葬儀屋は死の女神に恋をする

suiho

序章 はじまり

 死。大多数の人が忌み嫌うその言葉を辞書で引くと「生命活動が停止すること、生物の命が途絶えること」を意味し、どれだけ医療技術が発達してもいつかくる死の運命からは誰も逃げられない。そして人間の場合その多くが死者に対して最後の挨拶のためにとある式典が催される。

 葬儀。お葬式とも呼ばれるそれは死者の魂を弔い、最期のお別れを行う神聖なる儀式だ。僕こと勇美凪いさみなぎはそんなお葬式をお手伝いする葬儀屋の息子として生を受けた。今年で16歳。高校生になっても僕の毎日は変わらず勉学か家の手伝いである。でも不思議とそのことを嫌だとは思わなかった。他人であっても人の死に触れ、命の大切さと儚さを見てきた僕は両親の仕事に尊敬の念を抱いていた。いつの日か僕も両親の仕事を継いで、多くの人の悲しみに立ち会えたら、そして少しでも「この式が良いものだった」と思ってもらえるそんな立派な葬儀屋になりたいと思っていた。


「まさか、それがこんな形で叶うとはね……」


 周りの人たちに聞こえないように僕は呟く。僕は今日も喪服に身を包み、多くの近親者や参列者に交じって今日この日に埋葬される方に心からの冥福を祈る。ただし僕が執り行ったのは生まれ育った『日本での葬儀』ではない。

 小国オノゴロ。人口は数万人程度で農業が盛んな穏やかな国だが、オノゴロだけでなく世界中で剣と魔法が日常的に取り込まれている。

 僕が執り行ったのは日本という国や世界ですらない『異世界での葬儀』だった。

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