これにて幸福終了。共に歪に沈む



私は醜い人間だ。




昔から、お洒落が好きだった。

小学5年生の時から背伸びしてファッション誌を母親に買ってもらっていた。


ある時買ってもらった雑誌に、私と同い年の女の子がモデルとしてうつっていた。



可愛かった。キラキラしていて、

大人っぽくて。同い年というのが信じられなかった。

一目でファンになった。

中学生になり、携帯を買ってもらって

すぐSNSをチェックするようになった。


その子のおすすめするアイテムは大体買ったし、たくさん真似をした。


幸いにも私はそれなり以上には可愛く育ったので、服に負けるようなこともなく、お洒落を楽しめていたと思う。


男の子から告白されることも増えた。

勿論私だって女の子だ。

恋人と言うものに憧れはあったので、

中学3年生の時に告白された、クラスで一番かっこよかった男の子と付き合ってみた。

そして初デートの日、私はばっちり化粧して、とびっきりのお洒落をした。

今まで学校で制服姿しかお互い見たことがなかったので、可愛く変身した私を見せて驚かせてやろうと思っていた。


そして待ち合わせ場所にきた彼氏を見て、私は衝撃を受けた。

ジャージ。それもよく分からないキラキラ光っている英語がびっしり書かれていた。


めちゃくちゃださくて、

隣を歩くのがとても恥ずかしかった。


彼は私をとても褒めてくれたけど、こんなダサい人に褒められても何にも嬉しくない。


その日の終わり、私は彼に別れを告げた。



学校帰りの集まり以外、休日に男女で遊ぶことがなかった私にとって、かっこいい男の子

は私服もお洒落だと言う幻想があったのは否定しない。ファッション誌に載っている男の子は同年代でもみんなお洒落だし、かっこよかったから、周りの男の子にもそれを求めてしまっていた。


そして幻想を砕かれた私はその後誰とも付き合うことなく、高校生になった。


そこで私は憧れの女の子に出会った。


境彩花ちゃん。

小学生の時からずっとファンで、この子のようになりたいって思っていた女の子。



「ねぇねぇ!あなたの鞄につけてる熊のアクセサリー、すっごい可愛い!どこで買ったの!?」



そんな子に話しかけられた。

しかも持ち物を褒められた。

天にも昇る気分だった。


わ、顔ちっちゃい。目おっきぃ。可愛い。

てか細すぎ。え、その脚どうなってんの?

声も可愛すぎない?あぁ好き。



「あの〜...?」


はっ!余りの衝撃に呆然として彩花様を無視してしまった。なんたる不敬。切腹ものだ、私め。


「あ、あぁ、ごめんなさいね。

これは数量限定のグッズで、あの有名なお店で始発から並んで買ったの」


「え〜!そうなんだぁ!すっごいお洒落さんなんだね!」


顔のニヤケと、彩花ガチ勢を隠すのに必死でいつもと違う無駄にクールな話し方になってしまった。


「ふふ、ありがとう。私、色違いで二つ持ってるの。よかったらお近づきの印にあげましょうか?」


貰ってください。彩花様とお揃い....ハァハァ


「えぇ!?そんな、悪いよぉ〜!」


「いいのよ、私この学園に知り合い1人もいなくて、心細いの。あなたみたいな可愛い子とお友達になれるなら安いものよ。私は萩原メイ。メイって呼んで。よろしくお願いね」


彩花様と友達になりたい。貢ぎたい。メイって呼ばれたい。


「え、私も友達いないから嬉しいよ!でも物を貰ったから友達になるなんて嫌だよ。これは受け取れないよ。これ抜きでお友達になろうよ!よろしくね、メイ!私は境彩花って言うの!彩花って呼んでねっ!」


はぇ〜。いい子や。ありがたやありがたや。


「嬉しいわ。じゃあこれは友達が友達にあげるただのプレゼントよ。受け取りなさい、彩花」


お願いします貰ってください!

お揃いがいいの〜!!!



