キラキラの青春にどす黒い異物をひとつまみ



「失礼する。佐藤優はいるか?」





みんなとカラオケに行った翌日の昼休み。

いつも通り教室でクラスメイトと昼飯を食べている俺に来客が訪れた。




「はぁ、俺ですけど...?」


「あぁ、まずは初めまして。知っていると思うが、私は胡蝶 蘭(こちょう らん)。この学園の生徒会長をやらせてもらっている」




それは入学式の日に壇上で見たTHEクールビューティな生徒会長だった。


しかし俺に何のようだ?

昨日の3人組をあしらったから本丸がやってきたと言うことなんだろうがそもそもの話、俺は何もしていない。



「勿論知っていますよ。初めまして、会長。佐藤優です。ところで、一体何の用でしょうか?」


「あぁ...。まずは謝罪を。昨日は君と同学年と言うことで新入りの3人に頼んだのだが、どうやら不快な気分にさせてしまったようだからね。すまなかった」


「あぁ。いえ、大丈夫ですよ。こうして会長自らわざわざ謝罪にきていただけたなら、これ以上言うことはありません」


「そうか...。ありがとう。それで、だ。用と言うのは、勿論君が悪いわけではないのだが少々君に関わることで聞きたいことがあってだな。ここで話すわけにもいかないのだが...」



そういって周囲を見渡す会長。

なるほど、つまりあまり周りに聞かせたくないような話なのか。

正直言って何の心当たりもないのだが、まぁ昨日の厨二病患者予備軍3人組と違ってこの人は先輩で更に生徒会長にも関わらずしっかり下の人間の非を謝罪できる実に出来た人間だ。

こんな態度でこられてしまったら所詮1年生の俺では無碍にはできない。



「わかりました。今からですか?授業には間に合いますか?」


「あぁ、できれば今からで頼む。なんせ君は放課後は忙しいようだからな。授業の方は、君さえよければ私から便宜を測らせてもらうが..?」


「お気遣いありがとうございます。

そしたら、今からでお願いします」



...なんかしれっと授業をサボらせてもらえるようになった。

生徒会の権力がなんたらって言葉もあながち間違いではなかったのかもしれないな。


しかし放課後は忙しいようだからな。か。

地味に嫌味を入れてきたな。

いや、普通の人間に言われたのだったら嫌味には感じないが、この人は別だ。見たところ、言葉は受け取り方によって意味が180度変わることをきちんと理解してるタイプだと思う。


...つまり割と腹黒そうだってことだ。

実に面倒くさい。そう言うのは前世で散々やり合ったから。




その後急いで残りの昼飯を食べ終え、会長に連れられて生徒会室に向かった。


食べてる間ずっと仁王立ちされてるのが地味に嫌だった。さてはこいつ昨日呼び出しに応じなかったのやっぱり根に持ってるな?





◇◇◇




「失礼します」


「ようこそ、遊嵐学園生徒会室へ」


「...」


「わ!わ!わ!優様!ようこそ〜!」


「あ、きたわね!あんた!」


「佐藤優....」


「あ、よかった、きてくれたんだ、佐藤君」




うーわ、いっぱいいる。

面倒事の予感しかしない。



上から生徒会長


次に無言で見てきた男...

確か和泉真(いずみ まこと)だったっけな。

2年生の副会長だったはずだ。

長身に黒髪オールバック、メガネのインテリヤクザみたいな風貌だが顔は整っている。

直接面識はないが副会長くらいはさすがに知っていた。


次が多分先輩であろう女...。

明るい茶髪をポニーテールにしている。

顔は中々可愛いと思う。

身長も小柄で全体的に可愛らしい雰囲気だ。

...いやこいつ見たことあるわ。

俺を様付けしてくる厄介ファンの1人だわ。

こんなんが生徒会かよ。世も末だな。


で、昨日の3人と。



はぁ。一体なんだってんだよ。






「さて、適当にかけてくれ。まずは改めて自己紹介させてもらおうか。私が生徒会長の胡蝶蘭だ。そしてこの者達が...」


「和泉真だ。副会長を務めている」


「は、花山華(はなやま はな)です!

優様の大ファンです!後でサインと..で、できれば握手なんかも...ふへへ」


「やめんか、みっともない!...すまないな、普段はもっとまともなんだが...。花山は2年生で書紀をしてもらっている」


「は、ははは...」



「そして──



「藤浪桜よ!昨日ぶりね、佐藤優。覚悟しなさい!」


「東堂鞘です。佐藤さん、昨日はよくも馬鹿にしてくれましたね...ふふふ」


「ちょっとやめなよ2人とも!あ、早坂一です。改めてよろしくね、佐藤君」



「うーい」




「ちょっと...!あなたねぇ─


「やめないか、君達。私達は佐藤君に質問したいことがある立場だ。目に余るぞ」


「っ!!...わかりました」



とは言っても不満たらたらそうな目をしている藤浪だが、流石に生徒会長を押し退けて、なんてことはしないらしい。


はぁ。さっさと本題に入ってほしい。

もう疲れた。



「さて、佐藤君。聞きたいことと言うのはだな、君と親しくしている天道カイのことだ」



...カイさん?

女絡みでやらかしたのか?



「はぁ。カイさんが一体どうしたんですか?」



「順を追って説明しよう。

3年に新見と言う男がいるのだがな、サッカー部の主将で今年が大切な時期なんだ。そんな時期に突然新見が暴行を受けて練習に参加できなくなったんだ。誰にやられたか、を聞いても記憶にないの一点張りでな。だが明らかに何かを隠している。そして私達はその暴行犯を探しているのだが、天道がやったのではないかと睨んでいるんだ」




...は?


