第12話 戦闘は突然に

学校からの帰り道ーー


 突如、ミコの体に寒気が走る。と、同時に、反射的に右側に向かって地面を蹴る。


 


 ドンっ!




 爆炎と共に、先程までミコが立っていた道路に亀裂が入る。




「なっ??」




 ここ数日で研ぎ澄まされていたミコの感覚は正しかったようだ。


 電柱の裏に隠れ、気配を探り、敵の場所を特定しにかかる。が、




 ブォっ!


 


 隠れていた電柱に振動が走り、ミコは電柱の影から吹っ飛ぶ様に転がり出てくる。


 そして、すぐさま立ち上がり、体勢を立て直す。




(どこだ!? どこから攻撃している?? )




 ミコは混乱しながらも、感覚を頼りにギリギリ避けていく。




(マズイな、このままだと攻撃を受けてしまうのも時間の問題か…)




 学校でしっかりお昼寝したとは言え、昨日の今日だ。体の疲労は隠せない。


 ミコは観念した様に隠れるのをやめ、道路の真ん中に立つ。




(一か八か)




 ミコは右手でポケットをあさり、昨日アヤカの部屋で使った残りの護符を握り締める。




(はぁぁぁぁ)




 ミコは息を吐き、集中しながら気配を探る。




(来る! )




 ミコは自分の真上に気配を感じ、両手を札に重ね、目一杯気を送る。




「たぁぁぁぁ」




 敵の攻撃と、ミコの攻撃がぶつかった瞬間、




 ドォンっ!




 熱風が爆発し、ミコは吹っ飛ばされる。




「うぁぁぁ」




 地面に転がりながら、フラフラとミコは立ち上がる。




「よこせ…お前の…体…お前の力」




 そいつはそう言いながら、ミコの前に姿を見せる。


 地味な色をしたボロボロの着物に身を包む、若い女だった。その表情は暗く、憎しみの感情を表していた。


 どうやらコイツもミコの体に憑依しようと企んでいるらしい。


 ミコはコイツの放つ嫌な感じを知っていた。




「お前…アキラを殺した奴だな? 」




 コイツの放つ嫌なオーラは、アキラの家で感じたものと一緒だった。




「だったら…どうする? お前の力をよこせ。私はアイツらを根絶やしにするまで、諦めはせぬ」




 そう言い終わると同時に、そいつは再び爆風を放つ。




「ああぁ」




 ミコは再び吹き飛ばされ、体勢を崩すと、同時に、女はミコの体に向かって突進する。




「しまった!」




 体勢を立て直せないミコに、迫る女。




『南無大師遍照金剛』




 ミコの後ろから聞こえた声は、光と共に女を退ける。




「ぐぅぅぅぅ」




 女は光を浴びて、苦しそうに呻く。




「ヒーローっのは遅れてやってくるんだよな! 」




 声のする方へ振り返るミコ。




「カズマ! 」


「よぉ! ミコ。大船に乗ったつもりでいろって言ったろ! 」




 そう言って、下手くそなウインクを投げかけてきた。




(まさか、泣き虫カズマに助けられる日が来るなんて…ね)




 カズマはミコの手を取り起こす。


 その手はミコの手より大きく、たくましい、男の手だった。


 


(もう昔のカズマじゃ無いんだな…)




「ミコ、コイツは? 」


「わからない…敵って事以外はね」


「そうか」




 カズマは長い数珠を左手に巻き、女に向き直る。




「おのれ…お前も…私の邪魔をすると言うのか! 」




 女は叫びながら、両手で光を打ち払う。




「へぇ〜やるなぁ〜」


「呑気にそんなこと言ってる場合じゃないぞ! 」


「俺には朝見たお前の式神の方が危なそうに見えたけどなっ…と」




 おどけた調子で、女が放つ爆風を避けるカズマ。




「避けてるだけじゃ、終わんない。なんとかしないと! 」




 ミコも攻撃を避けながらどうしようかと考えを巡らせる。




「じゃあ、こういうのはどうだ? 俺が足止めをするから、ミコがトドメをさせ! 男女(おとこおんな)の得意分野だろ! 」




 (失礼な)




 そう思いながら、




「任せなさい! 」




 そう答えてすぐ様意識を集中し始める。




『おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん』




 カズマは手を合わせ、言霊に力を乗せる。


 繰り返し唱え続けると、やがて光の束が女を拘束していく。


 女は身動きがとれなくなり、もがき始めた。




「ミコ! 今だ! 」




「はぁぁぁぁぁ!! 」




 ミコは拳に気を乗せ、女に向かって振り下ろす!




「いっけぇぇ! 」




 女に触れるか触れないかの所で、ミコに『記憶』が流れ込んできた。




『何故…貴方は柚葉様を…』




 その瞬間、ミコは拳を止めてしまった。




「何やってんだぁ! ミコ! 」




 ミコは惚けた様に、その場にへたり込んでしまう。その瞬間ーー




 ゴゥっ!




女は再びミコに爆風を叩き込む!




「ミコ! 」




 カズマは叫ぶが間に合わない。




「クソっ」




 






「逃げられてしまいましたか」




 爆風によって舞い上がった砂埃が落ち着き、カズマの視界がクリアになった時、見えて来たのは、アイツだった。


 朝のスカした式神、一夜。


 どうやらあの悪霊を退けたのは一夜らしい。




「ミコ! 」




 カズマは叫び、ミコに駆け寄る。そして、ミコの安否を心配するようにミコに触れようとした時ーー




 パシンっ!




 カズマのては一夜によって払われた。




「なぁっ!」




 一夜は侮蔑の眼差しをカズマに向け、禍々しオーラを放ちながら、




「ミコ様を助けていただいた事は感謝いたします。が、我が主人に軽々しく触れないで頂きたい」


「なななっ!」




(なんで式神にそんな事言われなきゃいけないんだぁ〜! )




 カズマはあまりの事に言葉が出てこず、口をあんぐり開けたまま固まってしまった。




 一夜は気にする様子も無く、気を失っているミコを両腕で大事そうに抱え、連れて行こうとしている。




「おい! どこに連れて行く気だ! 」


「うちに帰るだけです」




 カズマは、この悪霊よりも禍々しい式神に、ミコを任せるわけにはいかないと思った。




「俺も行く! 」


「結構です」


「いや、俺も行く! 」


「結構です」




 その同じやりとりを繰り返しながら、カズマもミコの家のある神社へと足を向けるのだった。

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