54話 セシリーの早朝
――その日はそう長くは続きませんでした。屋敷へ戻る道中、既に日は落ちて森は暗がりになっていました。ヒロト様が"ターギー"とお呼びになる獣人とはその道中で別れました。
私には全く不審者のようでありますが、一応回復ポーションで助けてもらっている身なので、一概に差別できません。ヒロト様からも説明をしてくださるようなので、今後を窺って判断することとしました。
屋敷に着くと、ヒロト様は
ティアナは「今日はもう休んで良い」と言いましたが、それでは申し訳ないので、翌日の早朝からティアナの分まで仕事を任されることにして、私もその日を終えました。
* * * * *
まだ日が昇っていない頃。私はパチリと目を開き、確かに覚醒しました。当然視界は暗がりですが、身ごしらえを済ませ、早速屋敷の掃除を始めます。
以前、同じ時間にヒロト様のお部屋を掃除させていただいていた時、ヒロト様に注意を受けてしまいました。‥‥‥ので、ヒロト様のお部屋はヒロト様が別室に居られる時に掃除します。
屋敷全体をほうきで掃き、それから雑巾がけをします。この屋敷は広く、そして何百年も前からあるので埃はどうしても否めず、毎日の掃除が必須です。ヒロト様に快適な空間をご提供するため、決して手抜かりのないように丁寧に行います。
これに二時間ほど。私たち
一層のこと屋敷を建て直してしまえば如何か、と思われるかもしれませんが、それはできません。この屋敷には人界と魔界とを繋ぐ
――それに、ここは前幹部様の屋敷でもあります。屋敷が創設されて以降、あのお方の意思が反映されてきました。それを壊してしまうなど、私には到底できません。
ヒロト様の求める"ダラダラ"なるもののため、家具等のある程度の新調は致し方ないと存じていますが、ヒロト様はそれについて何もご指摘なさいません。我々
――掃除が終わりました。そろそろ日が昇りそうです。次は朝食の準備に取りかかります。
この屋敷は調理場も充実しております。材料さえ揃えばこの世界に存在する料理は全てここで調理することが可能だと言っても過言ではないでしょう。‥‥‥最も、ヒロト様がお気に召すものしか調理しませんが。
さて、今朝は何を作りましょう? ミノタウロスの肉厚で弾力のあるハンバーグステーキでしょうか。外はカリカリ、中はジューシーな魔鳥のフライドチキンでしょうか。ワイバーンの卵を用いた濃厚ソースのカルボナーラでしょうか。
いえ、朝からそんなにエネルギー量の大きいものは胃もたれしてしまいそうです。やはりもっとさっぱりしたものにしましょう。
食糧庫には何が残っていたでしょうか?
この屋敷には食材を保存しておくために食糧庫として一部屋が設けられています。そこでは、たくさんの食材が種類や保存するのに適切な温度によって仕分けられています。
定期的に魔界から食材を仕入れている上、ヒロト様には食事の量を減らすようにもご指摘いただいたので、食材が不足するどころか、余って腐敗してしまわないかが心配です‥‥‥。
今度レベリアに食材を譲りましょう。ヘルブラム様には稽古をつけていただいているので、謝礼の意も込めましょう。それに、ヘルブラム様であればきっと食欲旺盛でしょうから。
――どうやら野菜が比較的多く残っているようです。屋敷が森の中にあるというのもあり、朝は体が冷えてしまいがちです。ヒロト様は人間ですから、寒暖差にはあまりお強くないはず。
決めました。今朝は山菜を煮込んだスープを作りましょう。
作り方はそれほど凝ったものではありません。勿論、ヒロト様のために丁寧に作ります。
山菜を食べやすい大きさにカットします。自分の朝食であれば《
大型の鍋に水と魔獣の肉を入れ、加熱します。出汁を取るのです。魔獣だからといって、人体に悪影響を及ぼすことはありません。ただ魔素を吸っている動物というだけなのです。
魔素は魔法や特定の
日頃から適量の魔素を摂取することで、体内での魔素のコントロールが上手くできるようになります。
出汁が取れたら、先ほど切った山菜を鍋に入れ、煮込みます。この間に食器などを準備します。
最後に、スープをお椀によそって完成です。これを食卓に並べます。ヒロト様とティアナと私。ヒロト様にご指摘を受けて以降、食卓は三人全員で囲むようにしています。
「――さーて、今日もダラダラするぞ~」
‥‥‥どうやらヒロト様がお目覚めになったみたいです。
さぁ、今日も一日が始まります。
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