第40話:「かかった」

 ぞろぞろとみんなで校舎裏に移動した。

 所々雑草が生えているが、地面が見えていて平坦だ。広いので戦うのにも問題ないだろう。


「それじゃあ、まずはプルケルとセネカに戦ってもらおうか。模擬戦用の武器を持ってきたからそれぞれ自分に合うものを取ってくれ」


 お呼びがかかったのでセネカは前に出た。

 同時にプルケルも前に出る。

 プルケルは冷静を装ってはいるが、よく観察すると鼻息荒く気合十分だ。


 セネカは置かれた武器を見る。様々な種類の剣や盾がある。プルケルは迷わずに長槍を手に取って、軽く振り始めた。槍使いのようだ。


 武器の中には木槌や斧もある。こういうものを使う人間がこの中にいるのだろうか。


 セネカは標準型に近い直剣を手に取った。片手で扱いやすい重さのものだ。曲剣もあったが反り方が好みではなかった。


「ルールは特にないが、あくまでも模擬戦だから相手に重傷を負わせるような攻撃は避けること。ある程度の怪我は学校の回復士が治してくれるから、思い切り戦ってくれ」


 プルケルは槍を両手で構えた。力が適度に入っていて隙がない。

 セネカも剣を両手で持ち、構える。


「はじめ!」


 アッタロスの声が響くと同時にプルケルは槍を魔力で覆った。魔法と槍を組み合わせた攻撃をするのだろう。

 槍は模擬戦用のものなので魔力親和性は低いだろうが、強力な攻撃が繰り出されるに違いない。そう思ったセネカは自分を針とみなし、攻撃の準備をした。


 薄く息を吐いたプルケルが動く。

 まずは刺突だ。

 セネカは懐に入るように前進しながら回避した。


 プルケルはセネカの動きを見て、即座に横薙ぎに払った。

 セネカは受け止めようとしたが、誘われているように感じたので避けるために直前で下に沈み、潜り込んだ。

 セネカの頭の上で『バチッ』と音が鳴り、槍が通り過ぎる。


「雷」


 セネカはそう呟いてプルケルを斬りつけようとしたがうまく躱された。


「かかった」


 そう言ったプルケルは身体の中の魔力を胸の辺りに凝集させてから解き放とうとした。


 セネカは強力な技が来ると読んで、全力でプルケルを蹴り飛ばした後、足に力を込めて後退した。セネカが離れた直後、『パァン!』と音がしてプルケルの身体の周りに雷の魔法が弾けた。プルケルはセネカに蹴られて少し体勢を崩している。


 セネカは今の攻防でプルケルの厄介な能力を悟った。距離を取れば槍でチクチク攻撃され、近づけば魔法の攻撃を受ける。攻略する方法はいくつか思い浮かぶが、一番手っ取り早いのは圧倒的な速さで攻略することである。


 セネカは再び足に力を込めた後、思いっきり地面を蹴り、空気を軽く【縫う】。スキルの強さを調整できるようになったので、全速ではないものの非常識な速さでセネカは動く。


 セネカはまず真っ直ぐプルケルに向かった後、身体をくるっと回転させながら真横に方向を変え、再び斜めからプルケルに近づいた。この時点でプルケルの反応がなかったので、騙されている可能性を頭に置きながらもセネカは首に剣を突きつけた。


「そこまで!」


 アッタロスが声をあげる。


 セネカの動きを追えたものがここに何人いたのだろうか。それほどにセネカの攻撃は異次元のレベルに達していた。


「なにっ!?」


 プルケルは驚愕に目を見開いている。

 その後、奥歯を噛み締め、青筋が浮き出るほど強く槍を握りながらはっきりと言った。


「参った」


 それは言う必要のない言葉であったが、プルケルはあえて言った。

 その姿に改めてプルケルを認めた者は多かった。


「強い。もしかして君はレベル2なのか?」


 セネカは首を傾げた後で答えた。


「レベル2になって銅級に上がった」


「入学直前にレベル2になった僕とは動きがまるで違う。完敗だったよ」


 そう言ってプルケルは手を差し出してきた。何事にも握手が好きな男である。


 セネカは手を握りながら言った。


「技の構成がすごかった。また戦ってね」





 まさかのプルケルの敗北に場が騒然となったが、その結果に動じていない人間が二人いた。


「じゃあ次はマイオルとストローの戦いをしようか」


 アッタロスの声色は何事もなかったかのようだった。

 マイオルも当然の結果だと思っていたので、平然と前に出て剣を選んだ。


 ストローは前に出て武器を選びながら動揺を落ち着けようと必死だった。


 プルケル・クルリスは王都の冒険者ギルドで、世代一の期待の星と評される天才冒険者である。早急に銅級冒険者に昇格して、ストローと同じように入学前にレベル2に上がった。

