良薬口に苦し。毒薬は蕩けるように甘し




「あっ、佐藤君...」




ある日の放課後、帰り道でたまたま早坂に遭遇した。



「早坂君か、あの日以来だな。今日は1人なのか?珍しいな」


「うん...ちょっと最近色々あってね、少し1人になりたくて」


「そうか」



まぁ十中八九生徒会から追い出された件だろうな。

残った2人は意外にもまだ生徒会に在籍している。

恐らく早坂を追い出した理由を突き止めるためだろう。会長が口を割るとは思えないから無駄な行為だろうがな。




「じゃあ1人になるのに俺は邪魔だな、また」


「あっ...佐藤君、あれから本当に天道先輩に何もされてない?」



...これが本当にちゃんと心配してくれているのが分かるから、尚更腹が立つ。

良い奴なんだろう。優しい奴なんだろうな。


その心配が見当違いでなければ、な。

だからこいつには何の罪悪感もわかない。



「だから、カイさんと俺は純粋に仲がいいんだよ」


「でも...あっ」


早坂がまだ食い下がろうとしてきた時、強い風が吹いた。



「つっ....早坂、お前....」


「あっ、あぁ!ごめん、佐藤君!見苦しいものを見せちゃって!あはは...桜ちゃんと鞘ちゃんにあまり人に見せない方がいいって釘を刺されてるから気をつけてたんだけど...まさか7月にこんな風が吹くなんて...。ごめんね、忘れて...ほしいな」


「あ、あぁ...」


「そ、それじゃあね!」



そう言って早坂は足早に去っていった。




風で早坂の前髪が上がって、俺は初めてあいつの顔をしっかり見たわけだが...



え?どちゃくそイケメンだったんだが?


え?


いやいやいやいや。


え?


そんな....あのレベルのイケメンが前髪だけであんな完璧に隠せるもんなの?


いやいやあり得ないだろう。


え、でも....全く気づかなかった。




突然だが、俺の前世である嵐は自分で言うのもアレだがかなりのイケメンだった。


そんな嵐よりもイケメンなのが今世の佐藤優だ。


正直比類する者なきイケメンに転生したな、と思っていたんだが...



あいつは、早坂一は、俺と同じくらい、いや好みによっては俺よりも顔が良いかもしれない。




..藤浪と東堂が俺に対して少しの好意も持たない理由がわかったな。

そして早坂は自分を醜いと思ってる。

嫌味にしか思えんが、あれは本気で言っていた。


「桜ちゃんと鞘ちゃんに...」 か。


それは恐らく独占欲なんだろう。



見事なまでの自分本位。

自分の好きな人を騙してまで自分を優先するのか。


俺がしていること、しようとしていることは最低だが、やはり罪悪感はわかない、な。



しかし今回知り得た情報はかなりでかい。


あの3人に関してはここからどう切り崩していくか迷っていたが、光明が見えた。

夏休みまでにはケリをつけれそうだ。



◇◇◇



「えー、そんなことないよ!全く気にならないし、君の顔、私は好きだな?」


「つっ...照れちゃうよ...でも、ありがとう。そんなこと初めて言われたよ」




クラスメイトで紗雪の友達の桜井七と早坂一の会話だ。

事前に早坂は自分のイケメンさに気づいてないどころか醜いと思っているので、万人ウケすることは言わず私は気にしないし好きと、私だけは認めてくれると思ってもらえるように立ち回ってもらった。



ひょんなことから早坂が自分に自信のない隠れ超絶イケメンだと気づいた俺が取った手は、勿論ハニートラップだ。

安易に思われるかもしれないが、高校生男子にとって女は劇薬だ。これ以上の手段はない。


人選は咲夜を使っても良かったが、既に副会長に近づいてることもあってトラブルの種になる。

生徒会を壊す段階ならそれでよかったが、

今は3人だけにターゲットを向けているため余計なトラブルはいらない。


それに本来なら藤浪と東堂のガードがあるから難しい手だったのだが、今は生徒会のゴタゴタで別行動だ。先に生徒会から切り崩したことがかなり上手い具合に転がったので咲夜と言うカードを切り終えたことに後悔はない。



