深夜のラーメンにしか癒せない傷がある

青い絆創膏

深夜のラーメンにしか癒せない傷がある Vol.1


 付き合っているのに他人みたいなアイツとの電話は今日も15分で終わった。もう3週間も会えていなかったから、寂しくなって電話をかけた。3週間うじうじ「返信遅いなあ」とか一喜一憂していた私にしては勇気を出したほうだ。電話をすれば寂しさも消えるかな、と期待していたのに全然ダメだった。私が少し弾んだ声で「もしもし」と呼び掛けても、彼の声はずっと暗くて、何を話しても上の空だった。質問をすれば返してくれるけれど向こうから質問をしてくれることはなくて、スマホでゲームをしている指の音が微かに聞こえてきた。結局、そのなんとも言えない気まずさが嫌になってすぐに電話を切ってしまった。

 恋愛で勝手な期待なんてするもんじゃない、と必死で言い聞かせるけれど、相手に期待もできないで何が交際だよ、とも思う。これって本当に付き合っているのだろうか。もう何度目かも分からない自問自答。彼は同じサークルの同級生で、私が一目ぼれした。猛アタックしてやっと交際にこぎ付けたときは本当に嬉しくて天にも昇る心地だったけれど、そのあとすぐに地に落とされた。デートに誘うのはいつも私から、メッセージを送るのもいつも私から(しかもすぐにやりとりを終わらせてくる)、行きたいところも言ってくれないし、これって付き合う前と何が違うんだろうと思った。得たのは「恋人」という名のラベルだけ。きっと私が連絡をしなければすぐに剥がれてしまうような、脆いラベル。あぁ、嫌になっちゃうな。3週間のあいだ、声を聞けないのは本当に辛かったけれど、でも声を聞いた今のほうがずっとずっと辛い。彼が私のことなんて大して好きじゃないことが分かってしまったから。こんなことなら電話なんてしなきゃよかった。

 21時に電話をかける約束をしていたけれど、もう終わってしまったから今日は何も予定がない。しっかりお風呂にも入ってしまったのに。仕方なくスマホで映画を再生したけれど、内容が全く頭に入ってこなかった。気が付いたら彼のことばかり考えて、ずっと同じところをグルグルグルグルしている。

「ああああああ」

 枕に顔を埋めて叫んでみたけど、すっきりしない。こんな状態を私はもう3か月も続けている。毎日毎日、彼からの来ない連絡を待って、毎日毎日一喜一憂(ほとんど憂)して、ほかのことは何も手につかない。正直いって、めちゃくちゃ時間の無駄だ。この3か月、驚くほど私は何もしていない。

「……コンビニ行こ」

 甘いものが食べたい。コンビニでお菓子買って、家で映画見ながら食べよう。あーあー、私あの人と付き合ってから2キロくらい太ったんだよな。こうやってストレスを甘いもの食べて解消しているせいかな。

 外の空気が気持ちいいのが、しんどかった。一人でじゃなくて、本当はあの人と手をつないでコンビニに行ったり、深夜にラーメン食べに行ったりしたかった。これって独りよがりなのかな。相手は望んでないもんな。少し肌寒くて、体をぎゅっと縮こまらせた。


 あの人とラーメンを食べたい、なんて思ったからか……気が付いたらコンビニでカップラーメンを買ってきてしまっていた。300円くらいでちょっと高めの、いいやつ。お湯を入れて3分待ってたら、あぁ私が今日電話した時間はカップラーメンたった5つ分の時間なのか、と余計なことを考えてしまった。あの人は、カップラーメン5つ分の時間さえ私に全力で向き合ってくれないのか。たったそれだけの時間なのに、ゲームをしながらじゃないと過ごせないのか。そう思ったら本当に悔しくて、やるせない。……うわー、やばい。これ泣いちゃうやつだ。

 カップラーメンの蓋をあけて中をのぞくと、醤油の香りが鼻腔をくすぐった。カップラーメン、たまに食べるとおいしいランキング堂々の1位。おすすめの食べ方は割り箸を使って食べること。あぁ、すごくチープだ。このチープさが私の惨めさを強調していっそ気持ちがいい。化粧品とか文房具が雑多に置かれた机の上でカップラーメンを食べる。スープもガブガブ飲む。涙目で冷凍したご飯をレンジで解凍する。こんな自分が、かっこよくて優しくて素敵だったアイツの彼女なんて信じられない。私はあんなに素敵な彼氏がいるのに、汚い机の上で泣きながら一人でカップラーメンを食べている。そんなことは、あっていいはずない。付き合ったからといって自動的に相手が好きになってくれるわけではないのだから、付き合った後に相手から好かれる努力を怠った私も悪いとは思う。でも、今私が泣いているのはあいつの振る舞いのせいだ。

 かといって、今すぐにどうこうできる問題ではないし、私もしばらくは今日と変わらない振る舞いを続けるだろう。ただ、このどうしようもない悲しみのやり場をどこかに探している。深夜のラーメンがふさわしい日というのは、こういう日だと思う。

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