 そのプルケルがあっさりと倒されてしまった。


 あのセネカという少女は何者だろう。

 そのセネカとパーティを組む少女とストローはこれから戦うことになる。


 ストローはマイオルを見る。金に近い色の髪を後ろで短くまとめている。顔は整っていて、ちょっと気が強そうだが愛嬌もある。


 美少女と同じクラスになれて心から喜んだものだ。

 しかし、今はそのマイオルが不敵な笑みを浮かべてストローを見ている。


 勝てるか分からないなとストローは思った。だけど、自分もそこそこやるはずだと気持ちを落ち着けて、一揃えの双剣を構えた。


「はじめ!」


 ストロー・アエディスは【地魔法】を持つ双剣使いだ。

 魔法で相手の足元を崩しながら双剣の連続技で敵を攻める。遠くからの魔法攻撃も強力だ。


 ストローは間合いを詰めて、マイオルに斬りかかる。その時、魔法でマイオルの足元を盛り上げたが、マイオルはそう来るのが分かっていたかのようにヒョイと足をずらして避けた。


 双剣の方もマイオルに受け止められる。見かけ以上に強い力で押される。レベルアップの恩恵を受けているのかもしれない。


 押し合いでは分が悪いので、ストローは距離をとった。


 今度は石のつぶてを形成してマイオルに高速で撃ち込む。

 しかし、これも難なく躱されてしまった。


 ストローは魔法でマイオルを崩そうと何度も仕掛けた。だが、どれも心を読まれたかのようにあっさりと避けられてしまう。


 ストローはどうしたら良いか分からなくなり、思いっきり前に出て、双剣でマイオルを攻めた。


「あれ?」


 魔法は避けられるし、力は強い。けれど、剣が格別に上手いと言うわけではないようだ。


 ストローは果敢に攻める。

 するとマイオルは次第に対応できなくなってきた。

 腕が悪いと言うことはない。むしろ強い方だろう。だけど、双剣との戦いに慣れていない。


 ストローは魔法のことは忘れて、剣で息をもつかせぬ連続攻撃を行った。

 そして、マイオルを追い詰めると足を思いっきり払って、体勢を崩したマイオルの首に剣を突きつけた。


「そこまで!」


「あぁ、ダメだったかぁ」


 マイオルは前髪をかきあげながら悔しそうに空を見上げた。

 ストローは切れた息を必死に整えながらマイオルに聞いた。


「どうして俺の魔法が効かなかったんだ?」


「あたしのスキルは【探知】だから、魔力の動きを見るのは得意なんだ」


 笑いながら自分の瞳を真っ直ぐ覗き込んで来るマイオルにストローは心を撃ち抜かれた。





「じゃあ次はニーナとファビウスだな」


 次はニーナが出てくるということでセネカはワクワクしながら座っていた。

 隣にはマイオルがいる。さっきの戦いの反省をしていて、心ここに在らずだ。双剣との戦いが初めてだったので軌道が読めず、勝てなかったのだろう。


「ファビ君かぁ。よろしくね」


「ニーナ、今日は負けないからね」


 ニーナとファビウスは顔見知りなのか仲良さげに話している。


 ファビウスは模擬戦用の武器の中から剣と小盾を選んだ。

 一方のニーナは大きな木槌を手に取っている。誰が使うんだとセネカは思っていたが、どうやらニーナ用だったらしい。


 二人が距離をとって構える。


「はじめ!」


 アッタロスの声と共にニーナが飛び出す。


 ニーナは重そうな木槌を軽々と振り回してファビウスに仕掛ける。対するファビウスは盾と剣を上手く使ってニーナの攻撃をなしている。


 ニーナの鋭い攻撃も側面から叩かれると軌道がズレるので、なんとか避けることができるのだろう。ファビウスはうまく対応している。


 しかし、ニーナの手数は圧倒的だ。スキルの恩恵なのだろうが攻撃回数が多い。重く鋭い攻撃を沢山浴びせるというのは、誰もがやりたい戦法だが、普通は実現不可能だ。相手はたまらないだろう。


 ニーナは飛んだり跳ねたりしてファビウスを撹乱している。空中での軽業的な動きはセネカ以上だ。


 ファビウスの受けの技量も圧倒的である。セネカは短期決戦型で打ち合いに強くない。しかし、この先、ファビウスのような相手と戦っていくことは避けられないだろう。なんとか手合わせしたいものである。


 二人の戦いは長引くように思われたが、ファビウスの防御がだんだんと間に合わなくなり、ついにはニーナが突破した。


「そこまで!」


 試合終了後、ファビウスの息は切れているのに、あれだけ動いたニーナは涼しい顔をしていた。

 ニーナは無尽蔵の持久力も持っているようだ。そう考えてセネカはニーナといつか手合わせをする時のことに思いを馳せた。

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