「ううう...。強引だね、メイは。じゃあ貰うね、ありがとう!お揃いだね!」


「ええ、お揃いね」


天使がいる。鼻血でそう。



それからの学校生活は幸せだった。

今まで雑誌やSNSでしか知らなかった彩花の色々な顔を見れて、仲も深まって、お互いの家に遊びに行ったりして、親友にまでなれた。


そういえば話し方は結局、彩花に

「メイの話し方って大人の女性って感じで、めちゃくちゃかっこいいよね!憧れちゃう!」


なんて1億点スマイルで言われてから今の話し方で固定することにした。



そんな幸せな日々。でもある日、

自分の醜さを痛感する出来事が起きた。



「境さん、1年生の時から君が好きだった。

俺は3年が引退したらサッカー部の主将になるんだ。絶対に全国に行く。それを近くで見守っていてほしい。俺と付き合ってください!」


「ごめんなさい。仕事が忙しくて、恋人とか作っていられないの」



高校2年生の夏休み明け、

彩花が新見君に告白されていた。


彩花は凄くモテるけど、告白は全部断っていたからそれ自体は珍しいことじゃない。


でも新見君は、私の好きな人だった。


同じクラスの新見君は人気者で、いつも彩花と2人でいる私達にも気さくに話しかけてきて、彩花に塩対応されて落ち込むのを私が呆れながら取りなして、私に泣きついてきて、そこそこ仲は良かったと思う。正直ちょっといいな、とは思っていた。でも中学の時に彼氏の私服のダサさに絶望した事件があったからそれ以上の感情はなかったのだけど、高2の夏休みに入る直前、クラスの集まりがあった。

その時に私服で現れた新見君はとてもお洒落で、かっこよくて。


その日から私は彼を好きになっていた。



これは彩花には言ってない。

彩花はびっくりするくらい男の影がない子だから、私達は基本恋バナとは無縁だったからだ。


私の好きな人が、私の大好きな親友に告白して、ふられた。

誰も悪くないのに、心が濁った気がした。



「彩花、見たわよ。新見君に告白されてたの」


「あっ、そうなんだよね〜。断ったのにしつこくてさ〜。本当、嫌んなっちゃうよ」


いつも通りの会話、それなのに、彩花が新見君を否定する度に心が黒くなっていく感覚がある。


私が好きなのに、そんな人に好かれて、迷惑がって、ずるい。いらないならちょうだいよ。


そんな見当違いの逆恨みが募る。



「そもそも私は優君以外考えられな...って、あっ!」


「優君?もしかしてモデルの佐藤優かしら?」


「あ〜...あはは...内緒にしてね、メイ!」


「あなた、いつの間に...」


「あ、でも違うよ!付き合ってるとかじゃないから!優君は私なんか好きじゃないだろうし...ただ...私が好きになっちゃったんだよね..」



驚いた。佐藤優。私達の二つ下で、最近人気急上昇中のモデル。彩花とのデート企画はとても絵になってたのを覚えてる。


いや、なによりまず、彩花に好きな人ができたことが何よりの驚きだ。


と同時にホッとした私もいる。

元々新見君に彩花と付き合える可能性はほとんど無かったけど、これで0になった。

いくら人気者の新見君とは言え、あの佐藤優が相手なら諦めるはず。後は少し待てば大丈夫。

よかった。彩花を嫌いにならずに済むんだ。



◇◇◇



翌年佐藤優が入学してくると、彩花と3人で話す機会が増えた。

雑誌で見ていたから知ってはいたが、直接会うととんでもないイケメンで二つ下なのに先輩の私が緊張してしまう。

それに彩花ととても仲良さそうで、私も見たことない彩花がたくさん見れた。


彩花は片思いだと言うけど、私から見たら恋人のような距離感にしか見えなかった。

時間の問題だろうな、なんて思っていた。



私はと言えば、実は新見君と仲良くなっている。なんと新見君の方から誘ってきたのだ。二人で遊んだりもした。ちょっと彩花のことを聞かれることが多かったのが引っかかったけど、楽しかった。新見君はやっぱりお洒落で、優しくて、かっこよくて。益々好きになってしまった。

今ではお互い下の名前で呼び合っている。


彩花と佐藤君の仲の良さは学園中が知ってることだし、真君も諦めて私を狙ってくれているのかな、って思っていた。思おうとしていた。


「メイ、大事な話があるんだ」


「な、なにかしら、真君」


ある日、真君に呼び出された。

ついに告白されるのかしら、なんて期待を膨らませて呼び出し場所に向かった。


「頼む、メイ!境さんとどうしても二人で遊びたいんだ!境さんと二人で遊ぶ時に俺をこっそり呼んでくれないか!?それで、途中でさり気なくどこかに隠れてくれないかな?お前とはかなり仲良くなったよな?俺達友達だろ?協力してくれないか!?」



