EPISODE 31:汚泥
翌日。影も短くなった正午過ぎ。
田舎の片隅にひっそり
自宅警備員在中の、大して堅牢でもない防御手薄な城。
遊は大股で踏み込み二階へ突き進み、天守閣たる汚部屋の扉を
「あ、遊氏じゃないですか。これまた来てくれるなんてどうして」
「リベンジに決まってンじゃ~ん?」
「うげっ。ギャル、襲来」
キュームは飛んで火に入るマジのショタに目を輝かせたのだが、その隣に立つ女性のせいで一気に青ざめる。見るからに陽キャギャルのハウリ、自身と正反対の属性を前にして
昨日は怪人召喚前に不意打ちを食らったせいで敗北した。なので今回は最初から召喚して戦いに臨んだのだ。その効果は
「キュムっちだよね、確かよくいじめられていた」
「よ、余計なこと言うなっ……言わないで、下さい。オナシャス」
「うわ部屋マジヤッバ。真っ昼間からアニメ
「ふへへ……あの、自分窓際兵士ですから」
距離感ズケズケなハウリ相手に、居心地悪そうにオドオドなキューム。生来の性格なのか迫害によって歪んだせいなのか、上目遣いで卑屈に指をもぞもぞ動かしている。
「ま、そんな話はどーでもいいんだけどさぁ」
「ふへ?」
「遊っちに手ぇ出した落とし前、つけさせてもらうから。早く表出ろや」
お気楽なにこやかさはどこへやら。
急転直下の氷点下、
ハウリは低い唸り声を上げる。と同時にキュームの首根っこを掴み、窓を蹴破りダイナミック退出。ガラスを粉砕して外へ飛び出していく。おかげで室内は酷い有様だ。元から酷かったが輪をかけて滅茶苦茶である。元の住人さん、ご愁傷様。
遊とグランは急ぎ階下、戦場となった
玄関扉を開くと、そこでは激しい取っ組み合いが繰り広げられていた。ハウリとキュームは共に怪人態へ変身済み、狼と
「腐ってぐずぐずな根性、あーしが叩き直してやるじゃん!」
「よっ、余計なお世話だしっ。自分はこれでいいんだから!」
怪人になっても陰と陽、水と油の関係だ。いくら議論を尽くしても決して交わることはないだろう。となると、拳で決めるのが一番手っ取り早い。勝てば官軍、負ければ賊軍。暴力こそ正義なのは侵略者の性分故だろうか。
「“
キュームの歪な指先が十匹の蛭と化して伸びる。もふもふ毛皮を
「くひひっ。ギャルの
「ふざけンなしっ!」
身を
「ハウリさん、“
「だよねっ。ぶった斬ってやるかンねッ!」
ならばと狙う先は指、鋭利な風の刃を撃ち放つ。つむじ風が舞うと十匹の蛭は切断ぶつ切り断ち切られる。
「ひぎぃっ!?」
指を切り落とされた痛みでキュームは
一方のハウリは悪夢の吸血地獄より解放されて一安心、食らいついたままの蛭をぶちぶち引き抜いていた。凄くワイルド。結局、傷口は拡がってしまった。
ハウリの血がさらさらと、凝固せずに流れ続けている。相手は吸血で体力を回復可能、逆にこちらはスピード重視の紙耐久。長期戦となれば不利になるのは確実だ。ここは一気に攻めるのが得策だろう。
「“
「りょっ!」
「させるか、“
だが、こちらの攻撃よりも早く、キュームが新たなる一手を打つ。血塗れの掌を地面につけると、辺り一面が突如として泥状に。ハウリの足はずっぽり沈み込んでしまい、最大の強みたる速さが潰されてしまう。
「きひっ、いい気味っスね。ついでに食らえ、“
――ドドドドドドドッ!
指先より飛来する泥の弾丸。軽やかに避けたいところだが、溶けた地面に足を取られてフットワークが活かせない。結局ハウリは動けないまま、弾丸は胸部装甲に直撃。泥まみれになりながら吹き飛び転がっていく。
「ハウリさん!」
「こんなの大丈夫だしっ!」
強がっているものの、傷口から滴る血は止まる様子もなく、金色の毛皮を鮮緑に染めていく。このまま攻めあぐねていてはハウリの身が持たない。それは誰の目にも明らかだ。
この戦況、どう巻き返す?
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