第二話 武術教師、リズモア
その日、俺は
「身分証明が出来るものを見せて頂いても?」
ふむ……こんなこともあろうかと持ってきておいて正解だったな。
フォレス・ヴェンロマックという名で作った偽造のパスを警備員に渡した。
「目的は?」
「来季から教員になるための面接だ」
グレンオード公爵家とアバフェルディ公爵家の強い力により教員採用試験なしで教師として赴任することになったのだが、人となりを知りたいという魔法学校上層部の意向で、俺はここに来ていた。
「身元に不審な点もありませんね。立ち入りを許可します」
パスと俺の顔とを繰り返し確認しつつ警備員は俺の立ち入りを許可した。
門を通り抜けると、長い並木道があって敷地の広大さを物語っていた。
そして事前に入手した地図を元に職員棟を目指した。
「テメーが今日来るってことになってた貴族サマが圧力で送り込んだっていう教師か?」
その道すがら俺は煙草を銜えてレザージャケットを着込んだ女に声をかけられた。
圧力って……ひょっとして心象悪かったりするのだろうか。
「そうだが?」
俺は彼女言葉が合ってることを認めると
「ならどれ程の実力か測ってやんよ!」
あろうことか女は何の躊躇いもなく蹴りを繰り出してきた。
「おいおい、そりゃ結構なこった!」
風切り音を立てながら襲い来る瞬速の蹴りを避けると、間合いに踏み込み拳を叩き込む。
「避けるとは面白い奴だな」
拳を受け止めると女はニヤッと笑った。
そして始まる拳の応酬。
繰り出されてから変化する軌道は、なかなかに読み難く受け止めるのに骨を折る。
だが何度も死線をくぐり抜けた俺には、特段難儀とは感じない。
女は、なんの予備動作もなく足払いに来たが跳躍することで回避した。
「テメー、本当に魔術師なのか?」
魔法教師として赴任できるよう便宜を図ってもらっていたから、他の学校関係者にもそれが伝わっているのだろう。
ちなみに魔法教師として赴任するのは護衛対象であるメイベルに対して学園内で何かが起きたときに魔法で対応しても不自然に思われないようにするためだ。
魔法が得意な人間は通常の場合、魔法教師になることが多い。
もちろん武術も人並み以上に出来るという自負はあるが、武術教師が魔法を使うというのは、不自然に思われかねない。
俺の仕事が仕事であるがゆえに、その辺りには重々気を配っておいたのだ。
「そこそこ格闘戦も出来るように鍛錬しているからな」
武術は暗殺者には必須レベルで必要なもの、暗殺を稼業とする俺が疎かにしていいはずが無かった。
「アタシの名前はリズモア・ランディーってんだ。よろしく!アタシより強ぇオトコは師匠以外じゃ初めてだ」
女は構えを解くと手を差し出してきた。
「俺はフォレス・ヴェンロマック。よろしくな」
差し出された手を掴んだその瞬間、天地がひっくり返った。
辛うじて受身をとる。
「油断は禁物だぜ?にひひ、勝負ありだぜ」
リズモアは、転がった俺をみて笑っていた。
なるほど、その通りだな。
「以後は気をつける」
楽しそうに笑うリズモアを見ていると、不思議と悪い気はしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます