第37話:女子寮での出会い
受験を乗り越えて憂いは晴れた。
なので、セネカとキトはルキウスのことについて話を進めることにした。
王都に来てから今日までセネカとマイオルは街や冒険者ギルドで情報収集を行ってきた。
しかし、新たな聖者の情報は一向に見つからない。
何やらおかしなことが起きているのだな、と三人は感じた。
王都から遠いバエティカに話が伝わっていないだけなら、教会本部に行けば会える可能性があると思っていたけれど、ここまで情報が出ていないとなると迂闊に探るのは得策ではない。
権力闘争や陰謀による結果だという推測を本線に、三人で様々な可能性を話し合った。
その結果、今後の手として老神官を尋ねるのが良いのではないかということになった。
セネカとキトは、バエティカでスキルの鑑定を行ったあの老神官が最も信頼できると感じていた。ルキウスを直接探るよりも危険度は低いだろう。
キトが名前を覚えていたのも大きい。あの神官の名前は『グラディウス』だ。王都の教会だったら何か情報を持っているかもしれない。
もちろんバエティカ出身の者がグラディウスを訪ねてくるというだけで良くない事態に陥る可能性はある。しかしそこまでのことにはならないだろうと三人は考えた。
何故なら三人は名前が売れているからだ。王立の学校へ優秀な成績で入学することになるので、学校も守ってくれるだろう。
さらに話し合いを続けて、今後の方針が決まった。
まずは入学すること。名前が売れたと言ったが、三人の身分はまだその辺の小童である。しかし学校に入れば身分が保障され、学校も守りやすくなるはずだ。優秀な成績を修めればさらに状況は良くなる。
入学して生活に慣れてきたら機を見て、教会で神官グラディウスに会いたいと伝えれば良い。
これは後から分かったことだが、自分のスキルを鑑定してくれた神官にお礼をしたいという人は少なからず存在していて、王立学校に入れるほどの実績を持っていれば、神官に感謝したいと考えるのも不自然ではないようだ。
この行動の結果グラディウスに会えれば良いが、会えない場合にはなんとか消息をつかむしかない。王立学校には長期休みがあるので、セネカとマイオルは冒険者として修行しながら、グラディウスとルキウスを探す旅に出ようと考えた。
「今はここまで考えるので精一杯だね。私も魔導学校でなんとか情報を集めてみるよ」
「うん。それぞれ交友関係を広げて当たってみようね」
そういう話になって、会合は終了した。
◆
それからさらに十日ほど経って、セネカとマイオルの入寮日がやってきた。
寮は冒険者学校の敷地内の外れにある。
男子寮と女子寮は距離が空いていて、男女が会うには少し時間がかかるようだ。
日常生活の道具は二人ともあまり持ってないので身軽な移動である。しかし、これからも冒険者として活動するので、野営の道具をはじめとして必要な物はたくさんある。
買い直しが簡単で重いものはバエティカで売ってしまった。寮に入ってから買うつもりでいる。冒険者学校に入れば貸出されているものもあるようなのでそれに頼るのも良いかもしれない。
寮に行くと入寮者が集まっている。冒険者学校は一部の貴族を除いてほとんどの人が入寮するので、入寮開始日だというのに人が多い。
扉に寮の部屋割りが書いてある。
「マイオル、部屋は隣だけど同室にはならなかったね」
「そうね。けど、同じだったらずっと二人になっちゃったかもしれないから、これで良いのかもね。見知らぬ人と仲良くなるのも冒険者の大事な技能の一つだから」
セネカはマイオルの話を聞いて頷いた。
「四人部屋の人もいるんだね」
「そうね。あたし達も希望すれば四人部屋にできたみたいだけどね。あとから知ったの」
「そうだったんだ。てっきりみんな二人部屋だと思っていたよ」
「二人部屋に入れるのはBクラス以上の成績優秀者かお金持ちだけみたいよ」
「そっかぁ。四人部屋も青春って感じがして良いんだけどね」
「まぁ、そうね。でもセネカは秘密が多いから二人部屋くらいが良いわよ。新しい同居人も口が堅い人だと良いけどね」
「ガイアさんだって。どんな人か楽しみだね。とりあえず部屋に行こっか」
セネカとマイオルは寮の案内図を見ながら自分たちの部屋に向かった。
◆
セネカが部屋に入った時、誰もいなかった。
部屋は予想より大きい。マイオルと住んでいた部屋と比べても十分なスペースがあり、物を置く場所が広く取れそうだ。
二段ベッドがあり、机が二つ置いてある。セネカはこだわりがないが、ベッドの上下を気にする人がいると知っていたので選ばないでいることにした。
