崩壊ループする令嬢~祝福を享受するのは聖女ではありません~

@re-lu

プロローグ

第1話 婚約破棄とループ 


「婚約破棄ですか……」


「ああ」


「何を言っていますの、そんなことが許容できるわけ……」


「行こうエレメナ」


「はい!」


 立ち尽くす私を無視して殿下はエレメナの手を取り部屋から出ていった。


「ちょっと待っ……!」


「バタッ」


 私が言葉を言い切る前に殿下は扉を思いっきりしめた。その態度からは怒りを感じ、ひるんだ私は身動きをとることができなかった。


 ひるんだのは一瞬で、すかさず二人を追いかけた。


「こんなことしてただで済むと思ってるんですか」


「黙れ! 行くぞエレメナ!」


「はい、殿下!」


「また、あなたは修羅の道を行くのですか。本当に救えない人ね」


 殿下の罵倒に心が砕かれた。


「随分と酷い表情だな」


「あなたは何者?」


「私は君の全てを知るもの」






私の名前はミケレ、王国の令嬢である。


 私にはループ能力がある。


だからあの人に手に入れるために手段は選ばない。


絶対に絶対に手に入れて見せる。



「ミケレ様、あなたは狂っています。少し精神鑑定に出してもらったほうがよろしくては?」


「その必要はありません、だって私は狂っていませんもの。もし私を狂っているって思っていらっしゃるのなら、ポリューシラが精神鑑定をしてもらった方がよくては?」


「なんですって!」


 私は今、屋敷にいる口うるさい侍女と話している。私の意にそぐわないなんて、意識外であり、どうでもよい存在だ。


「とにかく殿下への抗議なんて私は認めませんから」


「だったら押していきます。私には譲れないものがある」


「なんて強情な!」


 私はポリューシラを押し倒して、殿下のいる王城へ向かった。


 なぜ私が殿下への抗議に行くことになったのか、それはあの憎たらしい女が元凶である。




「なんで、どうして、私は許せないの、あなたのような人物がなんで殿下に好かれているのか、私の方が身分も高貴で容姿も端麗で全てが優れているのよ、こんなのはどう考えてもおかしい、あなたが殿下を洗脳したんじゃありませんの?」


「おい、エレメナに向かってなんて口を効くんだ。許せないな」


「許せない……殿下まで私をそんな目で見るのね」


 その時私の中のとある琴線が切れることに気づいた。


「あははははははハハハハハ」


 いらない、殿下が私を拒む世界なんて消えてしまえばいい。


 それから2回目のループが始まった。





 いつからだったろうか、ある日突然私にループ能力が備わった。ある光景を見て、もう消えてしまいたいと思った日に、私は強く自分の身にそのことを念じた。するとその後私の体ははるか遠くへと飛んでいたのだった。


「え? どうして、私の体は王城のすぐ真上だったはず」


 恐ろしいほどに急な出来事に私は動揺するしかなかった、今すぐにでも王城の窓外へ身を投げ出す勢いだったはずなのだが、今私がいるのは自室のベッドの上だった。


「何か悪い夢でもみたのかしら」


 そんなはずはない、私は既に決意を固めていた、確かに痛みは心の中に刻まれているのだ。


「まずは、心を落ち着けて外へ出ようかしら」



「虹色のごとく咲き誇る私の歌声を聞いてください」


「なんですのあれは」


 ドアを開けると歌声が聞こえてきた。それも極上のメロディーを奏でている。


「素晴らしい曲ですわね」


 そう思いに更けていると聞きなれた声が聞こえる。


「エレメナ! 見事だ、君の歌声はやはり天にも昇るものを感じる」


「はい! お褒めいただき感謝です殿下」


「殿下ですって!? はっ!」


 私は思わず漏らしてしまった声を止めるために即座に手で口を覆う。


「そんなはずはありません殿下が私以外の女性と夜二人でいるなんて」


 目の前の光景に思わず目を覆いたくなる、先ほど漏れた声は何とかばれずに済んだようであるが、これは見過ごすわけにはいかないはずである。


「殿下は私の婚約者であったはずなのに、この仕打ちはどういうことでしょう。許すことはできません」




 翌日私は集会にてエレメナを言及した。


「あなたの殿下へのすりより、これはあんまりではありませんの。私はあなたを許しませんわ」


「わ、私何か悪いことをしたのですが、公爵令嬢様、なんで私がこんなに責められなければならないのか全く思い当たる節がありませんの」


「あなたいったいどの口がそんなにつらつらと嘘がはけますの? 今すぐあなたの口を針で縫ってあげましょうか?」


「痛い!」


 次の瞬間私は怒りに任せてエレメナの口を強くつねってやったのだった。


「そこまでだ!」


 さらに次の瞬間聞きなれた、声が聞こえた。いつもと様子が違っていた。


「な、なんていう顔で私を見ますの? 殿下」


 そう現れたのは愛しの殿下であった。しかしその表情は私に向けたもので強い怒りを含んでいたのだった。



「お前、エレメナを今すぐ離すんだ」


「ふ、ふーん、婚約者である私に対してずいぶんな口のききようではありませんの殿下」


「何が言いたい」


「殿下、あなたと私は婚約をすることになっていますのよ。未来のお嫁さんである私の目の前で、その女といちゃつかれると大変不愉快なことこの上ありませんわ。即刻その女と縁を切りなさい!」


 何も私は間違ったことは言っていない。私は約束された殿下の一番大切な存在となるもの、これがある限り、私の優位性はゆるぎないものなのである。ちょっと強気に出たっていいじゃない。


 しかし私の認識は甘かった。まさか殿下の口からあのような言葉が出るなんて。


「そうか……ならミケレ、君に対し婚約破棄を要求する」


「なっ」


 その時私の心は一瞬でバラバラに砕かれる感覚に陥ったのであった。




 殿下に婚約破棄を言い渡された私は途方に暮れて、城の外へ身を投げ投げ出そうとしていた。


「はあ、また失敗、いつもいつも私の周りには失敗が付きまとう、もう終わりにしようかしら」


 その時意識が反転する。


「これは……ループが発動した? ループは私の意思に反してするのかしら……」


 その時恐ろしい事実が脳裏をよぎるのだった。


「こんなの救いようがないじゃない」


 終わらせたいのにこの世界は私が終わることすら許さないのかしら。全く何から何まで腹立たしいかしら。


「だったらいいわ、この力、存分に使わせていただこうじゃない!」

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