剱、隠れ里に着く
助けたエルフを先頭に進んでいると、何を言ってるかはわからないが何を言いたいかは身振り手振りと合わせてなんとなくわかるようになってきた。
気を遣われたのか、一番の大荷物を持っているベアトリーチェはよく声をかけられた。
「◼︎◼︎◼︎」
「ベア、足元ぬかるみあるから気をつけろって」
「ありがとう」
「いちいち、翻訳するの面倒ね……古い
「何それ」
「相手の言葉を理解する魔術と自分の言葉を相手に理解できるようにする魔術の総称だな」
カイリスの補足にへぇ、便利そう。くらいの感想しかないベアトリーチェであったが魔法が上手なアルバーニャがなぜ使えないのかと目線を向ける。
「ベア、交易語が喋れるなら普通いらない古い魔法なのよ。しかも無駄に習得難易度が高いの」
「交易語の元になったのはスヴェルム語だ。その辺りが影響しているんだろう」
「アタシ交易語の元があるってのが初耳なんだけれど、スヴェルム語だとなんかまずいの?」
「あー、なるほどね。簡単に言うと古いエルフはスヴェルム嫌い、だからそれが元の交易語も嫌いって頑固な連中が多いのよ。詳しく知りたいなら帰った後図書館で歴史書でも読み……読めないわねベアは。字を勉強したら読みなさい」
ベアトリーチェが図書館と聞いた時点で首を横に振りだしたのでアルバーニャが察した。
「吟遊詩人の組合でお金を払えば歌って聴かせてもらえるですよ」
「へぇ、お金渡したら全員に大合唱とかしてもらえたり……?」
「個々の解釈で大喧嘩になるからやめておけ」
え? なぜ喧嘩に? と思いつつ、休憩を挟みながら進んでいくと徐々に草をかき分けただけのような獣道から雑草が刈り取られ、しっかり踏み固められた道が現れた。
「おお……これがエルフの隠れ里……里……? 人いなくない?」
里と聞いていたのでベアトリーチェが生まれた故郷のように、まばらでも家が立ち並んでいるとか放牧された家畜達が草を食んでいるような様子をイメージしていたがあるのはただ鬱蒼とした森とその木々の隙間から落ちてくる木漏れ日くらいである。
「◼︎◼︎◼︎◼︎!」
「うわっびっくりした」
エルフが急に大声を出すと、木が揺れて上から弓を持った他のエルフが着地してきた。
そうしてその何人かで言い合いを始める。
相変わらず何をしゃべっているのか分からないのだが、身振り手振りでなんとなく、ベアトリーチェ達のことを話しているのが察せられる。
「◼︎◼︎◼︎◼︎」
「◼︎◼︎◼︎◼︎? ◼︎◼︎!」
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」
「私たちに、少し待ってろって言ってるわね」
その通り待っていれば、木の枝を加工したような感じの杖を持ったエルフがやってきて。杖を横に一振り、杖の先から出た光が木々に吸い込まれたかと思うと、葉が光り輝きながら降ってきて、それが頭に落ちると音もなく破裂して光の粒になった。
「改めてエルフの里……いや、仮宿へようこそ。コナン川生まれエルフの長とその仲間たちよ」
「おお、すごい何言ってるかわかる」
口の動きと聞こえる音が一致しなくなって違和感を感じるようになったが、代わりに何を言ってるか理解できるようになった。
「アルバ長から問われたドラゴンの飛来の原因に関して我々には心当たりがある。ぜひ長に会って話をして欲しいが、魔剣の使い手はここで待っていて欲しい」
「えっアタシだけ?」
「事の始まりは二振の魔剣からなのだ。お前のそれが魔剣である事は魔力の流れからわかる。関係ないと思うかもしれないが長の安全の為なのだ」
言われてみれば、そういう事なら仕方ないかとベアトリーチェが一歩下がるとその顔を見てケマルタも一歩下がって隣に立って腕を組んで胸を張った。
「じゃあ僕も一緒に待ってるっスから兄貴とアルバーニャが話聞いてきてくださいっス!」
「いいの?」
「難しい話はわからないっスから!」
ケマルタがカイリスと目を合わせて頷き合っている横で、ケマルタに気を遣ってもらえている事にベアトリーチェが感激していた所、エルフたちの制止を無視するようにくすんだ髪色のエルフがやってきた。
「長!? 安全の為と言ったのに……」
「長なの!?」
案内をしていたエルフの驚いた声に釣られてベアトリーチェもまたビックリした。アルバーニャや他のエルフ達と違って特徴的だった服の襟が短い。
