もしかしてリッチな関係でホラー仕込み

一爪琉青

第一章 深淵より来る死を超えしもの

プロローグ

「せめて、ケダモノのクソになろう」

男は魂から吐き出すように、呟いた。

呟きながら、歩いていた。


 男はギリシャ神話にでてくるミノタウルスが徘徊してそうな迷宮の中にいた。暗くてかび臭い、生きてる者にとっては忌まわしい場所だ。男は、ひびわれた石畳の敷かれた通路を素足でペタペタと踏んでいく。

時折、ぬるっとしたドブネズミが横切り男を味見する。それでも男は歩くのをやめない。

男は「何か」の意思に支配されていた。

 

 何をやっても人生がうまくいかない。男は自らの思い出を振り返る。

 人を蹴落とし、騙し、泣かせても、先が明るくなった気がしない。時は四肢から力を奪うだけじゃなく、精神的な「何か」までも男から失わせた。

 

希望がない。


希望が見えない。


 人の世は、クソが積み重ねられて作られる。

どんなにキレイゴトを考えても、

人間である限り、

肥だめの中に頭から突っ込んでいく結果にしかならない。

 人間である限り、少しでもマシなクソになれるように目隠しで走り続けなきゃいけない運命しかない。

マシな人生を送るには、「何が」必要か?


金だ。


男は、「金」を欲しがった。


しかし悪魔に自分の魂をやれない。

死後があったとして、

永遠の中で囚われ、使役されるのは男にとって想像したくなかった。


自分以外の「誰か」を捧げよう。


男は長身の外套をまとった「何か」の前にいた。

それは男に話しかけた。

 

彼の辿った人生よりも、暗い深淵の底から。


皮肉なことに、男はケダモノと会うことで

人生に希望を見出せた。


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