商鞅の変法(改革・白熱する会議)

 会議は白熱しました。


 法を作ろうとする衛鞅えいおうが口火を切りました。


「先日も申しあげましたが、私は、秦の国の従来からの法を変えたく思っております。多くの方からは疑問の声が上がっているようでございます。行うにあたって名実がまだないものは疑義を呈され、事のまだ実効がないものは疑われるものです。かつ高い行いがある人はもとより世の中から非難されるものにございます。


ただ一人、知のおもんばかりがある者だけが必ず国民からかまびすしく非難されるのでございます。なぜならば、愚かな者は事を成立させることを見通すことができないのに対し、知のある者はまだ物事が行われない前に起こりうる可能性を推測し、予見して行動するから批判を浴びるのでございます。」



 多くのものが、その新しく作られる法のことを聞いていて、不安を抱いていました。不穏な空気が会議の場には漂っておりました。


 衛鞅はかまわず、孝公に申しあげました。



「そもそも国民と物事を始めることを考えるべきではございません。法が敷かれたあと、その成果が達成されるのを一緒に楽しむべきなのです。至徳を論じるようなものは国民や多くの者の意向や習慣と妥協いたしません、大きな功績をなすものは、国民や大多数に諮らないのです。だからこそ聖人がもし国を強くしようとするのならば、必ずしもその今の法に従わないのです」


「聖人が今の法に従わないと?」


 孝公がたずねたのでした。衛鞅は丁寧に答えました。


「問題を解決し、物事を正すような法を行うに当たって、新しく行うところの法が国を強くするのならば、必ずしも今の法にのっとるべきことはないのです」


「ほほう、そうか、法を変えるのはいいことか」


「いいえ、違います」


 席上より発言するものがいました。甘龍かんりゅうと申すものでした。名族と知られた人物で、秦の重臣でした。


「左様ではございません」


 甘龍ははっきりとした口調で上言しました。


「聖人は民の風習を大きく変えないでまず教え、知ある者は今の法を改革せずとも今のままで民を治めることができます。国民の現状に沿って教え、大きな費用や患いをかけずして成功を収めるものにございます」


 甘龍の落ち着いた声は、議場に響きました。



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