エルフは襟を立てて遠くの音を聞くと以前アルバーニャから聞いていたベアトリーチェは、偉いと聞く必要が無いから短いのだろうかと眺めていたり
そうしたらその長は目線が合う。特に警戒した様子もなくニコリと笑うと。整ったあごに手を当てて一同を見渡した。
「極剣の担い手に、コナン川のニャ、それにプリマスとルプスのお二人、お初にお目にかかる。私はここの集団で長をやらせてもらっているサバ・ヴァナテスコだ」
「アタシはケレスド・ベアトリーチェ=リュシオラ」
「アルバーニャ・コナンテスコよ」
「カイリス・グンネルト」「ケマルタ・ナルバーレ・アンテスっス」
「自己紹介ありがとう。私が大昔会った担い手と同じ部族出身のようだが……ずいぶん小さいね?」
「あ、わかる?」
アルバーニャが何言ってんだコイツらという顔を隠せない様子で二人を交互に見た。
「そういう話は置いといて、サバさん達もなんか困ってるみたいだし、それ手伝ったらアタシたちバナルガルダ山脈の調査したいんだけど逆に手伝ってくれたりする?」
「このエルフの長もベアの種族のこと訳知りっぽいけど、大丈夫なの?」
「いやゲイリーさんみたいな人なんだなってあと私が小さい方ってわかるみたいだし嘘は言ってなさそう……あっ、そうだ良ければサバさんの会った担い手の話とか聞きたい!」
ベアトリーチェの表情がコロコロと変わりながらサバの方を見ると、優しげにこちらを見て微笑んでいた。どこかで見たことある表情だと思って少し記憶の中を探ると、パパルのおっさんと鞘師のマッカインのおっさんが、こんな感じの表情をしていたのを思い出す。
「それは是非とも問題が終わった後にでも。それに……私たちの問題もまさしくバナルガルダ山脈にあるんだ」
「……忌剣の類か? 使い手の精神を錯乱させる作用がある」
「ああいう魔剣は今はそう呼ばれているのかい? 詳しくはわからないが、君たちが言うならそうだろう。できるなら一番良い建物でゆっくり座りながら話をしたいところだが……我々も逃げてきたばかりなんだ。椅子を用意するからここで頼むよ」
元々魔剣の騒動で活躍していたカイリスがエルフから聞いた話からした推測をサバが肯定してから、手を合わせた後に地面を踏みしめる。するとみんなの足元から大きな芽が飛び出してきて葉が開いた。
あまりにも頼りなく見える椅子にベアトリーチェが恐る恐る座ると、見た目と裏腹に葉が柔らかに体を支えてくれて座りやすかった。
「私たちはバナルガルダ山脈の隠れ里である日、遺構を発見し、その内から二振りの魔剣を見つけたんだ」
サバがこれくらいかな?と言わんばかりに両手を広げてその魔剣の長さを表現していて、話を聞いていたベアトリーチェはサバの口の動きと聞こえてくる声にズレが無いことに気付いた。
ズレが無いということはつまり古いエルフなのに普通に
「私の目から見てもその魔剣は魔力の流れが見るからに良く無い澱んでいた状態だったから、誰にも触らない様封印を施して倉庫にしまっていた」
「賢明だ。忌剣だとしても使用したりせず短時間の接触なら狂気に堕ちることはない」
「でも問題が起きたって事は封印が十分じゃなかったって事?」
「十二分の封印だったさ。ドラゴンの襲撃が無ければ」
「ドラゴン!」
バナルガルダ山脈への調査目的が出てきてベアトリーチェは体を前のめらせた。
「ドラゴンが私たちエルフを襲う意味がわからないわね。バナルガルダが大干ばつで水不足なわけないし」
「死して火に還る
「ちなみにそのドラゴンの体色はわかる?」
「赤色だね。レッドドラゴンだ」
ベアトリーチェがタナトテアで遭遇したミアズマの色と一緒だったので意味深そうな感じにベアトリーチェはカッコつけてアルバーニャに目を向けてウンウン首を縦に振った。
「頷いてないで口に出しなさいよなにやってんのよ」
「忌剣を食べたドラゴンがミアズマになって山から降りてきたのがアタシたちが調査に来るきっかけになったってこと」
「忌剣の知られざる特性だな。もう一本は何処にある? ベアトリーチェのリュシオラならおそらくその忌剣も破壊できる。封印していて再びドラゴンに襲われる可能性よりも破壊してしまった方がいいだろう」
腰に下げられた砕けたイグニレスの残骸を見せながらカイニスの提案にサバは目を伏せた。
「魔剣は今もバナルガルダ山脈の隠れ里にあるんだ。クルの右腕に握られたまま」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます