クエスト失敗!諦めるな!
村長の
それよりも僕が心配しているのは、カシクの心のダメージだ。今回のクエストが失敗したことで、カシクは以前の様な自信を完全に失ってしまった。ベッドの上でふさぎ込んで、顔を合わせる度に僕に謝罪する毎日だ。
数日経って、カシクが動ける様になってから乗合馬車で王国へと戻った。
トボトボとギルドへ戻って、フェイさんにクエストが失敗したことを報告する。フェイさんは、生きて戻ってくれたことが何より嬉しいです、と言ってくれたけれど、落ち込んでいるのが分かった。僕自身もかなり落ち込んでいた。
カシクと宿に戻って、少しの間、療養する事にした。カシクの傷が完全に癒えるまで、一人で出来る簡単なクエストを受けることにする。フェイさんに、地下水道の清掃や森での木の実集めなどの安全なクエストを紹介してもらって、淡々と毎日を過ごした。
「なあ……セイル」
ある日、クエストを終えて、宿に戻るとカシクが真剣な目をして僕に話し掛けた。
「なんだよ?」
「あのさ……」
言い辛そうにして、下を向くカシク。数秒して、顔を上げた後、溜息混じりにカシクは言った。
「俺……冒険者を辞めようかと思ってる」
「は?」
カシクの口から放たれた意外な言葉に、僕は固まってしまった。
「俺……俺さ。自信があった。あんなゴブリンどもに負けるわけないって。でも、蓋を開けてみれば俺は初クエストで失敗する、情けないやつだった。お前にも迷惑を掛けたし」
カシクは、涙目になって僕に訴えかけてくる。そんなカシクを見て、僕は思わず語気を強めてカシクに言った。
「カシク!お前はいつか魔王を倒す冒険者になるって言ってたろ!諦めるな!」
「でも……でもよぉ、セイル……」
「でも、じゃない!僕らはもう冒険者なんだぜ?カシクが言ったんじゃないか!」
僕の言葉を聞いて、カシクの目に少しだけ光が戻る。
「カシク!ここが踏ん張りどころだ。諦めてまた炭鉱夫として過ごすのか。それとももう一度、僕と冒険者としてやっていくのか」
「セイル……」
カシクは泣いた。その涙を腕で
「セイル。ありがとう。俺、本当はもう一度クエストに挑戦したい!」
「そうこなくっちゃ!明日にでもフェイさんのところへ行こう!」
「ああ!」
こうして僕たちは、もう一度、クエストにチャレンジすることになった。
次の日、ギルドに行ってフェイさんの元を訪れた。冒険者アドバイススペースの扉を開けて、緊張しながらフェイさんが来るのを待つ。
数分後、フェイさんはにこやかな顔をして現れた。
「いらっしゃいませ、セイル様、カシク様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
フェイさんの目は、何かを確信していた。
「あの……ルソン村のゴブリンの巣の駆除のクエストをもう一度受けたいんです!」
僕が頭を下げながら
「そういってくださると思っておりました!さあ、今度こそクエストをクリアしましょう!」
「「はい!」」
フェイさんの満面の笑みに、僕とカシクは同じような満面の笑みで返した。
「恐らく、ゴブリンの巣の最奥に居たのはホブゴブリンと呼ばれる上位種です」
「ホブゴブリン……聞いたことあるな」
カシクが首を
「体格はゴブリンよりもふたまわりほど大きく、力も何倍も強いんですよ。人間から奪い取った武器を装備していることも多く、倒すのはかなり困難です」
「だよな……」
カシクは少し落ち込みながら、フェイさんからのアドバイスを受けていた。
「特に厄介なのが『咆哮』です。ホブゴブリンの咆哮は、自分よりもレベルの低い相手の動きを数秒止めるというスキルでして」
「それ、僕らもやられました。鼓膜が破れるかと思った……」
「実際に破れる冒険者の方も居ますよ」
フェイさんからアドバイスを聞く度に心が折れそうになる。果たして僕らはホブゴブリンを倒して、クエストをクリア出来るのだろうか。思わず不安感から、その事をフェイさんに訴えかけた。
「フェイさん……僕らでホブゴブリンを倒すことって出来ますか?」
フェイさんは何度か頷いて、僕ら二人の目を見てから言った。
「正直に申し上げますと、レベル3のパーティーで、ホブゴブリンの討伐は、かなり難しいと思います」
「ですよね……」
「しかし、不可能ではありません!」
フェイさんは胸を張って言い切った。
「ほ、本当ですか?」
「ええ!少々お待ちください!」
フェイさんはバックヤードから、何冊かの資料を持ってきた。
「先ず、ゴブリンは光属性に非常に弱いんです」
「そうなんですね」
僕とカシクは、フェイさんの話を前のめりになって聞いた。
「なので、この『火花の巻物』……こちらを使って目つぶしをしてください」
「なるほど!確かにアイツら、夜目が効くってことは……」
「そうです!強い光を受けると、視力がやられて数分は動けません」
そしてフェイさんは次の資料を開いて、ボールペンでホブゴブリンに関する情報を話し始める。
「咆哮に関しては、この『遮断の耳栓』が良いと思います。大きな音だけを遮断するマジックアイテムです」
「へー!これがあればホブゴブリンの咆哮なんて怖くないですね」
「ええ!」
その後も様々な対策をフェイさんはアドバイスしてくれた。
「じゃあ……この『火花の巻物』と『遮断の耳栓』を貸して欲しいんですけど」
「在庫はたっぷりあります。この書類にサインを頂けますか?」
「はい」
僕が書類にサインしようとすると、カシクがおずおずと手を挙げた。
「カシク様、何か?」
「あ……あのよ。『帰還の羽根』ってまだあるかい?」
「はい。ございますよ」
「あの時、俺、フェイさんのアドバイスを少し馬鹿にしてた。でも、フェイさんのアドバイスがなかったら、俺は確実に死んでたよ。俺だけじゃない。セイルだって……俺の
カシクは震える声で、言葉を続けた。
「『帰還の羽根』を買いたい。いや、売ってください!フェイさん!」
カシクが、そう言うとフェイさんはカウンターから帰還の羽根を取り出した。
「初回サービスは、もうないですが……」
「構わないよ!」
「実はレベル5以下の方には90%オフの値段で売ってるんすよ」
ふふふ、と悪戯っ子のように笑うフェイさんの笑顔を見て、僕たちは二人して笑った。
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