第45話:魔法の天才

 二週間後、セネカたち四人はキトと一緒に王都の森に入った。

 ガイアとプラウティアは初対面だったので互いに自己紹介をした。


 キトはセネカとマイオルの冒険者としての動きを目の当たりにして改めて見直したり、ガイアとプラウティアの博識さに感嘆したりした。


 特にプラウティアは植物素材に関して実践的な深い知識を備えていたので、キトはしっかりと記憶して、帰ってから紙にまとめることにした。


 キトの濃縮ポーションは不味すぎたので不評だったが、プラウティアが苦味を和らげる花の蜜を教えてくれたので、味についても改良をする予定である。


 キトは実地を学び、製薬は素材採集方法の制限を受けるということを改めて実感したので、定期的に護衛をお願いして勉強することにした。





 ガイアは授業が終わると毎日のように魔法練習場に通っている。この施設の高威力魔法練習室はたいてい空いているので、【砲撃魔法】を使ってから他の鍛錬に入る。


 最近はセネカが魔法理論の勉強に力を注いでいて、ガイアはセネカとよく議論をする。魔法理論を理解するためには物理学や数理の知識が欠かせないため、セネカはその辺りのことについても猛烈に勉強していて、成績が非常に良くなってきた。


 セネカは魔法を使えるようになるために魔法理論を勉強しているようだが、苦戦している。魔法理論というのは魔法スキルを持つ人が向上するための理論であって、新たに魔法を使えるようになるための理論でないのだから当然だ。


 マイオルは「セネカのことを良く知る良い機会だから付き合った方が良いわよ」とガイアに言った。セネカの質問は鋭くて勉強になるのでガイアもいやではなかったが、マイオルの発言の意味がいまだによくわからない。


 ガイアはセネカと話を重ねるうちに、魔法理論を使ってどうにか【砲撃魔法】を成長させられないか考え始めた。


 最近では寝ても覚めてもそのことばかりに頭が行く。


 ガイアの分析では、【砲撃魔法】を使うにあたって、工程が大きく五つあると考えている。

 それは準備、魔力循環、魔力変換、魔力圧縮、発射だ。このうち、魔力圧縮と発射のところで異常に魔力を使ってしまうために、【砲撃魔法】は一日一回しか撃てない。


 最初の三つの部分で止めるか、魔力圧縮の部分を調整できれば試行回数が増えて、熟練度を稼げるのではないかとガイアは考えているのだが、どうやってそれを実現したら良いのかが分からない。


 ある日、うんうん唸りながら紙で計算をしていると、部屋に遊びに来たマイオルが言った。


「ねぇ、ガイア、それって前に言っていた【砲撃魔法】の件よね? ガイアさえ良ければSクラスの天才に相談してみるっていうのはどう? 答えは出なくても益はあると思うわよ」


 マイオルは困ったら相応しい天才に相談し、それ以外のことは自分でなんとかするという方法を王都に来てから覚えた。ちなみにその天才の中にはセネカやキト、ガイア、プラウティアも入っている。


 ガイアは是非にとお願いしたので、次の日には『魔法の天才』と話すことになった。





 授業後、ガイアが特別演習室に入ると、なぜかSクラスの大半の人がそこにいた。


「あー、ガイア! 来たのね。こっちこっち」


 そう言ってマイオルが手を招いたので、ガイアはみんなに注目された。


「ガイア、紹介するわ! ストロー・アエディスよ!」


「よろしく、ガイアさん。あなたのことはよく知っているよ。俺やプルケルを抑えての学科一位だ! セネカさんやマイオルさんからも良く話を聞くしね。俺のことは気軽にストローと呼んで欲しい」


「ガイアです。よろしくお願いします」


 ストロー・アエディス。プルケル・クルリスと並んで王都の冒険者ギルドでは有望株として有名だ。同学年の出世頭でもある。


 周囲にあまり関心のないガイアでさえも、ストローが緻密な地魔法の使い手だと知っている。


「あなたが魔法の天才なのね」


 ガイアは小さい声で呟いたがストローには聞こえていた。


「天才? なんのこと?」


「マイオルがあなたのことを魔法の天才だって言っていたのよ」


「いやぁ、俺なんかが⋯⋯」


 自信なさげなストローを見てマイオルが言った。


「あなたが天才じゃなかったら誰が天才なのよ!」


 それを聞いたストローの顔はみるみる赤くなった。

 ガイアは心の中で『なるほどね』と言った。


「お、俺は模擬戦でもマイオルちゃんに負け越してるし⋯⋯」


「それは近距離戦だからでしょ。あなたが本気で魔法を使ったらあたしは土石流に潰されるわ」


 その後もストローは何かモゴモゴ言っていたが、ガイアには聞き取れなかった。

 マイオル以外はストローの気持ちを分かっているので、なんとも言えない空気が部屋に漂っている。


 ちなみに、マイオルは「大人になったらお父さんのお嫁さんになる」と公言する幼年期を過ごしており、恋愛に対する免疫がない。





 収拾がつかないように思ったが、察したセネカがうまく話を進めてくれたため、ガイアはやっと魔法の相談が出来ることとなった。


 隠すことでもなかったのでガイアは包み隠さず話をした。


「なるほどね。話は良く分かったよ。聞く限りでは魔力の操作性を高める訓練をすることが肝要に思えるけれど、どういう魔法なのかがいまいち分からないな。もしよかったらガイアさんの魔法を見せてはくれないだろうか?」


 ストローは自信満々にそう言った。


「もちろん構わないけれど、ここにいる全員っていうのはちょっと⋯⋯」


「あぁ、ありがとう。もちろんそうだよね。関係の薄い人間に魔法を見せるのは本意ではないだろう」


「そうね。魔法スキルを持っていない人はここまでということにしてもらおうかしら。魔法が使える人にはむしろ見てもらって感想を聞くのが良いと思うけれど」


 ガイアは見知らぬ人が多いのに戸惑って言っただけだったが、マイオルがうまくまとめたので、誤解を解くことはしなかった。そのため、該当しない者は散り散りになって行った。

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