頭が真っ白になった。

と、同時に、彩花への怒りが沸いた。

なんで私ばかりがこんな目に遭うんだ。

彩花ばっかり、ずるい、ずるい。

あんなにイケメンな男の子と親密な関係なのに、私の好きな人まで奪うのか。


これが見当違いの逆恨みなのは理解してる。

彩花はなにも悪くない。

真君がクズなのと、私が1人で勘違いして盛り上がったのが悪いことは分かっている。

でも、ダメだった。タガが外れた気がした。



真君に何て返事をしたかは覚えていない。

多分声すら発せていなかったかもしれない。

後ろから呼び止める声が聞こえた気はしたが、無視して歩いた。


そうしてふらふら歩いていたら、目の前に佐藤優がいた。

彩花の思い人がいた。


私なんかが彩花に勝てるわけないけど、

私だってそこそこ可愛いはずだ。

それに、胸だけなら彩花よりある。


彩花は今まで男の影が一切なかった。

なので想像だが、ガードが固い筈だ。

多分付き合ってないのであれば、まだセックスなんてしてないだろう。

私も経験なんかないが、私が彩花に勝つにはこの身体を使うしかない。

佐藤君はモテそうだけど、まだ高校1年生だ。

私が経験豊富ぶって誘惑すれば、もしかしたら掌で転がせるかもしれない。




そして私は掌で転がされた。




◇◇◇





「んっ...」


メイ先輩が目を覚ました。


「あれ、私は....?」


「おはよ、メイ」


「おはよう...彩花...?ッッ!?」


全裸で身を起こしたメイ先輩に、寝てるうちに呼んでおいた彩花が声をかけていた。

なにがなんだか分かっていなそうだったメイ先輩だったが、状況を把握したのかサーっと顔を青くした。



「ちっ、違うの!彩花、これは...」


「大丈夫だよ、メイ。私怒ってないよ。ずっと、気付かないふりしていてごめんね」


「彩花...?」


「メイが新見君のことを好きなの、私気付いてた。いや、最近なんだけどね。前に2人でデートしてるとこ見ちゃったから。その癖に新見君は未だに私にアプローチしてきてて、全部無視してるんだけど、そのことをメイに言えなかった。メイを傷つけたくなくて」


「そう...なんだ。真は...新見君は彩花が好きで、彩花に近づくためだけに私と仲良くしてただけみたい」


「...最低だね。でも信じて、メイ。私は本当に、新見君に興味ないの。私が好きなのは優君とメイなの」


「...信じるもなにも。彩花が新見君のことをなんとも思ってないことは知ってるわ。これはただの私の逆恨み。ごめんね、彩花。私...彩花より先に佐藤君とセックスしちゃった...」


「えっ?」

「えっ?」


「えっ?」


メイ先輩の言葉で場が固まる。


「あー...そっか、秘密にしてたんだった。

あのね、メイ。私と優君は去年の夏から、もうずっとえっちしてるよ」


「え、えええ!?2人は付き合ってたの!?」


「いや付き合ってないですよ」

「ううん、付き合ってないよ」


「え、え、え...どういうこと?」


「まぁ、セフレですね」

「えへへ...セフレって言うのかな?」



ぷしゅー...と音を立ててメイ先輩がフリーズした。

ちょっとウケる。



「あっ!勘違いしないでね、メイ!

セフレってちょっとチャラいイメージあるかもだけど、私は優君としかえっちしたことないからね!」


「いや、そういう問題じゃないわよね...?」


「えへへ...。まぁ事情は今度話すよ」


「ええ、ぜひ聞かせてほしいわ。今はもう、なにがなんだかわからなくて...」


「ううん、大丈夫だよ」


「それと...2人とも、本当にごめんなさい。

悪戯に2人の仲を壊そうとした私は、もうあなた達の側にはいられないわ。全部精算したら、私は消える」


その言葉に、俺と彩花は目を合わせる。


「どうするんだ、彩花?」


「優君、やっちゃって」


「いいのか?」


「いまさらだよ!メイをわからせてやって!」


「えっ?あなた達、なにを...?え、え...むぐっ」



彩花と2人がかりでメイを責めたてめちゃくちゃセックスした。




「はぁっ...はぁっ....な、なんで...?」



責め続けられて、ぐったりしたメイがか細い声を出して聞いてきた。


「優君、ゆっくりシャワー浴びてきて!

