灰色の世界から君が来た

黒夢

第1話 スマホから出てきたのは..........

 今年、S〇GAから新しいリズムゲームがスマホのアプリゲーで出るという話題で世間は騒がしかった。

 かく言う俺、中野 優吾(なかの ゆうご)もその話題は嬉しかった。なぜなら........。

 今やほとんどの人が使わなくなったbitaやP〇4を使って俺は慣れた手つきでコントローラーのボタンを叩いたり、画面をタップしたりする。

 流れてるのは初音ミクが歌っている曲、俺は昔からこのS〇GAが販売しているゲームが好きだった。

 bitaの方では徐々に演奏できる楽曲が増えて行ったり、まさかのストーリーもあったりなど、それはいつでも楽しめる作りになっている。P〇4ではストーリーは無く、ただ純粋にリズムゲーを楽しむために作られた設計で、何と言っても楽曲の多さに目が行く。それこそ新しい楽曲もきちんと用意されているので好きな曲を少しずつ課金して入れるのが少し前の俺の楽しみだった。

「ふぅ、これで全部クリア.......っと.......うわぁ手汗びっしょり........はぁ」

 高校生にもなって俺は誰一人として友達がいなかった。それもそのはず、自己紹介の時に好きなゲームは初音ミクProjectDIVA シリーズですって答えたらみんな揃って目が点になっていた始末。

 その後、話しかけて来るやつはからかい気味の男ばっかで誰一人、遊びに誘ってくれない。

 お先真っ暗と思いながらネットニュースを見ていた時だった。俺の目に留まるのは普段気になる話題以外スルーしており、なかなか目には留まらないはずのネットニュースに衝撃が走ったからだ。

 そこには 【完全新作】 あのS〇GAから4年ぶりにあのリズムゲームがスマホゲームとしてやってくる! と書いてあった。

 そこで俺はある考えが浮かぶ。このゲームをすれば(するつもりだったけど)、一人でも仲良くなれるのでは?と俺はひとり暮らしの安いアパートということを忘れ一人「ひゃほおおおおおい!!」と素っ頓狂な声を上げ、ジャンプして、その後大家さんに怒られるのだった。

 時は流れて、いよいよS〇GAの新しいリズムゲーの配信日になった。有名実況者や配信者もやるなど人気も高い。やりがいがあるなと一人燃えていた。

 そしていよいよ震えた手でダウンロードを押す。

 俺のスマホはA〇PLEのスマホだというのもあり、ピコンという音とともにダウンロードが進んでいく、そしてダウンロードが終わり、すぐにアプリを起動する。

 まず驚いたのはその映像の良さだった。次にオリキャラがいるという事実に気づく。

 そしてやはり長いダウンロードがある。俺はそれが終わるまで旧作をやることにした。

 しばらくやると終わっていた。そして目の前に初音ミクが現れて言う。

「こんにちわ。ここに誰かが来るなんて、珍しいな」

 タップする。

「私は、初音ミク。君の名前は?」

 タップすると名前を入力という画面が出てきた。

 名前か.......さすがに本名を入れるのはやばいと感じたので自身の名前のなとゆを取り、英語でYUNAと名付けた。

「とっても素敵な名前だね」と返してくれる。

 またタップする。

「君は、こことは別の世界から来たみたいだね」と言うあたりからストーリ性も豊富な気がしてわくわくが止まらない。タップする。

「ふふ、君の世界のことは私もよく知ってるよ」

 タップすると二つの選択肢が出てきた。

 こういうのはだいたいが同じなので右をタップする。

「ここは世界の狭間、たくさんの思いが集まって、そして、たくさんの「セカイ」が生まれる場所だよ」

 俺は思った。こんなとこにいるのって退屈しないのか?とそれでも俺は設定だからと飲み込んでしまった。

 タップすると新しい選択肢が出る。今度は左を選択した。

「セカイはね、想いから生まれる不思議な場所なんだよ。想いの数だけセカイがあって、姿かたちを変えるの」

 俺にはよくわからない。でもオリキャラがいるということはミクが言う「セカイ」が沢山あってそのストーリーとかも徐々に分かっていくという感じなのだろうか?

「私はここで、それぞれのセカイから歌が生まれるのを見守ってるんだ」

 え?歌わないの?あのミクが〝見守る″.......?S〇GAさん!この4年の間に何があったんですか!と思わず突っ込みたくなる。

 タップするとまた選択肢が.......面倒だ右。

「うん。セカイで、想いの持ち主が「本当の想い」を見つけるとその世界から歌が生まれるの」

 タップ。

「歌は、強い想いでできてるから、だから、「セカイの私たち」も本当の想いを見つけてもらうためにセカイで待ってるんだよ」

 なんじゃこりゃ、ここまでくると頭が痛くなる。はやくプレイしたいのに.......。

 あぁ!右手がアンインストールしようと動いてる!だめだ!まだプレイしてないのにくそゲー確定みたいな考えをしたら!

 なんとか静止して右の選択肢をタップ。

「ふふ、そうだよね.......でもね、みんな心の奥に強い想いを持ってるんだ」

 タップする。

「もちろん君の心の中にも」

 そこで俺は想いとはなんだと考えるも出てこないので断念した。

 しかたなく次をタップする。

「ねぇ。私と歌ってみない?」

 ようやくプレイできそうな雰囲気になる。

 タップする。

「きっと、歌が私と君の心を繋いでくれるはずだから。さあ、君の想いを教えて?」

 タップすると一瞬光り、ローディング画面になる。

 そしてチュートリアルがようやく始まった。

 なんか既視感があるのはさすがに置いといて俺は簡単すぎるチュートリアルをなんなくこなし、またあの画面にもどる。

「ありがとう、一緒に歌ってくれて」

 タップする。

「君は.....みんなの想いを、そしてセカイを守りたいって思ってくれてるんだね」

 全然思ってないんだけど.......てかそろそろプレイさせてくれ!じゃないと右手がアンインストール画面へ直行するぞ!と頭で念じても無意味なのにしてしまう。

 またタップ。

「ふふ、私と一緒だね!だから、この場所にも来られたのかな?」

 ノーコメントで..........後でS〇GAの旧作をしようと思い始めてきた。

 またタップ。

「ねぇ。ちょうど新しいセカイが生まれようとしてるよ!.......君にも聞える?」

 タップしてまた光る。次に出てきたのは5色の玉のようなもの真ん中には音符があり、近くにはそれの意味がある。

 ここはテキトーにしてどんなキャラがいるのかを確かめよう!とまず最初に緑の玉を選択。3つともそれを選択すると出てきたのはオリキャラ4名+初音ミク、上にこのセカイにいるバーチャルシンガーと書かれていて、鏡音リンがいることに気づいた。横にスクロールして今度もオリキャラ4名+初音ミク、その上を見ると鏡音レンとMEIKOがいることがわかる。ミクはどうやらそのセカイによって多少なり姿が変わるんだなと他のセカイも見てわかる。ただ.......一つだけ気になった。背景は灰色でオリキャラはやはり4人、しかし、見たことのないヴァーチャルシンガーがいた。

 髪は灰色で、おそらく髪はツインテールで白いリボンで留めているがオリキャラが邪魔で服までは確認できない。このキャラは誰だ?とそのキャラを見ていたその時だ。

 これ以上ないほどの光を放ち、俺はスマホを投げて「うわぁあああああ!」と驚く、眩しくて目が開けられないままその光はじょじょに収まっていく。

 目を開けるとそこには、

「............ここ..........ドコ.......?」

 さっきのキャラがいた。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 お互い無言で俺の場合何が起きたのかさっぱり分からないため、目がこの通り。(てー----ん)、点になっていた。

 ぐぅううううううううう。

 沈黙を破ったのはそのキャラのおなかの虫が鳴った音だった。

 時計を見ると午後6時24分と時間も時間なので俺はある提案をする。

「えっと..........何か食べる?」

「.........うん」

 彼女は静かに言う。

 俺はどうしようかと悩んだ末に、買い出しに行ってないことに気づき、どうしようかとさらに悩む。

 とそこで彼女がある食べ物を見る。それは俺がゲームの合間のデザートとして食べている冷凍のたい焼き。机の上に置いたままにしていたことをすっかり忘れてゲームしていた。

「食べるか?」

 俺は3つある中から一つ手に掴み、彼女に見せる。

 彼女はコクリと小さく頷き、それを手に取る。

 ハム。どこからかそんな聞こえない音がした気がする。その姿はまるで小動物みたいだった。たい焼きの先を少しだけ齧って食べているその姿に思わずドキッとする。

 その姿は言い換えればハムスターが大好きなヒマワリの種を食べているかのような、そんな感じでとても可愛いい!

 な..........なんだこの可愛い生物は!!あの時右手がアンインストール画面に行ってたらこんな事無かったのかもしれないなと右手を止めた俺に称賛しつつ改めてその少女をみる。

 オリキャラの後ろだったからなかなか見ることが出来なかったが服はどこかのお嬢様のような白がメインのワンピースで右目が薄い緑色で左目は薄紫と間違いなくカラーコンタクトをしなければできない目をしていて、本当にスマホから出てきたんだなと確信した。

 そんなことを考えていたらあっという間にたい焼きを食べたみたいで「..........もっと」とせがんでくる。仕方ないので皿に残っている残りの二つを持ってきて皿ごと渡す。「.......おいしい.......」という彼女を尻目に俺は件のスマホを見る。

 スマホは画面が暗くなっていてロック画面になっていた。

 ホーム画面に行くと、そこには..........〝S〇GAのあのゲームが無くなっていた″。


 

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