし、
努力もせずに結果に不都合が起きれば勝手に神の名に失望し、
時がたてばその痛みすら忘却し、また同じことを繰り返していく…
それは人類が生み出されてから今日に至るまで、進化した試しがない。
だから私は、人類を終わらせる事に決めたのだ。」
まるで、子供に諭すように案内するかのような説明に、けれど、理由としてはあまりに理不尽な話を当然とばかりに話し続ける存在に、
「ふざけるな!!!」
絶望に染まり嗚咽しか聞こえなくなった空間へ、一つの慟哭がいきわたる。一人の青年がこの理不尽な出来事に対して、抗うように声を上げていた。
「それでも、俺達は生きて来たんだ。
お前みたいな存在に、気に入らないから辞めましたなんてそんな理不尽に、今更はい、そうですかなんて納得が出来る訳がない。」
誰もが言えなかった恐怖の中で、物語の英雄のようにその青年は、たった一人でも勇気を振り絞り、皆の心を代弁するかのように、力強い声で魂の叫びを神へと投げかけていく。
「大体神がなんなんだ!。
俺達人類が出来損ないだというのなら、お前がしているそれは、自身の失敗作を恥ずかしいからという理由で隠しているただの臆病者じゃないか!
こんな臆病者が神だというのなら、
俺は…俺には神なんて必要ない!!!」
まるで英雄譚に出てくる英雄が誕生するかのようなその場面に、僕の…いや周りの心は活気に満ちていく、
そうだ、誰もがこんな理不尽に納得が出来る筈がない。この理不尽を甘んじて受け入れてしまっては、神でなくとも誰もが失望するに違いない。
青年の心に感化され、僕は自身の身体に檄を飛ばし奮い立たせる。
不意に天から笑い声が聞こえる。
その中性的な声は、自らが否定されているというのに、何故か可笑しく嗤う、その声はどこまでも魅力的に感じて、どこまでも悍ましかった。
「そこまで言うのなら証明してみせよ。
ここに留まる者たちは、理不尽に命を消滅させたせめてもの情けだ、天使として任命し、来るべき時まで、この天界での極楽浄土を約束しよう。」
だが、と中性的な声は続け、その言葉と共に何もない場所に、一際黒く禍々しい穴が現れた。
「そこの穴をくぐる者は、来るべき時に神と人との存続をかけた争いを開催しようではないか。
神が必要ないと言うのであれば、自身のその手で証明して見せろ人類」
誰もがその選択に立ち止まる中で、青年は迷うこと無く、穴に向かって歩いていく、そして、穴の中に入る直前で立ち止まり、歪な存在に向かって吐き捨てるように言葉を吐いた。
「このままいっても力関係じゃ不公平だろう?
だからあんたらの力を俺に寄越せよ。」
「だから、人類は駄目なのだ…
…が、確かに非力な人類では仕方が無い。」
神は大きくため息を吐いたが、試案するかのように一瞬の間を置いた後、あざ笑うかのように、愉快そうに笑った。
「仕方が無いから君達にも力を授けよう
全知全能の神と同じように使いこなせるのなら、
対等になりえる可能性の力を」
それを聞いた青年は神に負けじと豪快に笑う、
「後悔するなよ、俺は必ず、
お前の喉元を嚙みちぎってやるからな。
精々その日までそこで踏ん反り返っていればいい」
青年の言葉にまるで興味が無いというかのように、
歪な存在の光は少しずつ形を無くしていき、やがて声だけが周囲に響き渡るのみとなった。
「期間は丁度四年後、神を楽しませる為に抗って見せよ。」
青年はその声の方向を睨みつけた後、すぐさまその暗闇へ自ら飛び込んでいった。誰も彼もが次のスタートを切るのはどうすればいいのか立ち止まってしまう中、
僕の身体はまるで雷に打たれたかのように、どうしようもなく高ぶってしまった。
僕は…、決して物語の主人公にはなれないのだろうけれど、それでも、青年の進む英雄譚に望みをかけて、
僕の足は、どこまでも続きそうな暗闇へと駆け出していたのだった…
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