メイと2人で話したいから」


「わかった」


これは彩花とメイの問題だ。俺は言われた通り離れることにした。



◇◇◇



メイがしたことは本当は許しちゃだめなことかもしれない。

けど、私は優君から電話でそれを知らされた時に思いついたことがある。



「よし。メイ、私ね、優君とえっちするようになって、わかったんだ」


「なにを...?」


「心がぐちゃぐちゃになってもね、

優君とえっちすれば全てが解決するのですっ!」



「...ふふっ。なにそれ。おっかしい」


そう言って泣き笑いするメイを優しく抱きしめる。



「本当にね、本当に私と優君の関係は特殊なの。今は説明しきれないくらい。だからメイが優君とえっちしても、誰も悪くないんだよ」


「...」


「ね、メイ、えっちしてみて、どうだった?」


「...最初はなにがなんだかよく分からなくて...テンパったまま終わったわ。

さっきは...ずっと責められて、死んじゃうかと思ったわ」


「あはは。でも気持ちよかったでしょ?」


「ッッ..まぁ、はい...」


「ね、メイ。今、新見君のことどう思う?」


「そうね...あれだけ苦しんでたのに、不思議ね、今は何とも思ってないわ」


「それがえっちだよ!」


「そ、それは違うと思うのだけど...」


「違くないよ!それでね、メイが苦しんでたのを見て見ぬふりしてた私にも責任があると思うの。それに私はメイしか友達いないんだから、離れたくない。だから、提案があるの」



我ながら妙案を思いついたんだよ。



「そんなことないわ。私の逆恨みよ。..提案?」


「うんっ。ずばりっ!お近づきの印に、メイにも優君とセフレになる許可を与えますっ!」



大好きな優君を私1人じゃ癒せない

だったら大好きなメイにも手伝ってもらおう!



「は?...なにを言ってるの?」


「ん〜?優君に抱かれてる時幸せそうなお顔をしてましたよ、メイさん?」


「ばっ!ばか言わないで!そんな...」


「まぁまぁ!いいではないか!」


「そ、それにそんな、セックスで釣ってお友達に戻るなんて嫌よ!そういうの抜きで、普通に仲良くなりたいわ」



嬉しい。でも逃さないよ、メイ。



◇◇◇



...シャワーから戻ってきたら2人が何か凄い話をしていた。


「ん、言ったね?じゃあ、はい、仲直り!今からまたお友達ね、メイ!よろしくね!あ、優君いいところに戻ってきた!こっちきてきて!

じゃあメイ、お友達として、お近づきの印に今から3人でえっちしよ!」


「え、えええ!?ちょっと彩花...そういうのは抜きって...それに私、初めてだったのに今日はもう2回も...」


「メイ、往生際悪いよ」


「私が悪いのかしら!?

ううう...なんでこんなことに...

...わかったわよ!やってやろうじゃない!

...あなた、こんなに強引だったかしら....」


「えへへ。この子をくれた時のメイを意識してみました」


そう言って彩花は鞄につけていた熊のアクセサリーをメイ先輩に見せていた。

そういえばメイ先輩の鞄にも同じものがあったな...


「彩花.....」


泣きそうなメイ先輩。


「えへへ、またお揃いだね、メイ。

しかも優君は世界に1人だけだよ!」


「一緒にするのは佐藤君に失礼じゃない?」


「「ふふっ。あははっ」」


...よくわからん。3人でセックスするらしいが、俺がシャワー浴びてる間になにが起きたのか、今の謎のやり取りのせいなのか、2人だけの空間が出来上がっている。



え、俺どうすればいいの?



「優君、なにしてんの、はやく!」


「佐藤君今度は優しくしてほしいわ」



あ、はい。



よく分からんけどハッピーエンドならヨシ!



───────────────────


次回、幕間

原作の話です。

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