第六章:P.A.R.T.Y.~ユニバース・フェスティバル~

EPISODE 40:再会


 螺旋らせん階段を爆走する変態女。その背中には一人の男児。間違っても未成年略取ではない。塩塚地区の侵略に終止符を打つため、最上階へと急行しているのだ。

 階下では三人の仲間が決死の足止めをしてくれている。彼女達の尽力に報いるためにも、なんとしても決着をつけなくてはならない。


「ピットさん、まだ走れそう?」

「もっちろん……っ! 年増だなんて言われてもまだ二十代、ママだって体力には自信があるんだから!」

「四捨五入したらアラサーだけどランな」

「うっさいわね!」


 休憩なしの全力疾走でピットは息も絶え絶え。最終決戦を前にして体力面は大丈夫なのだろうか。一抹の不安が残ってしまう。


「あっ、扉だ!」

「はぁっ、はぁっ、やっと終点……っ!」


 永遠に続くかに思われた長い長い階段、そのゴールがようやく見えてくる。

 視界の先にあるのは目を見張るほどに豪勢な入り口。装飾が施されたドアノブに、赤黒い幾何学模様の扉。

 ここが幹部専用のスイートルームなのだろう。外装だけで威圧感が半端ない。気圧けおされてしまう。


「とつ、にゅーーーうっ!」


 が、ピットはお構いなしに突っ込んでいく。

 登り切っても勢いは据え置きに、ラグビーのタックルよろしく前のめりに突進だ。

 ドガッ! ピットの頭突きが扉を荒々しく開く。

 背負われていた遊は顔面から着地、ワンバウンドして床に転がった。


「痛たた……」

「まぁ大変、ごめんね遊ちゃん! 痛いの痛いの飛んでけ~、グランちゃんのところに飛んでいけ~」

「ふざけている場合じゃないだろボケコラン」


 擦り剥いた顔を上げると、そこは赤黒い絨毯じゅうたんが伸びるだだっ広い空間。窓枠にはびっしり金細工、つぼに置物に掛け軸などがそこかしこ無闇矢鱈むやみやたらに並んでいる。無駄に情報量が多くて落ち着かない、センス皆無の室内である。


「どことなく、成金のお宅みたいランな」

「権力に執着するタイプだし、あながち間違ってないわね」


 では、強欲な部屋の主たるウィンクはどこにいるのだろうか。

 探すまでもなかった。

 部屋の奥、巨大なモニターを介して何者かと話し中らしい。突然の侵入者に目をぱちくり白黒させている。


「まさか、ここまでやってくるとはな……」


 平静を装っているが、内心焦燥と驚愕満天で気が気でないのだろう。しぱしぱ、高速で瞬きをしている。

 何を恐れているのか、答えは明白だろう。


「ウィンクよ。これは不手際なのじゃないかのう」


 モニターより響いてくる、幼女らしき甲高い声。


「しゅ、首領! これはそのなんというか、いわゆる手違いでして――」

『コラ、姫と呼べと言っておるじゃろうにっ!』


 首領。

 本人は姫を名乗っているも、どうやら画面の向こうの彼女が“アモレ”のトップ。つまり、元平兵士のピットや幹部のウィンクの上に立つ、侵略者の親玉である。

 なのだが、どうにも威厳を感じない。

 モニターに映る姿は逆光のせいでシルエット。その顔はうかがえないのだが、影の形はほっそり低身長。声も相まって同年代の子どもとしか思えない。

 他の怪人は皆恵まれた体型のお姉さんなのに、何故か首領がちんちくりん。あまりにも浮いている。組織のトップとしてミスマッチ過ぎやしないだろうか。

 閑話休題。

 遊は痛む顔をぬぐうと立ち上がり、


「そこのおばさん、僕のえる姉さんを返してよ!」


 ウィンクへ猛然と啖呵たんかを切る。背後より「ついでに地球から出てけラン!」という野次も飛んできた。

 が、ただの少年の凄みなど恐るるに足らず、とでも言うように一笑に付される。

 けらけら、とウィンクと首領の嘲笑が響き渡る。


『ほぅ、こいつが地球代表の救世主とやらなのじゃな。随分と可愛い子じゃのう、結構結構』


 画面の向こうで、興味ありげに前のめりになる首領。幼児体型でもメイデンの怪人、ショタコンっぷりは変わらない。安心安定のクオリティだ。遊と首領。絵面だけなら健全な恋愛に見えるだろうが、中身が変態では台なしである。


「える姉さん……。そうか、貴様の望みはあの女か。だが残念、一歩遅かったな」


 一方のウィンクは、何か意味深な言葉を漏らす。

 ぞくっ、と。嫌な予感が足元から背筋へ、背筋から頭の先まで。昆虫の大群のようにざわつき這い上がってくる。


「え、える姉さんに何をしたんだ!?」

「怪人に改造する下準備を施したのさ。我々と同じ存在になるための大事な、ね」


 パチンッ。ウィンクのフィンガースナップが弾ける。

 すると、天井より四角い箱が降りてきた。否、それは水槽だ。若緑色で半透明な液体に満たされており、時折気泡が立ち上っている。

 その中に、いた。

 追い求めていた最愛の人。悪鬼にさらわれし囚われの姫。

 安納える。

 彼女は一糸纏わぬ姿で、生まれたままの姿で、まるで標本のように、緑色の中で浮いていた。

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