第53話 半泣き半笑顔
全てが終わったかのように見えたその場に、いきなり元のエレメナが現れて戦慄した。
「ど、どういうこと」
「どうしたんですかみなさん、まるでおそろしいものを見たようなその表情は。私はみなさんと再会できて凄くうれしいですよ」
「エレメナ? 戻ったのか」
「殿下は離れて!」
殿下がエレメナに触れようとしたとき、エレメナの背後から茨が出現した。
「殿下は私だけのもの」
「エレメナ! あなたなんてことを」
「私は殿下に祝福を」
エレメナの目に黒と白色の光が交互に変化していた。
「あなたいったい何を」
「ごめんなさい殿……祝福を」
エレメナの片目は涙が流れて、片方は凶悪な緑陰の魔女の笑みが浮かんだ。交錯するエレメナの意思が表面化していた。
「あなたその姿」
「ごめんなさいミケレさん、これはある種の代償なの」
「どういうこと」
「私は殿下を独り占めしたいという欲望を緑陰の魔女に付け込まれた。あいつは同族性のものの欲望を取り入れる性質がある。しかもその問題を狙ってくる」
「でも殿下は渡さない」
「じゃあ早く倒して」
「ええ」
でも殿下がいなくなってしまった。
「……」
うつむいていると殿下の声がする。
「ミケレ、僕は君を信じている。絶対君ならやれる。だから絶対大丈夫」
「分かった任せてください」
私は再び緑陰の魔女の茨を封じた。
それがたとえ、エレメナに傷をつけることになったとしても。
「どうして私がこんなに苦しまなきゃいけないの」
「急に弱気になってどうしたの。私はあなたがしてきたことを知っている。このくらいの痛みでは済まされないこと」
その時急にエレメナの人格が違うものに移りかわる。
「私はずっと虐げられてきたの。分かりますかこの気持ちが殿下。あなたの寵愛は私にとって希望だった。だから精いっぱいを返さなければならないのです」
「エレメナを使って何を言っているの緑陰の魔女、そんな身勝手が通用するわけがないでしょう」
「知らないね」
「もう終わりにする」
緑陰の魔女にとどめを刺そうとするとき、いろいろなビジョンが頭の中を流れてきた。
「これは」
未来の私が積み上げてきた長年の思いである。
「私が決意したのは最後のループの時」
感情の抑制が始まった途端目の前の光景が頭に流れ込んでくる。これが私がまさに今見ている光景なのだろうか、あまりも残酷で凄惨な、思わず目をそらしたくなる程の光景である。
目の前の殿下の姿が霞む。前回のループで緑陰の魔女にぶつけた怒りは依然と私の体を覆っていた。
「これで最後ね」
そう決めて活力の全てを捧げた結果残るものは何もなかった。いや確かに捧げた結果目的は達成した。しかし全てが終わった今最早手元には何も残っていないのである。
「殿下! 反応してくださいよ。このルートの私はもうダメね」
「……」
「冗談じゃない」
あらゆるビジョンが断片的に頭の中に流れてくる。殿下との悲惨なループでの出来事が未来の私の心をどんどん黒く染めていくのがわかった。
「こんなの耐えられない」
そう思ってもまだ記憶の流出はとどまることを知らなかった。
「これこそ最も殿下が享受したかったことなのだろうか」
自問自答を繰り返した先に私は答えを見出した。殿下との誓いをより固めることになる。
その先に私は自分の答えを見出したのである。
あまたのループの中で殿下と一緒に未来の私が見出した答え、それは式へと誘導した。
緑陰の魔女を攻略、殿下と考えた攻撃も全く通用しなかった。たどり着いたのは過去への干渉。式で元の場所へ惹きつける。
自分を犠牲にして一つの正解ルートへ到達する唯一の手段である。
「これしかない」
「式は破滅を生む。だからこそすべてはそこで終わる、それを利用する」
式の破滅が始まる。
未来の私の思考が固まる。
「やっと見つけた。長かった活動に終止符を打つ」
点と線が繋がる。まるで今までの出来事の全てはこの出来事のためだったのだと実感する。これ以上はもう何もないであろう発見したのだった。
「この計画で私は悲しみを祝福に変える。殿下の無残なこの姿を心刻み付けて必ず、均衡を崩してでも」
未来の私の、意思の元、殿下の体を持ち上げた私は空高く、魔力を放つ。上空へ打ち上げられた私のエネルギーは、コアへと流れ込み、無数の星を生んだ。
これが過去移動の始まりである。過去へ干渉の術式が完成したのである。
「私にとってここまでもっていくのがどれだけ大変だったか。でもやっと完成したの」
積もりあがった感情が打ちあがる。幾多のループを超えて遂に成し遂げたのであった。
点と線が繋がる。でもある意味で禁忌を冒した罪悪感も感じた。
「どうか私の行為をお許しください」
全てが成功へとつながるルートに最も先へ進んだルートの私が入り込んだのである。
「何このビジョン、未来の私はここまで考えて計画を立てていたというの」
「あら久しぶりね」
「未来の私」
「やっとこの思考までたどり着いたようね」
意識下で未来の私と対話をする。
「もうこれで遂に終わりだわね。最後は思いっきりいきなさい」
「勿論、あなたが考えていた思考までやっとたどり着けた気がするわ未来の私」
「そう、それならよかった」
「能力もここまで成長したのね」
能力により浮かんだのは砂漠の世界ではなく大都市だった。息を吹き返したループした世界、これはルートが成功に繋がったことを意味する、そう確信できた気がする。
「やっとここまでこれた」
全ての意識が集約されて、全てが整頓された。
「戻ってきた」
現実に戻る。
「終わりにしますよ」
「やめろおおおおおお」
未来の私がくれたアイテムをぶつけて、エレメナに憑依した緑陰の魔女が完全に消滅するのであった。
「ミケレさん本当にありがとう」
エレメナが意識を失う直後にそういうのだった。
未来の私の全てを知った私、思いをぶつけて緑陰の魔女を遂に攻略したのだった。
「嘘でしょ私がこんな」
「さよなら」
「こっちもありがとうね」
楽園計画の花が全て晴れていった。役目を終えたのだ。全ては元通りになった。エレメナを除いて。
「終わったね」
「これは」
「全てが終わったようだ」
あれからミフリは改心して博士とも仲直りした。
「みなさん、ありがとうございました。そしてさよなら」
「元気でな」
「はいわかりました」
緑陰の魔女を倒したことで殿下への脅威は排除した。
これで晴れて私たちは現代に安心して戻れるわけだ。
現在僕たちは時計塔に向かうまでの異空間を歩いている。
「エレメナがまさかあんなことになってしまうなんて」
「そうですね」
「僕たちは彼女の意思をしっかりと受けついで行かないとならない」
「そうですね」
「どうしたんだミケレさっきから」
「エレメナは本当にいなくなってしまったのでしょうか」
「僕にも分からないかな。ただ言えるのはもう一度会えたらどれだけ嬉しいことか」
「そうですね」
「お二人とも」
私たちが時計塔のゲートを渡っている中で声が聞こえた。
ポリューシラは私達を察して先に帰った。
なぜ、私達以外に人はいないはずの空間で声が聞こえるのだろうか。
疑問を抱きながらも聞き覚えのある声に、私はかなり安心した気持ちになれた。
「あ、あなたは」
「私を置いていくなんて、罪な二人ですね」
笑顔なエレメナが現れて私たちは喜んで迎え入れるのだった。
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