第160話:未確認飛行物体
戦いを終えた後、ピューロは胸元から白く輝く冒険者カードを取り出した。
「二人と戦えて面白かったよ! 僕の本当の名前はピュロンっていうんだけれど、状況によって呼ばれ方が変わるのもめんどくさいからピューロって呼んでね!」
セネカもルキウスもその名前を聞いたことがなかった。正確に言えば耳にしたことはあるはずなのだが記憶に残っていなかった。
しかしそんな二人でもピューロが出した冒険者カードのことは知っていた。
「白金級冒険者……」
強いはずだとセネカは思った。
冒険者の最高峰に君臨するのが白金級冒険者だ。
目の前の少年がそうなのであれば、あの強さも納得できる。
ピューロは本当は三十代なのだが、それを知らないセネカとルキウスは同じぐらいの歳にもここまで強い人がいるのだと感心してしまった。
そして自分たちにも強くなれる余地があるのだと勘違いして、またまた成長を加速させることになるのだけれど、それは後の話だ。
「さてと、そろそろ日も暮れそうだし、野営の準備をしよっか!」
ピューロがそう言ったのを聞いてセネカとルキウスは「えっ?」と声を上げた。
そんな時間まで戦い続けていたことにも驚いたけれど、ピューロが自然に行動をともにするような発言をしているのがよく分からない。
「移動を始めたい気持ちもあるけれど、ちょっと疲れちゃったしね。ボクも思いのほか力を使っちゃったし、今日はもう休むことにしようよ」
ピューロは「いいよね?」みたいな言い方だけれど、セネカ達はそもそもの部分が気になっているのだ。
だけど、まぁここまで戦ってピューロに害がないことは分かっているし、白金冒険者になるくらいだから頼りになることもあるだろうと思って、二人はピューロと旅路を共にすることをなんとなく決めた。
◆
「そうそう、そう言えばガイアから聞いたんだけどさ――」
手分けして食料を調達し、ピュロンが丁寧に作った料理を食べていると突然そんな言葉が聞こえて来た。
あまりに自然な流れだったのでスルーしてしまいそうになったけれど、セネカはなんとか踏みとどまった。
「ピューロ、ガイアってどのガイア?」
「……? 『月下の誓い』のガイアのことだけど?」
ピューロは首を傾げている。
セネカにとってはガイアといえばもちろん同じパーティのガイアに決まっているけれど、その名前がピューロから飛び出すとは思っていなかったのだ。
「あぁ、そっか。僕はガイアにお世話になったんだよ。他にもマイオルとモフにもね」
ピューロは事もな気に話しているけれど、今度はルキウスが反応した。
「ピューロはモフを知っているの!?」
「うん、そうだよ。いま彼女達は三人で旅をしているからね。ボクはガイアの話を聞いて彼女の魔法に興味を持ったんだよねー。そしたらマイオルが良いって言ってくれたからガイアに魔法のことを教えてもらったって訳」
あぁ、だから自分たちのことを知っていたのかとセネカは妙に納得してしまった。
でもそうならそうと言ってくれても良かったと思ってしまう。
「三人……って、プラウティアは?」
「プラウティアさんは王都に残って活動をしているって聞いたよ。うーんとね、そう、確か『羅針盤』ってパーティに臨時で入っていたんじゃなかったかなぁ。ロマヌス王立冒険者学校の同期のみんなで作ったパーティって聞いたような気がするなぁ」
セネカはプラウティアをはじめとしたみんなの顔を思い浮かべた。
同期というとニーナやファビウス、プルケル、ストローをはじめとした多くの冒険者がいる。
プラウティアが行動を共にしているのはセネカがよく知る人たちかもしれないし、そうでないかもしれない。
あれから一年経ったということは、みんなもう冒険者学校の三年生になり卒業を控えているということだ。
「『月下の誓い』とモフはトリアスのスタンピードの後に有名になったからねぇ。国家存亡級の騒動終息に貢献した銅級冒険者として引っ張りだこに違いないよ!」
セネカはその言葉を聞いて、少し安心した。みんな元気にやっているようだ。
同時に切なくもなった。早くみんなに会いたいけれど、簡単に会いに行ける場所に自分はいないのだ。
「ピューロ、もっと話を聞かせてよ!」
「うん、いいよ!」
セネカもルキウスも旧友の話を聞きたくて仕方がなかった。
突然魔界に吸い込まれてしまったあとのことは何にも知らないので、どうなったのか興味がある。
だけど、快く受け入れてくれたはずのピュロンの顔が突然曇り始めた。
何か変なことを言ってしまったかと思ってセネカは振り返ったけれど、さすがにおかしくはなかったはずだ。
「ちょっと待ってね……。何か大事なことを忘れているような」
さっきまで飄々としていたピューロが腕を組み、首を傾げている。
ここまで関わった限りではあまり思い悩むような性格ではないと思っていたので、なんだか珍しい様子のように思った。
「トリアス……スタンピード……。うーん、もうちょっとで思い出せそうなんだけどなぁ……」
ぶつぶつ言いながらピューロは停止してしまった。
何かあるんだろうけれど、きっと自分たちには関係のないことだろうからと思ってセネカとルキウスはぐつぐつ煮込まれているスープを器に取り、食べようとする。
「あー!!!!」
だが、ピューロは大きな声を上げながら立ち上がった。
そして手を振るい、一瞬でスープが入っていた鍋や器を回収し、焚き火も消してしまった。
横を見ると、大きな銀色の円盤のようなものが出現している。
セネカとルキウスは何度も攻撃を受けたのでこれがピューロのスキル【水銀】で出来たものだと分かっている。
「早く帰らないとまずいよ! またゼノン様に叱られる!」
ピューロは慌てた様子でセネカ達の後ろに周り、二人の背中をガンガン押し始めた。
「早くそれに乗ってよ! 時間がないんだ。ガイア達と約束したからキミたちとゆっくり楽しく帰ろうと思っていたけれど、そんなことしてる場合じゃないよ!」
セネカは訳もわからぬままピューロが出した物に乗らされた。
ピューロはずっと何やら言っているけれど、なんのことか分からない。
何事かとルキウスは聞こうとしたけれどその動きをピューロは制止した。
「詳しいことは移動を始めてから話すからちょっと待って! 間に合わないとまずいんだよ。ご飯も後で小休止の時に食べれば良い。とにかく今日のうちにできる限り進もうよ」
まぁ仕方ないかと思ってルキウスは言葉を飲み込んだ。
ルキウスが隣のセネカを見ると、彼女が非常に機嫌が良いことが分かった。
「ルキウス笑っているよ?」
「やっぱり? だってなんか面白そうじゃん、これ」
「これ絶対速いよね?」
「うん。そんな気がするよね。なんか形がね⋯⋯。すごい勢いで移動しそう!」
きっと自分もセネカと同じ顔をしているんだろうなとルキウスは感じた。
これから何が起きるのかは分からないけれど、あれだけ実力を持ったピューロが慌てているのだ。とんでもないものが見られるかもしれない。
そして自分たちの直感が正しいのだとしたら、きっと……
「じゃあ、出発するよ! 目的地はロマヌス王国、都市トリアス! 追悼祭がもう始まっちゃうんだ! 全力で進むから覚悟していてよね!!!」
言い終わる前にピューロは銀の円盤を高速で動かし始めた。
その夜、各地で未確認飛行物体が確認されたとかされないとかいう噂が飛び交ったけれど、真実を知るものはどこにもいなかった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
第十四章:月詠の国編は終了です。
次話から第十五章:追悼祭編が始まります。
まずはプラウティアの視点から物語が始まります。
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