木を徙す(上)

 衛鞅えいおうが孝公に国を強くする策を説いてから、しばらく時間がたちました。


 秦の櫟陽れきようの都(咸陽かんようへはまだ遷都していない)の南門の横に3丈(7m程度?)の木が立てかけてありました。


 その前に2人の男が立ち、その木を眺めていました。


「おい、この木がなんで立てかけてあるか知っているか?」


「いや、しらね」


 男は鼻をこすりながら答えました。


「俺はお前ほどいろんなことを知ってねえからよう、なんでこんなところに、木が立てかけてあるのか、しらね」


「じゃ、聞けよ、これはよお、新しく左庶長さしょちょうになられた、衛鞅えいおう様がお立てになった木だ」


「衛鞅様?」


「そうよ、衛の国からいらっしゃった、衛鞅えいおう様だ」


「ほう、その衛鞅さまがどうなすったんだ」


「衛鞅様はだな、左庶長という官職になられて、この木を北門までうつしたら、十金を与える、そうご命令をお出しになられている」


「金をそんなにくださるのかい」


 当時の金属です、科学技術が発達せず、鋳造の技術もととのわない中で、それだけの量の金属は、非常に貴重なものだったと想像されます。


 聞いていた男は半信半疑のようでした。

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