荷物を軽く整理するとセネカは手持ち無沙汰になった。なので、最近のお決まりの暇つぶしをすることにする。
アッタロスとの邂逅をへて、セネカは[魔力針]に火を纏わせることができるようになった。それは非常に効率が悪いものだったし、粗雑な技だったけれども、可能だということが証明された。
セネカの努力が一つ報われた。
セネカはずっと『何の意味があるのだろう』と自分に問いながらも魔法を探求することを止められなかった。意味なんてないかもしれないと何度も自分に言ってきたし、人にも言われてきた。けれど、意味ができた。
セネカはいま氷の属性への魔力変換に挑戦している。
もっと意味のある修練はあるのかもしれないけれど、暇さえあれば魔力を何とかしようと格闘している。
手がかりはない。きっと火の反対なのだろうということだけを思って、虱潰しに当たっている。
これは執着なのだろうとセネカは正しく理解していた。
無意味な事だと蓋をしていたはずの気持ちに歯止めがかからず暴走してしまっている。それでも、母と同じ氷属性の魔法を実現せずにはいられないのだった。
◆
しばらく魔力の変換に没頭していると、部屋の外に人の気配を感じた。そして『ガチャ』と音がして部屋に人が入ってきた。
扉の方を見ると、背が高くてすらっとした体型の少女が立っていた。
「もしかしてガイアさん? 私はセネカ、よろしくね!」
セネカは立ち上がってトテトテと駆け寄り、握手を求めた。
「よ、よろしくね。ガイアと言う。呼び捨てで構わない」
「分かった。それなら私もセネカでいいから!」
セネカはニコっとガイアに笑いかけた。
ガイアはキリっとした顔立ちなのでキツそうに見えるがセネカと話す態度はとても柔らかい。
「うまくやれそうな人が同じ部屋でよかった!」
セネカはガイアにそう言って、修行に戻った。
◆
ガイアの荷解きが終わったあと、二人は色々なことを話した。ちなみにガイアもベッドの位置にはこだわりがないようなのでセネカは下をもらった。
ガイアはセネカがSクラスの特待生だと知っていた。それで、どんな子だと心配していたのだが、かなりぼんやりとした少女だったので胸を撫で下ろした。
ぼんやり系の天才というのは物語によく登場するので、きっとセネカもその類なのだろうとガイアは考えた。
「ねぇ、ガイアはどんな冒険者なの? 私は剣士でね、討伐と採取が得意なの!」
セネカは元気いっぱいだ。
「私は魔法使いだが実技が得意じゃないんだ。強いて言うなら採取ができるかな。素材の情報を覚えるのが得意なんだ」
「へぇー。そうなんだ。じゃあ、採取の依頼を一緒に受けられるかもしれないね」
ガイアはセネカの勢いにタジタジだ。
「あ、そうだ。先にガイアには言うけれど、私のスキルって【縫う】なの。だから縫い物をする時もあれば、敵を縫う練習をすることもあるけど、あんまり驚かないでね」
そう言いながらセネカは[魔力針]を出して、ガイアに見せた。
ガイアは話がよく見えていなかったけれど勢いに押されて「わ、分かった」と答えた。
それから二人は生活の細かい取り決めをしたあと、学校の話をした。ガイアは王都から近い街の出身で、よく王都に来ていたので多くの情報を持っていた。
反対に、セネカは特待生であるのにかなり基本的なことも知らなかったため、ガイアは驚いたが、それはそれで冒険者らしいと感じた。
◆
夕食の時間になったので二人は食堂に向かうことにした。
ドアを開けると目の前にマイオルがいる。
「わっ、マイオル、どうしたの?」
「一緒に食堂に行こうと思ってさ。あら、そちらが同室の方だよね?」
マイオルはセネカの後ろに後ろにいたガイアに丁寧に挨拶をした。
「セネカとパーティを組んでいるマイオルです。よろしくお願いします」
「あ、Sクラスの⋯⋯。私はガイア。よろしくお願いします」
「私の部屋の人もいるから四人で食堂に行かない?」
「もちろん!」
マイオルが隣の部屋に入って声をかけると、赤毛で色白の女の子が出てきた。やや小柄に見える。
「こ、こんにちは。わ、わたしはプラウティアって言います。よろしくお願いします!」
緊張した様子で立ち、すごい勢いで頭を下げた。
セネカはプラウティアの青色の瞳を覗き込みながら挨拶を返した。
「私はセネカだよー。そこのマイオルの友達なの。よろしくね!」
「私はガイアという。以後よろしく頼む」
プラウティアはバサバサと音が出そうなくらい何度もお辞儀をしてくれた。
「それじゃあ、行きましょう。細かい話は食堂で」
そう言ってマイオルは歩き出した。
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