泥のガーデン

ボウガ

第1話

 「土臭い事や、汚いことは悪いことばかりじゃない、そこに生まれた“美しい節理”を見る事ができるから」


 父の言葉をかたくなに信じるベイン・グローは勇者パーティの嫌われ者だ。だが、彼の実力や、縁の下の力持ちぶりを疑うものはいない。だから多少の失敗や、間違いには目をつぶる、それどころかどこかで彼は一目置かれているのだ、本人が気づかないままに。


 彼ら6人組は、うだるような夏の暑さの中、今休憩所となった小さな東の村、ラニアを出発した。

 「何を見ているの?」

 年上の女性、魔術師のケールナーが話しかけてくる。ケールナーは面倒見のいい姉といった感じの雰囲気をまとっていて、いつもドレスをきている。髪が長く半分隠れている。話しかけられたものの、ベインはその見つめる先のものからしばらく目を離さなかった。

 「ええ、精霊の動きです」

 「ええ?くすっ、それって、“精霊すかし”ね、魔術師でもないあなたが精霊をみたって意味はないのに」

 「ええ、ただ精霊を見ているだけです、でもその土地の精霊の動きやにおい、形や振る舞いをみることで、僕はその土地での運命を……」


 《ドン!!》

 ツインテールのいたいけな少女が巨大な槌をもって、目の前の土の壁に衝突した。というよりそれは、寸胴の大きな人型の歩く土だった。前腕が大きくふくれあがったゴーレムである。

 「ベイン!!本当にあんたって、どんくさいんだから、このゴーレムなんとかしなさいよ、歩くスピードが一定じゃないのよ!!」

 「ああ、はい、いまいきます、すみません」

 「ったくもう……」

 ゴーレムは荷物係である。最後尾につく、魔力の供給も大変で、体力ももっていかれる、おまけにこの暑さ、速度が一定でないのも無理はなかった。それでもベインはめげなかった。ただひとつ、美しい節理を信じて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泥のガーデン ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る