I'm sick, b'cuz luv u.

亜蘭炭恣意

0.

 ――どうして、こうなった。


 何度、同じ言葉を唱えたのか、もう分からない。

 荒い息、震える体、痺れる手。その指に持つ、液体の入った小さな注射器。

 目の前には彼女が横たわっている。頭部から血を流し、魂が抜けたかのように目を閉じている。呻き声一つすら漏らさず、彼女は眠っていた。

 

 ――どうして、こうなった。


 最初の願いはなんだったのか。一体、何を望んでこうなったのか。何がどうしてこうなって、今ここに立ち、そして横たわる彼女を見下ろしているのか。

 もう、何も分からなくなってしまった。

 選択肢は様々あり、引き返せる地点は幾らでもあっただろう。しかし、当時はそれを選択肢だとも思わず、自分がどこに立っているかなど見向きもしなかった。

 

 だから、どうしてこうなったのか、分からないんだ。

 

 彼女は大切な人だった。自分が傷付けるどころか、ずっと守りたい人だった筈なのに。

 親友も彼女を大切にしていた。自分がこんな事を彼女にしたと知ったら、彼は怒るだろうか。

 ――怒るだろう。それこそ、烈火の如く憤るだろう。

 ……月日が経てば、許してくれるだろうか。彼も、彼女も。

 失笑する。何を言っているのか。自分が許される道理など、ある筈がないと言うのに。


 ……嗚呼――、どうして、こうなった。


 もう何も分からない。心臓は軋み、呼吸は乱れ、脳は狂った。

 自分の最初の願いは、望みは――、『原点』はなんだったのか。

 今更考えても分からない。もう、何も分からないんだ……!

 彼女の傍に蹲り、首の血管に注射器の針を差し込んだ。

 震える手。垂れ落ちる一滴の赤い血を目で辿りながら、最後にもう一度だけ唱えた。


 どうして――――、こうなった。

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