一夜の夢
癒鷹 Yutaka
第1話
「・・・・●●●●、××、▲▲▲、お疲れ様。
今日も来てくれてありがとう。
それでは人類諸君、ごきげんよう~」
いつものように配信終了ボタンを押し終えた彼は、椅子の上でゆっくりと背筋を伸ばした。 今週のスケジュールを確認するために手帳を取り出しながら、スマホ片手に日課のエゴサに勤しむ。 それが彼の日常だった。
彼の名前は「るる」。 「主君である魔王様のご命令で、配信活動を通して信徒を増やし、この地球を侵略するためにやってきた邪悪な魔族」という設定でVtuberをやっているが、実はその設定は全て事実だった。
そんな彼は魔族の特技である「人間の心象を読み取る術(すべ)」と甘く品性のある声によって着実に信徒(リスナー)を増やしていた。
そんなある日、1人の信徒が彼の目に留まった。 信徒の名は「シオリ」。 エゴサが趣味である彼は当然その信徒のことも認知していたが、ある一時期からほぼすべての配信にいる上に、変わったコメントを打つので記憶に残っていた。
「悲鳴で鼓膜が得当てそう」
「何で総なうのw」
「王t彼様でした」
「聞いたことないです重しとそう」
何となくだが、彼は信徒であるシオリは外国人かまだ幼い子供なんじゃないかと思っていた。 そうであっても、仮にそうでなくとも彼はシオリの存在が嬉しかった。 シオリだけではない。 シオリ以外の信徒1人1人の存在が、やがて人類を侵略することが目標の彼にとって大きな喜びだった。
今日は月額で料金を払うシステムに加入している信徒たちと、るるが直々に会話できる特別な配信だ。 配信は一般公開ではなく、信徒たちの個人情報秘匿の為に、同じく月額システムに加入している信徒にしか見れないようになっている。 こういった細かい配慮が彼の人気の所以でもあった。
当然というか、シオリもその配信に参加した。 信徒シオリの通話前になると、配信のコメント欄が盛り上がった。 るる本人だけでなく、シオリは信徒の間でも名物リスナーとして広く認知されていた。
「男かな女かなどっちだろう?」
「コメントを解読する限り女の子じゃないかな?」
「日本人なのかな」
「名物リスナー・・・ついにご本人と邂逅!」
盛り上がるコメント欄と同じく、彼も若干緊張していた。 シオリはどんな人間だろうか?
「ごきげんようシオリ。 初めまして。 僕の声は聞こえているかな?」
「・・あ・・聞こえています。 ごきげんよう。 初めましてるるさん、シオリと言います。」
彼は内心少し驚いた。 若い女性の声だった。 緊張からか少々言葉がたどたどしいが、彼との会話に慣れてくると流暢で丁寧な言葉を紡ぎだした。 若い声だったが幼くはない。 外国人特有の訛りや接続詞の間違いも無い。
ならどうして、いつも変なコメントを打つのか? 当然の疑問だったが、本人が気にしていることだったら彼女のるるに対する心象を悪くすかもしれないと思い、彼はあえて黙っていた。
その日から彼はシオリが気になった。 話してみた感じ、彼女は一般的な人間だった。 彼女との会話の内容は彼の過去の配信についてが大半だった。 なぜ彼女は変わったコメントを打つのだろうか?
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