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 ヴェルニア・セラリタ。

 キルとドレが現在の拠点にしている街、その外れにあるお世辞にも大きいとも綺麗とも言えない小さな診療所の主である。

 女性でありながら医師として自立している大陸でも稀有な存在である彼女であるが、その経歴は華々しい。

 帝都の医術学院をトップレベルで卒業し、その後、世界でもトップクラスの医療技術を誇る帝都の国立医院に勤務していた、という経歴を持っている。

 容姿端麗にして博学多才、正しく才色兼備を地で行くような人物。

 そんな誰もがうらやむ華々しい経歴を持つ彼女が何故このような辺境の街の、それも街外れの小さな診療所を運営することになったのか。

 答えは単純で、どんな世界であっても『出る杭は打たれる』からだ。

 華々しい経歴とはつまり、それだけ多くの妬みや嫉みの対象になる。

 その上で女性である彼女が典型的な男社会の中ではどれだけ嫌な思いをさせられたか、という事は想像に難くない。

 最初は国立医院から追い出され、いくつかの街の主要な病院を転々とさせられ、やがてこの街に辿り着いた。

 が、この街の病院の態勢とは折り合いが合わず、遂にはこの街の病院すらも追い出された。

 尤も、彼女はそこで折れるような人間ではなかった。

 もしそこで容易く折れてしまうような人間であれば、彼女が国立医院から追い出されるようなこともなかっただろう。

 彼女はもとよりか弱い女性ではなく、苛烈な性分の人間なのだ。

 だからこそ角が立ちもするが、だからこそ決して自分を曲げることもない。

 この街の病院から追い出された彼女は、ならばと街外れに自ら診療所を建てた。

 病院と対立した理由は、病院が貴族相手の『商売』を医者の本懐たる『治療』よりも優先させていたから。

 彼女がそれを無視して貴族も平民もスラムに住む人々も関係なく症状の度合いによってのみで治療を続けた結果、折り合いが合わなくなっていった。

 そのおかげで病院を追い出されはしたものの彼女を支持する者達も多く、今以って彼女の建てた診療所が解体されるような事態にも合わなかった。

 

 キルとドレがヴェルニアと出会ったのは偶然だった。

 この街のギルドでは医局担当を半年程度の任期でローテーションさせているのだが、キルとドレがこの街に流れ着いた当初、彼女が丁度ギルドの医局担当を兼任していた。

 ドレとしては下手な医者にキルを見させるよう要求されて、アレコレと詮索されるのが厄介な問題としてあったのだが、ヴェルニアは驚くほどあっさりと簡単な問診だけで済ませてくれた。

 多くの人間を診てきたヴェルニアからすれば脛に瑕があることなど気にするほどの物でもなく、『冒険者』なんて職業になれば尚更だった。

 ドレの態度から、キルへの虐待も疑ったが問診で問題があるような回答もなく、結果それだけで済ませた。


 ドレとヴェルニアの年齢が近しい事もあって、そこから関係は続いている。

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