15話 従者の成長(?)

 従者メイドの在り方を変えるべく、俺はいくつかルールを定めた。俺がダラダラしやすく、あいつらの負担が軽くなるようなルールである。


 基本的には俺への過保護な態度を制限するような内容だ。俺の監視だったり、雑事だったりを減らした。


 負担を軽くするとはいえ、あまり軽くし過ぎると従者メイドらはその身の堕落を危惧してしまうだろうから、ほどほどには任せるようにしている。


 それに乗じて一日三時間の指導もどうにかできないものかと謀ったが、さすがにセシリーに利点がないので無理だった‥‥‥。


 だがしかし、これで従者メイド改革は大きく弾むはずである! 俺の理想のルールに則った生活が、始まった――。



 *  *  *  *  *



「ヒロト様、デザートをお持ちしました。失礼致します」


「ティアナか。うむ、苦しゅう‥‥‥‥‥‥あるわっ!!」


 ティアナが浴場のドアをガラガラと開けていた。俺は顔を真っ赤にして、すぐさま身体を首もとまで湯船に沈めた。


「風呂の中にデザート持ち込む家がどこにあるよ!? というか異性と浴場を共にするのも間違ってる!」


「ヒロト様の快適なお時間をお手伝いしたく存じておりますので」


 ティアナは平然と、笑顔だった。やはりその笑顔が怖い。


「ルール追加だ! 俺の入浴中に浴場入るの禁止!」


「はい。以後気をつけます」



 *  *  *  *  *



 ――ゴソゴソと、何か妙な音に俺は目覚めた。ここは俺の寝室。他に誰も居ないはずなのだが。幽霊とかマジでめろよ? いや、存在しないってのは知ってるけど。


 俺は上体を起こすと、辺りを見渡した。だんだんと視界がはっきりしてきて、そこに見えたのは――。


「随分と早いお目覚めですね、ヒロト様。まだ日の出は先ですよ」


「あぁ、なんだセシリーか。そうだな、俺はもう少し寝かせてもら‥‥‥じゃねぇ!!」


 俺はベッドから跳ね起き、照明をつけた。


「こんな時間に俺の部屋で何してんだよ!?」


「ヒロト様の快適なお時間を邪魔しないため、お眠りの時にお掃除をと思いまして」


 セシリーは平然と、真顔だった。その気遣いは痛み入る限りだが、夜中に勝手に部屋に入ってこられるのはやはり抵抗がある。


「ルール追加、俺が寝てる時に部屋に侵入するの禁止。掃除は俺が部屋に居ない時で頼む」


「はい。以後気をつけます」



 *  *  *  *  *



 夕食の席で俺は考えた。


 うーん。いつも思うのだが、何故毎日こうも宴のような食卓になっているのだ? 俺はこう見えても食い意地は張っている方なので、毎回残さず食べているが‥‥‥。


 もちろん恵んでもらっていることには感謝している。しかし、もっと効率的に食材を使えるのではないだろうか。


「なぁ」


「「何でしょうか」」


 二人が同時に俺を見つめた。笑顔と真顔。ちょっと恥ずかしいような、怖いような。


「どう見ても食事の規模が三人分じゃないと思う。次から料理を減らしてくれないか?」


「「はい。以後気をつけます」」


 ――随分とすんなり了承してくれたな‥‥‥。



 *  *  *  *  *



 ――おぉ、料理の量が減っている! ステーキ、スープにサラダ‥‥‥。ファミレスの定食並みだ! 素晴らしい進歩である。これならば、食糧の備蓄も差し支えないだろう。まぁ、どこから仕入れているのか分からないけれど。


 俺は満面の笑みでステーキを頬張った。


「ヒロト様」


 セシリーは俺を呼ぶと、彼女の分であるはずのステーキを切り分けて皿に移し、俺の方へ差し出した。


「私の分をどうぞいただいてください」


「え、いや、けど‥‥‥」


「遠慮なさらないでください」


 セシリーが真顔で言うので(いつものことだが)、俺はしぶしぶ皿をこちらに寄せた。急にどうしたのだろうか。


「ヒロト様」


「‥‥‥どうした?」


 今度はティアナだ。彼女もまた、自らの分のステーキを切り分け、皿を俺の方に流した。


「私の分も、どうぞ。遠慮なさらずに」


 えぇ‥‥‥?


「お前たち、どうしたんだ‥‥‥?」


「「ヒロト様の快適なお時間をよりよく提供できるよう、努めさせていただいております」」


 彼女らは平然と、真顔&笑顔だった。お笑いコンビかってくらい息ピッタリだ。勘弁してくれ。


「ルール追加だ! 平等に与えられたものを俺にあげるの禁止!」


「「はい。以後気をつけます」」



 *  *  *  *  *



 俺はルールを追加・改正しながらも、従者メイドの成長(?)に努めてきた。‥‥‥いやマジで。本当に不意打ちがめちゃくちゃ多くて大変だった。心遣いには感謝するが、過保護の三文字は俺を殺す。


 途中で何度も挫けた。だが、ダライフが俺を支えてくれた。そのおかげでここまで来れたのだ。だから今、俺はこうしてソファーでのんびりできている。


 まだまだ過保護なところはあるが、あまりやりすぎても彼女らを堕落させてしまうだけだろう。今回の従者メイド改革は、大成功だと言っていいと思う。


 俺の血の滲む努力により出来上がったこの完璧ともいえるルールなら、俺をのんびりさせることができる。


「「ヒロト様。快適なお時間を提供するため、純金製のソファーベッドをご用意致しました」」


「んな高くて硬いもんで寝転がれるかぁ!! ルール追加だ!!!!」

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