第8章 魔王軍会議
59話 魔王より伝達
レグリス王国の勇者一党、及び兵士らの
最初に帰還したのはアーベル一行。兵士らが
視線を上げると、夕日に照らされながら外壁の上に座り込んで眠るアズサの姿を確認した。
アーベルは、彼らが
アーベルは外壁を駆け上がり、アズサの元へ辿り着いた。
「‥‥‥わざわざ俺たちを待つ必要はなかったはずだろう。風邪をひくぞ」
そう言って自分の着ていた上着をアズサの背に重ねた。
アズサは何かと他人を見下すところがある。自分は賢くて、周りは馬鹿だと思っている。基本的に自分の研究以外に目を向けることはないが、いざ他人と関わるとなれば、此度のように世話焼きなところが窺えるのだ。
そんなアズサにアーベルは若干呆れてもいた。
「――アーベルさんたちも今戻って来たんですかー?」
ミーリア一行が帰還した。
二部隊の兵士たちは互いの無事を喜び合い、談笑を始めた。
「数こそ多かったが、
「おい冗談だろう? ミーリアさんが居なかったら俺たち全員、上位
「は? 上位
「居なかったのか!? 俺らはもう逃げることしかできなかったってのに」
あちこちで兵士たちの会話から相違が窺える。ミーリアは「なるほど」と呟いて、外壁に近づいた。アーベルはアズサの様子を確認して外壁から飛び降りた。
「アーベルさん、また一人で全部やっちゃったんですねー」
「そっちの方が効率的だったからだ。話を聞くに、お前も一人で上位
「私の場合は、地形的にそうせざるを得なかったんですよ。そちらの兵士さんたちは、上位
褒めているようで煽っているようにも聞こえるミーリアの言葉に、アーベルはため息をついた。
「結果的にやってることは俺もお前も変わらないだろう」
「いいえ。私には頼もしい協力者さんが居ましたから」
アーベルは首を傾げる。兵士の中に秀でて戦力になるような者が居ただろうか。アーベルに心当たりはない。
その直後、おおらかな羽音が門前に響き渡った。
ちょうど夕日の影になって、一人の少女が翼を広げていた。
「魔王軍出てこなかったなぁ‥‥‥」
夕日を背景にミェルはそんなことを呟きながら着地し、魔法を解除した。
「ミェルちゃん!」
気づいたコニーがすぐに駆け寄った。
「ごめんね、一人だけ自力で帰らせることになっちゃって」
アズサの魔法陣は最初の使用者全員がちょうど揃っていないと発動しないため、ミェルを一緒に転移させることもコニーを残して他の兵士のみで転移させることもできなかった。
クエスト受注時には送迎用の馬車が手配されるが、クエストごとに設定されている制限時間を守れなかった場合、自力で帰らなければならなかった。
コニーは、協力してもらっておきながら自分だけ楽に帰還したことを申し訳なく思っていた。
「いえ、全然大丈夫です。コニーさんもお疲れ様でした」
――アーベルは少女のことを知っていた。
「功績六位の冒険者、ミェル=ラーヴァ。そんな奴がどうしてお前と一緒に居たんだ?」
「私にも分かりません。いつの間にか、避難していたはずのコニー君と一緒に来ていたんです。でも二人のおかげで無事に上位
ミーリアはそう言って微笑んだ。
――その後ユリウスの部隊、ダリアの部隊も帰還し、今回の
* * * * *
セシリーとターギーが意味不明の競争をしたその翌日。俺はいつものようにソファーに寝転がってダラダラしていた。ようやく俺の日常――ダライフを取り戻したのだ(
ターギーについても一旦、話はまとまった。
セシリーはターギーの実力を認めたし、ティアナも俺がターギーを必要としていることを分かってくれたので、ターギーには"雇用"という形で協力してもらうことになった。
けど問題が全てなくなった訳ではない。ターギーは金を求めている。ところが
このことはまだターギーに告げていない。ひとまず給料は後日まとめて渡すことにして、代替案を練る時間を作った。話が"一旦まとまった"というのはこういうことである。
かなり世話になると思うので、ターギーのために屋敷に部屋を設けることを提案したが、彼自身がそれを断った。
屋敷には毎日通うようにしたいらしい。理由は分からないが、ターギーの要望だったのでそうすることにした。
まぁそんなこんなで今、ターギーの尽力もあって俺は快適にダラダラできているのである。
「ヒロト様、よろしいでしょうか」
セシリーが来た。
「ああ、よいぞよいぞ。のんびりダラダラできて余は今すごーく機嫌が良いからの」
‥‥‥おっと、あまりの快適さに口がとろけて変な口調になってしまった。これからもっとダラダラするんだから、こういうところには気をつけないとな。あー、ダラダラも大変だなぁ。へへへ。
「魔王様より伝達、"今宵、魔王城にて魔王軍会議を執り行う。幹部は魔王城に集合されたし"とのこと。至急、ご支度のほどお願いします」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。何それ。
――これまた面倒くさそうなイベント発生。セシリーの言葉を聞くなり、俺の表情は瞬く間に愉悦の歪みから不快の歪みへと変わっていった。
心の奥底から噴き上がった感情の表現。
「えぇぇぇ‥‥‥」
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