そして白羽の矢が立ったのが桜井だ。


大して仲良くもない俺をカラオケに誘ったり、色目を使ってきたことからも分かる通り、桜井はイケメンが好きだ。

まぁみんな好きだろうけど、その中でも行動力があるタイプだ。

しかも彼氏を欲しがってるから飛びついてくれた。



そしてこれが一番大事なとこなんだが、

俺が一切手をつけていない。

...紗雪のステルスガードがあるからな。

現時点で俺の関与を知らせたくないため、

なによりそれが1番の決め手だった。




そして早坂が身近にいる2人に恋愛感情を向けていない理由を俺なりに考えてみたが、恐らくそれはあの2人がちょっと類を見ない美少女だからだ。


まぁこの学園や俺の周りには何故だか比肩する美少女揃いだが、それでも抜群の美少女であることに変わりはない。


早坂は実際は釣り合いが取れるイケメンだが、自覚0。それどころかライバルを増やさないようにするためか、直接は言われてないだろうが自分を醜いと誤解させられている。


よって最初から自分を2人の恋愛対象に入れてないのだろう。だから仲のいい幼馴染としてしか接していない。


更に華に聞いたことだが、早坂は鈍感で2人からの好意に気づいてる節は全くないらしい。

呑気な顔で、「何で2人ともあんなに可愛いのに彼氏ができないんだろう」なんてバカとしか思えない衝撃的な発言をしたこともあったみたいだ。正気を疑う。

まぁ2人が牽制し合ってるから直接的な行動に出れないのも理由だろうな。



そんな2人は今生徒会で、会長に理由を聞くためになにやら色々と画策しているため必然的に一時的にフリーになった早坂に毒を仕込むことにしたのだ。


その毒が桜井七だ。


桜井を選んだ決め手は俺が手をつけてないことだが、そもそも桜井にした理由は、こう言っては失礼だが程々に可愛いからだ。

クラスに2.3人はいる可愛い子。って所か。


それで言うと実は三崎美香もそうなのだが、

あいつは実は最近、田崎翔と良い感じになっている。よって除外した。


藤浪と東堂は童貞には刺激が強い美少女だ。

なんなら少し女慣れしてるくらいの男でも気後れしてしまうだろう。

早坂は自分を醜いと思ってるから尚更だ。


だが男子高校生、彼女の1人や2人欲しいお年頃だ。

そんな中で自分のコンプレックスを正面から認めてくれる気後れしない程度に可愛い子に言い寄られたらどうなるか。



「ねっ、ねっ、今日暇?よかったら遊びに行かない?」


「う、うん。行こう」


「やったぁ!楽しみっ!」


「僕も」



デレデレと鼻の下を伸ばした早坂の出来上がりだ。




いつの世も、一番モテるのは飛び抜けて可愛い子ではなく、程々に可愛い子なのだよ。




「えぐいわね...」


「失礼な。恋のキューピッドと言ってくれ」


「物は言いようね」



遠目から一緒に恋の行方を追っている紗雪との会話だ。

紗雪には俺の行動を粗方話してある。

彩花とメイにはバレたくない関係上、

あの2人にはできるだけ会うようにしている。

だが生徒会の崩壊に使える時間を確保するために消去法で紗雪と会う時間を減らしたため、話さざるを得なかったからだ。

ちなみに美愛は基本休日に会うから支障は出ていない。

まぁ桜井にスムーズに話を通すためには桜井と仲が良い紗雪の協力が必要だったから丁度良かった。


「まぁ私としても、これであなたに色目を使わなくなるならいいわ」


「...会長とか、セフレが増えたのはいいのか?」


「それは仕方ないわ。あなたの怒りも理解できるわけだし、それに恋慕と性欲は別よ。七さんはあなたのことを彼氏にしたいと思っていたから」



...お前も怪しいけどな。

まぁ余計なことは言わないに尽きる。




なにはともあれ、これで残るは2人だけだ。

まぁ早坂を掻っ攫われた時点で既にかなりの大打撃だろうが、まだ終わらせる気はない。




「...でも、彼、必死に顔を隠してたのよね。あの暴き方はどうなのかしら?」


「あれな...。正直俺も終わったって思った」




桜井に早坂の隠れた顔が超絶イケメンだと教えた後、それを知らないまま近づいて偶然見えたと言わせるように誘導したつもりなのだが、

桜井は鼻息荒く早坂に近づいて、周りに人がいないことを確認した後、無理矢理早坂の前髪を掴んで上げたのだった。



いや下手したら一発で嫌われる行為だぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る