常闇世界の救世譚

神坂蒼逐

ハジマリノセカイ

prologue

 数世紀前のこの世界。今は誰も知ることのない虚無の時代があった。

 唯一残った書物によればとても平穏で“人間しかいない”世界であったらしい。そんな世界でぬくぬくとぬるま湯に浸かった生活を日々淡々と続けていた、ある日のことだった。

『この世界を支配しに来た。大人しく諸国の人間どもは我々に服従し、奴隷となれ』

 そう、突然現れた謎の生命体に告げられた。勿論そんなことを容易に許す人間などいる訳なく反対派の人間が圧倒的だった。しかし——。

『“消えよ”』

 一言。たったその一言で本当に立ち向かった人間は消えていった。

 それ以来、純粋な人間は新たな世界の支配者である『Unknown high Original human』、通称『UHOH』に奇しくも絶対服従しなければならなかった。

 誰も自由なんてない。UHOHに好きなようにされ人間の存在価値なんてねじ伏せ消してしまう。そんな圧倒的力があったことも事実だったからこそ人間は誰も反抗なんてすることは可能ではなかった。

 国家ぐるみで戦争を起こそうとも部下レベルのUHOH二人のみだけで戦争を終結。次の反乱が起きぬように反乱を起こした人間の支持者には一生続く地獄の苦しみを与えられた。感覚のみが地獄の中へ飛ばされ、本体はぐちゃぐちゃのめったざしにされることも多々あった。

 だが恐ろしいのはそこではなかった。その残虐に殺された人の家族は、絶望の淵に突き落とされたも同然……いや、それさえも超えていただろう。

 自分の家族、もとい夫や恋人を殺された方からしたら憎悪の対象であるUHOHに無理やり子種を植えられてしまう。読んで字の如くそれは悲惨だった。

 抵抗すれば腕の一本は使えなくして回復させる。でも、痛みは残したまま。

 無抵抗でも、育てるための力がなければバラバラに体を刻まれて新たなUHOHの媒体として使い捨てられる。

 育てる力もあって抵抗していなかったとしても、一体のUHOHがその子種を植えた人間を手放せば、その人間は結局性奴隷として扱われ、普段奴隷として扱われている人間からは嫌悪の対象として忌み嫌われ果てにおもちゃにされ、UHOHからも良い待遇を受けずこれもまたおもちゃにされるだけ。

 そんな生活しかできないUHOHの子供を産む力を手に入れた女性、今では『授神子かみごうけ』と呼ばれている。世界に現在でも数%いるかどうか……。

 そんな授神子が出産を始めてした時、世界は180度変わってしまった。

 その時生まれた子供を『神風吹 元初はじめ』と名付けられ、この時代を制す種族である、人間とUHOHのハーフが生まれたこの年を境目に西暦、という名称は打ち消され、新しく神聖暦という新しい暦が始まり、新しい世界そして新しい時代は、幕を開けた。


「おい、愚民。目障りだからこの教室から出ていってくれないか?」

「そうだそうだ!この神童であられる御門レディオ様がこうおっしゃられているんだ!さっさとこの教室から立ち去れ!」

「ご、ごめんなさい……っ」

 強い口調でクラスメイトから追い出されたのは私こと鎖夢メリア。

 私がこんなふうに扱われているのには理由があった。それは——。

「あ、神の欠作さんだ。どかないと」

「そうだね……。失敗に関する天賦の才が移っちゃう」

 そう私を嘲笑いながら私の歩く道を開ける。

 『神の欠作』。それが私の二つ名だった。本来であれば使える異能によってそれぞれ人によって千差万別な二つ名が与えられる、はずだった。しかし私の異能は他の人と比べ明らかに弱かった。

 神の欠作と呼ばれるのを拍車にかけたのは、実践訓練でのことだった。

 ただでさえ周りからブーイングを受けながら戦おうとした時だった。

 試合開始直後速攻で相手を翻弄しないと私は絶対に負けてしまうと思い、最大出力で異能を発動し——ようとした。

 しかし、その時に暴走。私は重度の怪我を負い1週間ほど入院する羽目になってしまった。

 これをきっかけにずっと蔑まれたりしてきた。今では私は人間であるとまで嘯かれている。残念ながら信じる人がとてつもなく多いが。

「はぁ、なんで私には異能の才能がないんだろ……。本当に私は人間だったりするのかな」

 異能、これが私の人生を左右すると言っても過言ではない。

 ネイパージ王政国。私の住むこの国は、圧倒的かつ極端な異能主義な国だった。異能が強かったり多かったり。とにかく秀でていれば貴族などの高いくらいにつける。逆に劣っていたり、そもそも人間だったりすると

 その人々は問答無用で奴隷にされる。ある程度の力さえなければ、の話だが。

 異能はUHOHと人間とのハーフである魔人であれば生まれつき何かしらいくつかの異能が開花する。しかしそれは大体10才を超えたあたりにならないとわからない。

 強い異能を持って生まれることを望み、贅沢をさせた。望み通り強い力を持って生まれたのであればそのままいい生活を続けられることが大半だ。よっぽど理想が高い家でなければ、の話だが。

 しかし望まれない弱さだった時、親はキッパリと関係を絶ってしまう。自分たちがこんな無能産むはずない、というように。

 大抵その後は分かりきっている。地下施設に入らされ労働の義務を課せられる。監督する人は大抵感覚操作系の異能を持っているため、跡を付けずに痛めつけることだって可能だった。

 それでも無能が過ぎて収拾がつかないくらいに無能であれば、焼き跡をつけただ一人暗い部屋に閉じ込められる。それから大体2週間ほど放置され、その後は……。

 昔習ったことを思い出して鳥肌が立ったので頭を振る。考えるだけですぐにゾワってする。

 とりあえず私は平凡に生きられるようにならなきゃ。そう思う私だった。

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