学校帰り、妖怪を殴る。
二ツ井
第1話 河童を殴ろう
日本では知らない人がいないほど有名な妖怪。
尻子玉を抜いたり、人を沼や川に引きずり込んで殺すという物騒な噂がある一方で、イタズラはするが悪さはしないと言わたりしている。
まぁ河童にも良い奴と悪い奴が居るのだろう。
まるで人間みたいだな!はっはっは!
…さて、そんな河童だが結構身近に居たりする。
というか、妖怪自体結構そこら辺歩いてる。
基本みんな擬態しながら人間社会に溶け込んでるんだ。
隣の家の奥さんはろくろ首だったし、小さい頃一緒に遊んだ近所の子供のうち1人は座敷童子だった。
それを俺たち人間は知らないまま生きている。
妖怪たちは擬態したり、そもそも見えなかったりして、普通の人間が彼らに出会うことはまず滅多にない。
出会った一部の人達が怪談だったり都市伝説だったりで語っているのである。
え?なんでそれを知ってるかって?
そりゃ何度も妖怪に絡まれてるからさ。
天邪鬼にはダル絡みされて、化け狸には道を聞かれて、花子さんには殺されそうになった。
そう、たまに俺は殺されそうになる。
妖怪の中にも人を殺すことを楽しいと感じる奴らが居る。
時折、子供や老人が行方不明になったりするのも何件かは妖怪のせいだ。
迷惑な奴らだ、全くもって面倒くさい。
面倒くさいので襲われた時には、
「おるァァァァァ!!!!!」
「ごへぇっ!!??」
と、このようにぶん殴るようにしている。
今のは河童をぶん殴った。いい拳が入った。
でも拳がネタネタして気持ち悪い。
こいつら沼とか池にもいるから変にヌメってて気持ち悪いんだよなぁ〜。
川にいる奴はそんなにヌメってない。
というか、川にいるやつは大概無害。
池とか沼に居るやつは井の中の蛙してるから陰湿で人間に対して攻撃的なやつが多い。
人間で言う引きこもりだけどネットでレスバしてるやつと一緒だ。外に出て体を動かせ。太陽を浴びろ。
なんでこんな状況になっているのかと言うと、下校中、近くの公園の自販機で飲み物を買おうとした俺にむかって、池から俺を引きずり込もうと河童が飛び出してきたのだ。
なのでその場でしゃがみ、思いっきり腹部にアッパーをかましてやったので、河童は宙返り決めながら池と反対方向へ飛んで行った。
今は腹を抱えて悶絶してる。
すると血走った目をこちらに向けて睨みつけてきた。
「て、てめぇよくも」
「うるせぇ!」
「あがっ?!」
なんか恨み言を吐かれそうな気がしたので思いっきり顔面をサッカーキックで蹴ってやる。
というか恨み言吐かれる筋合いはない。寧ろこっちが吐きたい。
俺はさっさと帰りたいのだ。こんな事に付き合いたくは無い。
「こんなことして許され」
「妖怪に人権はねぇ!!!」
「おげっ?!」
再びを蹴りを腹に入れる。
人権のある妖怪はしっかり住民票を取って市民権を得ている妖怪だけだ。
野良妖怪なんぞ野犬や熊と変わらない。
しかも犬や熊と違って対処出来る人間が居ないから警察に報告することも無い。
したとてイタズラと思われるのが落ちだ。
つまり、
「俺に!人様に!迷惑を!かけるんじゃ!ねぇ!」
「おぐっ?!ごほっ、い、いてぇ!いてぇよ!やめてくれ!」
「あぁ?!これに懲りたら二度とその面見せんじゃねぇぞ!それかちゃんと市役所行って住民票取ってこいボケ!!」
「わ、わかったからやめてくれよぉ!」
こんな感じに追っ払うしかないのである。
変な力を使われるより、妖怪の地力で攻撃されるよりも先にフルボッコにする。
んで、力を示して俺に近づかないように仕向けると。
大体いつもそんな感じでやっている。
こうしてると襲ってきた奴の大半は俺に近づいてこない。
最近だと妖怪の間で噂になってるらしいが知ったことでは無い。
襲ってくる方が悪い。
「ったく、じゃあな!二度と迷惑かけんなよ!」
「…背を向けたな馬鹿め!死」
「奇襲するなら黙ってやれアホが!!」
「ぐへぇぇ!!!」
懲りずに襲いかかってきたので回し蹴りで池の方へと蹴り飛ばす。
ジャボン!と大きな着水音が響くが、幸い近くに人は居なかった。
「…あーあーあー、もう。水草とか泥が靴に…」
面倒な奴に絡まれてしまった。
折角新しく靴を買ったのに…またしばらくしたらおじゃんになりそうだ。
あぁ、自己紹介が遅れてしまった。
俺の名前は
妖怪が見えて、妖怪と話せて、妖怪に触れる特殊体質を持ってるけどそれ以外は普通の男子高校生だ。
下校中に妖怪に絡まれて殴り飛ばす以外は本当に。
俺だって別に好きで殴ってる訳では無い。
向こうから攻撃してきてるのだから正当防衛だ。
まぁそもそも妖怪に法が適用されるはずもないので正当防衛もクソもないのだが。
「疲れた…帰るかぁ」
今日も今日とて妖怪を殴る。
小学校の時から殴り続けてきてるので日常化してしまっている自分が憎い。
初めて妖怪を殴ったのは小5の頃、友人がふざけて花子さんをやったらマジで出てきたのでパニクって顔面を殴った。
その時花子さんも殴られると思ってなかったのかポカンとしてたし、俺も殴れると思ってなかったからポカンとしてた。
『あ、えっと…お、お邪魔しました…』
『あ、うん…』
お互い気不味くなってそっとトイレの扉を閉めたのは良い思い出だ。
良い思い出なわけねぇだろ。
あの日以来、何かにつけて襲ってくる妖怪が増えてしまったのだから。
「はぁ…」
思わず溜息を吐きながら歩く。
いつになったら俺は妖怪を殴らず暮らせるようになるのだろう。
願わくば、社会人になる前には何とかしたいものだ。
──────────────
これは俺がいつか、妖怪と関わらないようになるために悪戦苦闘する物語だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます