第46話:この魔法は芸術よ
セネカ、マイオル、ガイアはSクラスの四人と一緒に高威力魔法練習室にやってきた。
ストロー、プルケル、クロエリア、メネニアの四人があの場で魔法スキルを持っていた者たちだ。メネニアは回復魔法の使い手だが、魔法理論に詳しいのでマイオルがお願いして来てもらった。
「さて、それじゃあ、ガイアお願いね」
マイオルに促されてガイアが前に出てくる。
ガイアはゆっくりと息を吐いてから魔法の準備にとりかかった。
◆
セネカとマイオルがガイア、プラウティアと週末パーティを組んだことはSクラスの生徒にとっては大きな衝撃だった。
特待生の二人だ。誰もが自分のパーティに入って欲しかった。実績も実力も申し分ないし、性格も悪くなさそうだ。
しかし、前のめりに構えていたところで、セネカとマイオルは自分たちでパーティを組んでしまったという話が流れてきた。
始めはみんなお試しなのだと思っていた。だけど、一向にパーティが解消される気配はないし、二人がガイアとプラウティアを絶賛している声が聞こえてくる。
そうなると今度はガイアとプラウティア自身に興味が移ってくる。
もしかしたらとんでもない才能を二人は持っているのではないかということになり、情報戦が始まった。
プラウティアの才能は分かりやすかった。
戦闘力こそSクラスの者には劣るが、冒険者としての業績は格別だ。
特に、スキル【植物採取】を活用して新たな素材採集方法を確立した業績は評価が高く、すぐに銅級冒険者になるだろうと言われている。
なるほど、セネカとマイオルはただ強くなることを求めているわけではない。冒険者として広い能力を求めているのだと周囲の人間は考えた。
ガイアはいま一年生で最も勉強が出来る学生だ。そこに価値を見出したのではないかと考えて何人もがセネカとマイオルに探りを入れた。しかし返ってきた答えは「魔法がすごい」だった。
だけど、いくら調べてもガイアの魔法をしっかり見た者はいなかった。
ガイアは魔法の実技系の授業を取っていない。クラスの模擬戦で魔法を使ったという話も聞かない。
段々とガイアの存在を訝しげに思う人間も出てきた。Bクラスにははっきりと妬みの声を上げる者もいるという。
そんな時にマイオルがガイアのことを相談したいとストローに持ちかけたのでSクラスの大半が集まったのだ。
◆
ガイアは左腕を前に出し、手のひらを壁に向けた。
まずは身体の魔力を動かし、流れを作る。この流れを作るというのが魔法の行使に非常に大事だ。
次に身体の底から湧き出てくる魔法を【砲撃魔法】用に変換していく。
変換した魔力が魔法の種になる。
そして大半の魔力を使って、この『種』を圧縮する。
とても強い力で圧力をかけ続けると『種』が臨界に達して変質するとガイアは思っている。
最後に、圧力をかけたまま、魔力が弾けないように身体の中を流して左腕の先まで運ぶ。この時、流れは速すぎても遅すぎても良くないが、スキルの力で適切な速度にすることができる。
ガイアが【砲撃魔法】を放つ。
ズガアアアン!!!!
身体の芯を揺さぶるような重くて大きい音が鳴る。
セネカとマイオル以外の四人は予想外の衝撃に立っていられなくなり、床に倒れた。
倒れながらも誰もが口を開けて驚愕に打ち震えている。
「最初はそうなる」
セネカの小さな声だけが空間に響き渡った。
◆
最初に正気に戻ったのはプルケルだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! この魔法の威力はなんだ!?」
「だから言ったじゃない。ガイアが同じ魔法を百回使えるようになったらそれだけで白金級冒険者になれるかもしれないって」
マイオルは抗議するようにプルケルに言った。
「そんな話、はぐらかされているだけだと思うに決まってるじゃないか!」
「まぁ、確かに。これを見ないと分からないわね」
初めてガイアの魔法を見た時にマイオルも度肝を抜かれたので、プルケルの気持ちが分からないでもなかった。
「芸術だわ⋯⋯」
床に座ったまま、クロエリアが言った。
「この魔法は芸術よ。それ以外の何物でもないわ」
Sクラスは変人の集まりなので、またおかしなことが始まったとマイオルは思った。
「そうだ。クロエリアの言う通り、今の魔法は芸術的だったよ」
ストローも便乗して拍車がかかってしまった。
「やっぱりあなたもそう思ったわよね? 全ての要素が噛み合っていて、工程に一つの無駄もない完璧な魔法よ!」
「あぁ、魔力を圧縮する部分についてはルーカスの定理が役立つんじゃないかと俺は思ったがどうだろう」
「しっかり計算してみないと分からないわね」
マイオルには良く分からない話が始まった。
そこに当人のガイアも入っていく。
「圧縮開始のところはわからないけれど、圧縮して魔力が変質する部分はセンドフ予想で説明できるのではないかと思っている。だが、うまく検証できないんだ」
そこからガイア、ストロー、クロエリアでの魔法理論の議論が始まったので、マイオルはまだ呆然としているメネニアやプルケルと話をすることにした。
二人ともかなり驚いたようだけれど、ガイアの魔法を賞賛し、なんとか熟練度を高めようとするのは当然だと話した。それぞれ、対処法として思い当たるものがあるということだったので後で教えてくれるそうだ。
「私はレオの構想が近いんじゃないかとおもったけれどね」
ふと横を見るとセネカが魔法理論の議論に入ってたまに発言している。
それを見てマイオルは驚き、飛び上がった。
◆
予想外のことがいくつかあったものの、さまざまな助言を受けてガイアは訓練を開始した。
すぐに効果が見込めるものではないけれど、一人で考え込んでいた時には見えていなかった点が明らかになり、人に相談するということの効力をガイアは改めて認識することができた。
ガイアの魔法を目の当たりにした四人は、ひどく興奮した様子で、他のSクラスの人たちにガイアの魔法の威力を伝えた。
話を聞いた仲間たちは、最初は誰も信じなかったが、嘘を言いそうもないメネニアが同じことを言っているのを目にしたり、ガイアとストローとクロエリアが良く議論するのを見たりしてから、段々と話を信じるようになっていった。
そして、その噂が広まってからは、ガイアがセネカたちとパーティを組んでいることに疑問を持つ者はいなくなっていった。
むしろ、ガイアの将来性を独占しようとマイオルたちが動いたのではないかと考える者が極少数あらわれることになったのだが、それはまた別の話だ。
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