47話 効率的な戦い方

 -ダリア一行-


 ダリアらも、上位不死兵アンデッドと対峙していた。通常であればかなり厳しい戦況になるところだが、この沼地では上位不死兵アンデッドの高い身体能力が裏目に出た。足をとられ、上位不死兵アンデッドは身動きができなくなっていた。


「上位不死兵アンデッドは一体につき十人でまとまってあたれ! 確実に倒すのだ!」


 ダリアは的確に指示を出す。これは、ダリアが最も兵士らの強さを把握できているからに他ならない。そして兵士らはダリアに絶対の信頼があるので、その指示に安心して従うのだ。


 ダリアの剣の威力は凄まじい。一度剣を振ると、まるで暴風が襲うように下位不死兵アンデッドは飛ばされる。それらは空中で、衝撃に耐えられずにボロボロに崩れ去ってしまう。


 装甲が硬くなった上位不死兵アンデッドですら、吹き飛びはしないもののその肉体を一刀両断されてしまう。


 それだけの力を持っていながら決して傲ることはなく、厭わず人のために使う。


 これがレグリス王国兵士長の強さである。


「ともにこの戦場を乗り越えようぞ!!」


「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」



 *  *  *  *  *



 レグリス王国の人間たちが必死に戦っている一方その頃――。



「はい順番に! 順番にー! 後ろのお客様は押さないようお願い致しまーす!」


 と、大繁盛しているスーパーの店員のような対応をする俺。


 この大変な時にふざけているのか、だって? いやいやいや。至って真面目に戦っているとも。


 俺の正面には不死兵アンデッドの進軍を防ぐ壁と、巨大な立方体の境界壁シールド。壁と立方体とは、不死兵アンデッドがギリギリ二体通れるかといった小さい隙間で繋がっている。


 そして不死兵アンデッドたちは壁の向こうから立方体の空間へと、一生懸命進んできていた。


 立方体にはセシリーが待機しており、ある程度不死兵アンデッドが空間を満たしたところで、俺は壁と立方体を繋ぐ隙間を塞ぐ。


「よし、始めてくれ」


 俺が指示を出すとセシリーは頷き、指揮の構えをとった。


「‥‥‥《殺傷空間キリングフィールド》!」


 刹那に立方体の空間をセシリーの無数の刃が走り回る。閉じ込められて窮屈な不死兵アンデッドを容赦なく斬り伏せていく。


 ――ほら、真面目に戦っているだろう? セシリーが。


 セシリーの技能スキルはこういう限られた空間で真価を発揮する。狭い空間、不死兵アンデッドはギュウギュウ詰めで自由に動けず、さらにセシリーの攻撃を回避できないので、とても効率的に倒せるのだ。


 ヘルブラムと戦った時は、何度も強力な刃を走らせていたので体力の消耗が激しかったが、今回の相手はそんな屈強なパワーバカじゃない。常に空間を走る薄い刃でさえ不死兵アンデッドの骨を崩すには十分なのだ。強力な刃は上位不死兵アンデッドに。


 セシリーはあっという間に立方体内の不死兵アンデッドを全滅させた。


「‥‥‥どうだ?」


 俺はセシリーに尋ねる。


「とても楽に倒すことができます。素晴らしいですヒロト様」


 セシリーは素直にそう答えてくれた。さっきまで俺の手を必要とせず、自分だけでどうにかしようとしていたからな。


 うむ、良かった良かった。


「さすがだな、ヒロト様。俺にもその空間を用意してくれないか? より早く不死兵アンデッドを殲滅することができるだろう!」


 横で見てたターギーがそんなことを言い出した。


「大丈夫か? まとめて倒せはするだろうが、肉弾戦だとかなり疲れると思うぞ?」


「俺の体力を甘く見てくれるな! 必ずお役に立ってみせる!」


「そうか。‥‥‥よし、頼んだ!」


 ターギーは何でもできて、マジで頼りになる。俺はターギーのためにもう一つ立方体の空間を作ることにした。


「了解! これも労働、金のため!」


 ‥‥‥それがお前の口癖なんだな。


 俺は境界壁シールドで二つめの立方体を作った。そして二つの立方体へと繋がる隙間を用意。不死兵アンデッド第二陣の入場だ。


 しばらくして二つの空間に不死兵アンデッドが満ちてきた。俺は隙間を塞いだ。さて、セシリーは大丈夫だと思うが、ターギーはどうなのか。


 ターギーが居る空間を見てみると‥‥‥。


「行くぞっ!」


 ターギーは即座に不死兵アンデッドの群れに飛び込み、その中に埋もれて見えなくなってしまった。


 おいおい、大丈夫なのか!?


 俺が目を丸くした次の瞬間――


「おりゃあぁぁぁ!!」


 ターギーの叫び声が上がるとともに、彼を覆い尽くしていたはずの不死兵アンデッドは四方に吹っ飛んでいった。


 中央には、大の字で万歳をしているように身体を伸ばすターギー。‥‥‥一体何が起こったんだ。


 吹っ飛ばされた不死兵アンデッド境界壁シールドに身体をぶつけ、砕けていった。いや、どんな火力してんだよ。


「どうだろう、ヒロト様!」


 ターギーは俺に感想を求めた。俺はあまりよく理解できていないので、苦笑いをして


「す、すごいな」


 と一言伝えた。


「ようし、この調子でどんどん行こう!」


 ガッツポーズをして気合い十分のターギー。体力の心配はまったくの無用だったらしい。元気なヤツだなぁ‥‥‥。


「――ヒロト様!」


 今度はセシリーが声を上げた。


「どうしたんだ――――って、あれ?」


 セシリーは強い眼差しでこちらを見つめていた。俺の目は点になる。‥‥‥あの、セシリーさん? その熱い視線は何??


「私はもっとやれます! より多くの不死兵アンデッドをこちらに流してください!!」


 おっと‥‥‥、これは。


 どうやらセシリーはターギーに対抗心を抱いているらしかった。負けず嫌いなのだろうか? なんかまた面倒なキャラクター相関図ができそうだな‥‥‥。


「お、おう。無理はするなよ‥‥‥?」


「心得ております」


 ――この調子なら無事に不死兵アンデッドを殲滅できそうだな。時間はかかるかもしれないが、それを退屈に、或いは苦痛に思っていなければ問題ないだろう。


 この世界は俺が昔居た世界とは違って、時間にばかり縛られていないからな。無事にダラダラできればそれが一番なんだ。







 ――何なに? お前はさっきからダラダラしかしていないじゃないかって?  ダラダラするという無駄な時間に縛られているじゃないか、だって?


 何を言うか! このダラダラこそが最も有意義なのだよ!


 ――さ、サボってなんかないし! ちゃんと境界壁シールドの開閉してるし! というか、セシリーたちはこれで競うことができて、俺はダラダラできるっていうウィンウィンな空間になってるだろう!? これで良いんだよ、これで!!

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