第124話:不在
スタンピード発生から一ヶ月後、ロマヌス王国の王都ティノープルの広場に多くの人が集まった。
はじめに姿を現したのは国王だった。
国王は先日都市トリアスで発生したスタンピードが無事終息したことを宣言して、貢献した冒険者たちに感謝の意を表明した。
民はスタンピードが落ち着いたことを知っていたけれど些細な噂や心配事は絶えなかった。しかし、国王が宣言を出したことで安堵した。
被害が軽微だったことも民が素直に喜ぶことができた要因だった。
その後、教皇アナクレトゥス、聖女フィデス、元枢機卿グラディウスが姿を現した。
教皇アナクレトゥスは【神聖魔法】を新たに授かった者がいることを民に伝え、彼がスタンピードの終息に大きく貢献したことを強調した。
聖女フィデスは聖女と聖者が担う使命について改めて語り、元枢機卿グラディウスは聖人たちが使命を遂行するためには彼らに一定の自由を認めるべきであると訴えた。
国王、教皇、聖女の三者は、聖者たちの自由を尊重することを宣言し、規則の逸脱者に対して厳格な措置を取ることを示唆した。
スタンピードの終息、そして聖者の誕生の発表を聞いて民は大きく喜んだ。
しかし、中にはその光景を険しい目で見つめる者たちもいた。
彼女たちは後に名を轟かせることになるけれど、今は無名の少年少女でしかなかった。
『神通力』マイオル
『巧妙無比』モフ
『榴火』ガイア
『
『涓滴』キト
そんな彼女たちの元にセネカの銀級冒険者昇格が決まったという報せが届いたけれど、その成果を喜ぶ者は一人もいなかった。
◆◆◆
セネカは幸せな夢を見ていた。
両親やルキウス一家とともにコルドバ村で楽しく暮らす夢だ。
毎日が楽しくて、希望に満ち溢れている。
エウスとユニウスに剣を教えてもらって、アンナとヘルウィアには料理を教えてもらっている。
キトともよく遊んでいる。
キトはよく話を聞いてくれて、いつも優しく笑っている。
村長夫妻の家にもよく遊びに行く。
お祝い事があるとみんなでカノンさんの羊肉を食べて、お腹いっぱいになる。
時には食べ過ぎてしまうのだけれど、そんな失敗も含めて良い思い出だ。
ルキウスとは変わらず冒険者の修行を続けている。
魔物を狩ったり、植物を取ったり、毎日色んなことに挑戦している。
時には手を繋ぐことだってある。
だって、セネカとルキウスはもう十四歳で⋯⋯。
スキルは【縫う】と【神聖魔法】で⋯⋯。
あれ?
マイオルは?
ガイアとプラウティアは?
エミリーは? ノルトは?
ピケ、ミッツ、院長先生、シスター⋯⋯。
そうだ。
お父さん達にアッタロスさんとレントゥルスさんの話も聞かないと⋯⋯。
あれ?
あれれれ??
セネカが目を覚ますと、左手に温かい感触があった。
横を見てみると、ルキウスが眠っていてセネカの手をニギニギしている。
セネカはとても嬉しい気持ちになったけれど、すぐに強烈な違和感が湧いて来た。
ふと上を見ると、そこには赤い空が広がっている。
「⋯⋯ここはどこ?」
セネカの声が聞こえたのか、ルキウスの方から「むぅ」という声が聞こえて来た。
突然ルキウスは上半身を起こしてセネカの方を向いた。
「セネカ、大丈夫? 怪我はない?」
ルキウスは返事が来る前に魔法を発動して、セネカを回復している。
「私は大丈夫だけど、ルキウスこそ大丈夫?」
「あぁ、僕は大丈夫だよ。それよりも⋯⋯」
少し冷静になったルキウスは周囲をぐるりと見回し、ゴクリと息を飲んだ。
「ここは⋯⋯?」
「最後にあのガーゴイルが亜空間を発生させて、ルキウスを吸い込んだの。私はルキウスを掴んだんだけど、気づいたらここに来てた」
「⋯⋯そっか。思い出したよ。僕はアイツにまんまとやられたんだ」
ルキウスはそう言った。
「セネカ、ここが何処だか知ってる?」
「ううん。知らないよ。ルキウスは知っているの?」
「あぁ、知っているよ。教会で何度も調べたことがあるんだ」
セネカはルキウスの顔を見ながら先の言葉を待った。
「ここは魔界。異形の魔物達がひしめく孤独な世界だよ」
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いつもお読みいただきありがとうございます!
ここまでたどり着くことができました。
最終回であるような流れが続きましたが、もうちょっとだけ続きます。
次話から第十二章:魔界編が始まります!
週一目安の不定期更新に変更しようと思いますのでよろしくお願いします。
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