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ねくろん@カクヨム
サモ領編 なんでうちが…の巻
ここはワールイ帝国の辺境、サモ領。
先帝の時代、ワールイ帝国はその領土を広げるため、
世界各国とバチバチの武力紛争を繰り広げていた。
軍装が黒で統一されていたことから、ワールイ帝国は
別名「黒帝国」とも呼ばれていた。
装備は支給されるが、給料から天引きであるとか、
裁量労働制とみなし残業、週休二日制のトリプルコンボで
実際の労働時間が致死量だったとか、そういう意味での
黒さが由来では?と疑われる帝国であったが、
先帝が崩御されてからというもの、今の皇帝は先帝の反動か、
平和路線に切り替わり、近年はホワイト化が進んでいる。
復員兵が出生地に帰ってくると、手に職があった者は商売を始めた。
そうでない腕っぷしの強かった連中は冒険者となり、
怪物退治やダンジョン探索を始め、
山ほどの金貨を稼いだとか、そんな景気のいい噂が世間を賑わせている。
そんな折り、春の穏やかな風が、ガラスも張られてない
木枠だけの寒々しい窓を通り抜け、暖かな木材の…むしろ温かみ以外
何もない質素な屋敷の中に吹き込んでくる。
世間では景気のいい話が流れているが、
それとはうってかわって、負のオーラを感じさせる、そんな屋敷であった。
屋敷には金属を草花の形にあしらう帝国様式ではなく、
山岳民族風の鹿や鳥の彫刻が梁や欄間にみられる。
時代に取り残され過ぎて、もはや文化財に片足突っ込んでると
いっていい苔むした屋敷の中で、
小太りの白髪交じりの中年の男が一人、執務机に腰かけ、
紙片を握りしめて悩みもだえていた。
「何でよりによって、ここに出来ちゃうかなぁ…」
男は手を開くとその手の中に握られていた紙にはこう記されていた。
――サモ13世閣下へ、閣下の治める領土にて新たなダンジョンを発見せり、
サモ13世万歳。
「万歳じゃないよぉ…むしろ天災だよぉ…」
はぁ、とため息をついて、手紙を受け取った中年の男、サモ13世は
執務机の上にあったベルを鳴らす。
年季の入った赤銅色のベルはりん、と澄んだ音を響かせる。
すると、まもなく白髪の長髪をうしろになでつけた、
やせぎすの老人がサモ13世の前に現れる。
革の野外着をまとっており、見た目は年老いた猟師のそれだが、
その眼光とたたずまいには得も言われぬ気品があった。
「カラン、うちの歩哨がダンジョンを見つけたという。
その件について話がしたいのだが?」
カランと呼ばれた白髪の老人は小さくうなずくと懐からいくつかの用紙を
取り出して執務室の机の上に並べた。
「はい、まずこれが我が領地の現状と、発見されたダンジョンの、
調査中ではありますが、今の状態の報告です。」
何か指示を出さなくても必要なものを揃える。
カランのその気遣いにサモ13世は改めて感心した。
書類は絵図を用いて直感的に把握しやすいようにデザインまでされており、
把握にはそれほど時間がかからなかった。
「ダンジョンの規模は恐らく中規模、モンスターは小型の獣や昆虫類、
獣人種のコボルドが確認されたか。」
「毒を使うモンスターや魔法を使いそうなモンスターは無し、か…
すごい初心者向けだねー、人いっぱい来そう、マジで最悪だな。」
――ダンジョン。
それは、危険な動物やヒト型生物が住む洞窟や遺跡の総称だ。
元々は何か別の意味だったらしいが、今となってはその言葉の意味は忘れ去られ、
様々な化け物が一種の生態系を持って住んでいる場所、くらいの意味になっている。
当然そんな危険な代物、とっとと埋めてしまえと思うのだが…
ダンジョンに住む生物は希少資源や金貨の類を持ち歩いている。
危険ではあるが、一種の鉱脈といえるダンジョンは、
国家によってその存在を厳重に管理され、
ダンジョンの発生した土地所有者はそのダンジョンの価値に応じて当然…
そう、当然、『税金』を取られる。
「カランも知っての通り、うちは峻険な山ばかりで農業も出来ない。
目だった特産物は先代が血道をあげて栽培方法を確立した、
キノコのシーテケくらいのものだ。」
カランは頷いてサモ13世の言葉に続ける。
「13世様の【干しシーテケ】の事業化により輸出が可能になりしたが、
それもトントンといったところでありますな。」
「ああ、それ用に荷馬車が通れる道路を通したが、それに利益を
食われてるからなぁ。ここでダンジョン事業が始まってみろ、
ダンジョンには宿屋にもろもろの商店だけじゃなく、
トイレなんかの公共施設と今以上のインフラが必要になる。
うちの経済規模じゃ、軌道に乗る前に干上がるよ。」
「下手に融資など受けようものなら帝国の高利貸しにむしられ、
利子だけで利益をすべて持っていかれるでしょうな。」
そして儲かり過ぎれば帝国の直轄地として召し上げられる…
断れば一族郎党が吊るされるでしょうな。」
サモ13世は再度溜息を吐いて天井を見上げた。
頑張っても残るのは借金ばかりだ。
そもそもダンジョンは存在するだけで固定資産税がかかる…
うちに払えるのか…?
先帝の作った借金に帝国はまだまだ苦労しているのか、
とにかく税金が高い。
特に稼ぐほどに税をとられるシステムになっており、
いい領土ほど苦労していると聞く。
サモ領は飢え死にするギリギリのラインをうろついている、いるのだが、
それゆえに免税対象になっているので、
サモ領は帝国の中ではまだマシなほうなのだ。
ここでダンジョンなんて言う金の生る木が生まれたらどうなるか?
考えるだにおそろしい。
「貴族位を売ってシーテケ農家にでもなった方がまだマシかもな?」
「否定できないのがつらい所ですな。ですが閣下、まだ慌てるのは早いですぞ。」
まだダンジョンの正確な価値が解ったわけではありません。
ここは【ダンジョン鑑定士】に鑑定を依頼しましょう。」
書類に顔を埋めるのをやめ、サモ13世は、腕を組んで答える。
――ダンジョン鑑定士。ふんわりとしか理解してないが、確か、
ダンジョンの経済性から脅威度を差し引き、
そのダンジョンの価値を鑑定する職業だ。
「でも、うちじゃ大した金も用意できないし、新人しか雇えないぞ、大丈夫かな?」
いえいえ、と首を振って、カランは言葉を続ける。
「かえって好都合でありましょう。腹黒い連中と懇意のベテランより、
無垢な新人のほうが安心できます。
それに、初仕事ならば、失敗を恐れ、過少に値をつけることに期待もできます。」
「そうかもしれないな…。どのみち取れる選択肢は少ないんだ、それで行こう。」
サモ13世は、カランが渡した報告書類のなかにしれっと混ぜられていた、
ダンジョン鑑定士の派遣要請の用紙にサインをすると、
それを封筒に入れ、封蝋を施した。
(いやはや本当にカランは用意がいい。こんな彼の考えなら間違いはないかもな)
そうして、サモ13世のダンジョン鑑定士の派遣要請は帝国首都まで届き、
2か月ほど後に、皇帝の信任状を携えたダンジョン鑑定士のナズーが、
サモ13世の屋敷に到着することとなる。
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