第6話 親愛
家の出入り口の前で盛大な別れが行われている。屋敷の執事やメイド、親族総出で俺とアリエルが学園に行くことを応援?しているのだろう。
むぎゅっと俺とアリエルが抱きしめられる。
「ああ、私の愛しのアリエルにグラン、お休みの日は必ず顔を見せてね?」
「ぐすっ、分かってるわお母様・・」
「・・・・」
おい貴様ら、そんな目で俺を見るな。
参列者達は皆一様に愛くるしそうに俺達を見つめている。
「ほら、もうそろそろ出ないと。遅刻してしまうよ?」
「だってよ。早く行こうぜ」
「あっ、グラン待ってよぉ!」
「あなた?」
「ん?あっ!忘れてた。グラン!!」
「ん?」
俺は乗りかけていた馬車を降り、ダグラスの所に戻る。
「なんだ?本当に遅刻するぞ?」
「そんなに時間は取らせないよ。ほらこれ」
ダグラスは俺に向かって剣を差し出した。
「くれるのか?」
「ああ、お前は立派な俺の息子だからな」
そう言ってダグラスは俺の頭を撫でた。
優しく、慈愛のこもったそれにその時の俺は気が付かなかったが、地面にポロッと水滴が滴る。
「ん?何だごれ"は?」
鼻が詰まって上手く話せない。その間にも水滴はどんどん俺の頬を伝って地面に落ちる。
ダグラス達は何も言わないが、俺は何故か恥ずかしくなって頭を下げて顔を隠す。
「み、見るな!・・・今日は体調があまり良くないみたいだな。俺はもう行くぞ」
「ああ、気をつけるんだぞ」
「風邪引かないようにね?」
「ふんっ、・・・世話になったな。」
俺は走って馬車に乗り込むと扉を勢いよく閉める。
そして馬車は学園へと向かうのだった。
—————————————————————
入学式もつつがなく終了し、俺たちは自分のクラスへと訪れていた。
クラスはS〜Fの七段階で、俺とアリエルは勿論Sクラスだ。人数は30人程だろう、教室は狭くもなく広くもない、至って普通だ。
(というか屋敷より地味だな・・・)
中は長机が三つ並べられており、恐らく席は自由だ。俺とアリエルは隣同士で窓際の席に座る。
「アリエル、これからよろしくね!ん?あら、貴方もいるのね?」
「・・・・」
「ちょっと?聞いてるのかしら?」
「うん、よろしくね!知り合いがいてくれて助かるよ〜!・・・ねぇグラン?呼ばれてるよ?」
「うるさい、それに誰だよお前」
「へ?だ、誰ですって・・・?」
「ああ、会ったことあったっけ?お前みたいなうるさい奴、会ったら忘れないと思うんだけど?」
「・・・どこから突っ込めば良いのかしら・・まず、思いっきり忘れてるじゃない!!それにうるさいってどういうことよ!?私これでも貴族よ!?」
「へー」
「むっかー!!」
「あ、あわわわっ!!??」
「む?ふ、ふひっ、ふはははは!!」
(またこの展開か・・)
「おい平民!どんなカラクリでここにいるのか知らんが、お前ごときが座ってていい場所ではないぞ?そこをどけ!!」
右手が俺の肩に伸びてきた。
最初は無視しようと思ってたんだが・・
「うわ汚ね!!!!まさかこの前もこの手で触れてねぇーよな!?」
「ぎゃん!!!!」
指に鼻くそが付いてやがった。こいつ、この歳になってまだそんな事してやがるのかよ。
「ぎゃーー!!!こ、腰がっ、腰を打った!!!」
「誰だお前。お前みたいなうるさい奴に初めて会った。」
「何取り繕ってんのよ・・。それに、貴方やっぱり覚えてるでしょ?」
「・・・・・」
「こら、こっち向きなさい」
「い、痛いよー!!」
むにゅっと頬を両手で挟まれるが無視する。
「な、なんて力なの・・!?」
「ふん、わかっちゃらしょのへをはなひぇ」
「痛いって言ってんだろ!!!」
下から飛んできた拳を半身を逸らして回避、そしてガラ空きのだらしない腹に膝をプレゼントする。
ドスッと鈍い音が響く。
「うぼぁっ・・オェェ」
「うわっ!?汚ったねぇ!!!」
俺はアリエルとアルティを抱き抱えてその場を飛び退く。
よく見ると俺達を囲んで半円が出来上がっていたが、俺達三人が飛び退いた事で、ゲロを吐いている生徒一人を温かく見守るその他大勢の構図が出来上がった。
ガラガラ
「おはよう諸君!最初のホームルームを・ん?どうしたんだ?」
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