新見ってあの新見だよな?

なんでカイさんに殴られるんだ?




「...あの、なんでカイさんが疑われるんですか?」



「...これはあまり他言しないで欲しいのだが、君に関係することなので伝えておく。

どうやら新見は、これまた君と仲の良い境彩花に恋慕していたようだ。それで物騒な話なんだが、境彩花と仲の良い君を集団で暴行しようと周囲に呼び掛けていたようでな。あぁ、勿論そんな話誰も乗らなかったようだ。

そしてそれを呼びかけられた当事者の1人がその話をしている所を天道に聞かれたようでな。その次の日に新見が何者かに暴行を受けていた。天道を疑うのは当然だろう?」




「...そりゃまた。穏やかじゃないですね」



いやぁ、しっかし、そっかぁ。新見かぁ。

あいつそんなこと考えてたのか。まじでクズだな。

まぁ間違いなくカイさんだろうなぁ、それは。あの人やたら俺に甘いし、女絡みで揉めすぎてやたら喧嘩慣れしてるし。

俺と彩花の関係にも気づいてるだろうし、な。


...しかしそうなると俺のために動いてくれたカイさんをみすみす売るわけにもいかないだろう。



「んー、でもカイさんとは最近会いましたけど、相変わらず綺麗な顔してましたよ。手も怪我一つなかったし」



「確かにそうだ、そして本人もそれを否定している。新見も、な。だから何か知らないかと君を頼った次第だが...」



「んー。とは言われても...

そもそもそれって生徒会の仕事ですか?」


「確かにそう思っても無理はないがな。やはり生徒間の問題の可能性があるからには目を瞑るわけにはいかないんだよ」


「ちょっと!どうせあんた仲良い先輩だから庇ってるんでしょ!白状しなさいよ!」


「ふふふ。佐藤さん、友情は美しいものですが、そんな暴力を振るうような方を庇っても碌なことになりませんよ?」




...あ?




「やめないか、お前達。すまない、佐藤君。だが、親しいとは言えど、暴力を振るうような人間を庇うのは私としてもいいこととは思えない。君は本当になにか知らないのか?天道はどうやら女性関係でもだらしないようで、碌な男ではないのは確かだ。君の評判まで悪くなってしまうよ」




...ああ?




「ちょっと2人とも!会長も!佐藤君が困ってるじゃないですか。やめてあげてください。

ね、佐藤君。大丈夫だよ。もしかしたら天道先輩に脅されてる?昨日は信じてもらえなかったけど、生徒会は本当に権力を持ってるんだ。だから佐藤君は心配しないでも大丈夫だよ」




...ああん?




「...いや、脅されてもないし、カイさんとは普通に親しくさせてもらっています。それに本当に俺は何も知らないし、カイさんはそんな野蛮な人間じゃないですよ。こないだなんて家の両親が転職したんですが、その祝いになんてわざわざ贈り物を届けにきてくれて、俺の家族にも気に入られてるくらいには良い人です」



「ふふ、両親の転職祝いですか」



...そういやこいつは東堂グループだったな。

まさか孫娘如きが把握してるわけないと思ったが、何か含みがある。何故か把握されてそうだな。



「そうですね」


「あなたが彼の本性を見抜けていないように、あなたの両親も見る目がなかったのではないでしょうか?」






....







ブチン! と脳の血管が切れる音が聞こえた気がした。

それくらいこいつらは度し難い。


ただでさえカイさんをいきなりボロクソ言い出してイライラしてたのに、この女、終いには両親まで馬鹿にしてきやがった。




俺の完全無欠の比類するものなき素晴らしい両親を、見る目がない、だぁ?




...あぁ、いいよ。

なにが生徒会だよ。

なぁにが東堂グループだ。



俺は人間観察が得意だ。

他人がどんな関係なのかは少し話せば一瞬で理解できる。

伊達に前世芸能界で売れ続けていない。先輩のお気に入りを把握して必要以上に親しくしないようにしたり、逆に後輩とは言え上に目を掛けられてそうな人物をこき下ろさないようにしたり、現場で誰に媚を売るかを把握したりと、そういったスキルは必須技能だからな。



そんな俺のセンサーが告げている。

この生徒会は早坂一のハーレムだ。


副会長は恐らく会長が好きなんだろう。

書紀は分からん。俺に向けてる目と同じ目を会長に向けている。バイか?


だがこの2人は優先順位が低いな。

別に何も言ってきてない、ただ空気としているだけだ。いや、止めろや。



そして藤浪と東堂は間違いなく早坂が好きだ。

会長は微妙なところだが、他と比べて明らかに早坂に対して距離感が近い。無自覚に惹かれているとかそんな感じだろう。


早坂は見たところその好意には気づいていなそうだ。あくまで仲のいい友人として接しているんだろう。強いて言うなら会長に対しては人並みにドキドキしてそうだ。学生にとっての2つ上は大きいから、年上の大人なお姉さん感があるんだろうな。




多分こいつらはこのままきゃっきゃうふふと楽しい学園生活を過ごすだろう。

恋愛あり権力ありと楽しく過ごし、卒業していくんだろう。



俺の先輩と両親を馬鹿にしておいて。




ぶっ壊してやるよ。





───────────────────


次回予告


これはシリアス展開になるぞと

息巻いてたら全くならなかった件。


早速10以内入れました。

ありがとうございます。

お礼に3章は毎日更新頑張ります。

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