第2話 決闘

次の日からグランの過酷な生活が始まった。温かい人達の慈愛は彼に疑心を抱かせ、常に気を配らなければいけない状況なのに、

柔らかいベットは朝起きる事を困難にさせ、温かい風呂と食事は彼の張り詰めていた緊張感をほぐしてしまう。

いつからかグランはそんな生活を楽しむようになった。このままではまずいと思っていた矢先、魔法と剣術の訓練が始まった。


なるほど、俺を油断させて訓練と称し拷問、殺害が目的なのかと思っていたが、内容は至って普通。騎士団長である父の教える最高の剣術と、彼が雇った宮廷魔道士の教える最高の魔法を可愛い幼馴染と共に学んでいく。


なんということだ、世界にはこんなに優しい場所があるらしい。

全くもって反吐がでる。最初はそう意気込んでいたのだが——————




あれから5年後、グランは12歳になっていた。

ここはエルクリア邸の所有する庭であり、

そこで親族大勢に見守られながら、グランと父ダグラスは剣をとり向かい合っていた。


「今日が最後の日だ。ここで僕に勝てたらその首輪を外そう」

「早くしてくれ。この首輪、擦れて地味に痛いんだ」

「いやだー!!!!グラン!行かないでよぉ!!」

「アリエルを抑えてなさい」

「はっ」

「ちょっと、何するのよ!?じいや!!お祖父様、お祖母様!!!」

「黙って見てるのじゃ」

「・・・」


アリエルはグランが奴隷の首輪を外す事に反対だった。理由はグランがいなくなってしまうかもしれないから。5年も一緒にいれば情も湧く。

それだけ一緒に過ごしてきた時間が楽しい物だったのだろう。


「それでは、始め!!!」


ザッ!!


グランは一直線に踏み込むと、剣を上段から振るう。ダグラスは何事もなくそれらを受け止めた。


「おっと、さらに速さが増したな!!これなら騎士団の連中にも余裕で勝てそうだ!!」

「難なく受け止めて言う言葉か!」


グランは剣を引くと、横薙ぎに振るうがこれも難なく避けられる。が、グランは攻撃を止めない。上、下、斜めと剣を振り続け、反撃の隙を与えない。

が、ここで無情にもグランの剣が上へ弾かれた。そう、彼らには純粋な膂力の差があるのだ。かたや王国の騎士団長、かたや12歳の少年ではそうなるのは必然だろう。


「ちっ!!!」


グランは脇がガラ空きのまま後ろへ飛ぶ。剣を引き戻すより先に追撃が来る。ならばそれを受けない事が先決。しかし、追撃は彼が思うより早く訪れる。


「かはっ!!!」


体を横に薙がれる。地面に激突する前になんとか受身を取り更なる重症は免れたが、肋骨が折れているのだろう。上手く呼吸が出来ず、その場で咳き込む。


「ゴホッゴホッ、ガハッ!!カヒュー・・カヒュー・・・」


血の塊を吐き出し呼吸を整えようとするが、痛みでなかなか上手くいかない。


「まだやるのかい?治療を受けた方が「いい」そうかい・・・」


グランはよろけながらも立ち上がって構える。


ダグラスが瞬きをした一瞬を見逃さない。目を見開いた時、目の前に剣を振り下ろす二人の少年の姿が。


「なっ!?」

「くらえーーー!!!!!」

「まだまだ!!!!」


ダグラスはこの試合で初めて本気を出した。

あり得ない速度で彼の剣は、二人の少年の剣を叩き落とした。

グランもその場で力尽き、立ち上がる事は無かった。


「治療を!!——————はぁ、どうやら私の負けみたいだ・・」

「な、どうして!?」

「ほら」


ダグラスはうっすらと赤い線の入った腹筋を見せる。

この勝負の勝敗は、グランがダグラスに攻撃を与える事ができるか、である。

グランは見事、それをやり遂げたのだ。


「剣が叩かれるのを分かっていたんだろうね。彼は振り抜く前に剣を投げたんだ。」

「そ、そんな・・・。それじゃあ」

「もちろん。彼はもう自由さ」


ガチャッと首輪が外された。


「い、いや!!!」


アリエルはグランの腕にしがみつく。

そこでグランは意識を取り戻した。


「さぁて、これでやっと自由になれた」

「いやぁ、グラン行かないで!!」

「何を勘違いしてるのか知らないけど、アリエル、いつ俺が出て行くって言った?」

「ふぇ?」

「俺はただ単純にこの首輪を外して欲しかっただけなんだけど?それに、これから学園に通うのにここから出てってどうするんだ?」

「あっ、え?そうなの・・・?」

「ふふ、アリエルは早とちりしちゃったみたいね」

「お母様!」


母は二人を抱きしめると


「ふふ、グランはうちの子なのに、今更手放す訳ないじゃない」


グランは雑にアリエルの目をゴシゴシ拭うと、


「これで試合は終わりだ。よし、このまま街にでも行くか」

「うん!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る