C73

@washimi0852

鎮火


今は朝の10:00。

ナイトワークが終わり、新橋の餃子酒場でテイクアウトした餃子をつまみにキンキンに冷えたビールを飲みながら考えてみる。


俺の人生ってなんなんだろう。

呆然とそんな事を考える。


TVにはNetflixでBGM代わりに掛けている「ミナミの帝王」が流れている。

主人公は千原ジュニアだ。

利息はトイチ、貸した金は何が何でも返してもらいます。


人間は自己中心的な生き物である。

他人の為に、といっても結局自分が幸福でないと他人の為に出来る事は少ないであろう。

しかし、それでも僕は他人の為に、と生きている人達はすごいと思う。

「偽善」と言われても何もしない人間よりはよっぽどマシだ。


2019年3月11日、3年間同棲していた彼女が失踪した。

この3年間何だったのだろう。

彼女の為に、彼女の事だけを考えて生きてきたが、結局前述した様に彼女よりも自分の事を優先してきた結果がこの有り様なのだろう。


他人は「大丈夫」、「もっと良い人が現れる」と慰めてくれるが、そんな言葉は求めていない。


だとしたら、僕は何を求めているのだろう。

同情?慰め?いや、そうではないだろう。

僕は寂しさを紛らわせたいだけなのだろう。

ただ、誰かに側に居て貰いたい。

浴びるほどの酒を飲み、そのひと時だけでも何もかもを忘れて過ごしたい、それが本音だ。


今まで当たり前の様に隣にいた存在が何の前触れもなく、居なくなる。

僕は過去にも二度この様な経験をしている。

まさに、「二度ある事は三度ある」だ。


一度目は14歳の夏休みの終わり。

俺は中学2年生であった。

祖父の死だ。

祖父の死は何の前触れもなく訪れた。


いつもの様に夜遊びをし、20時過ぎに帰宅すると祖父の体調が芳しくなく、隣の病院の医師が祖父に点滴をしていた。どうやら脱水症状を起こしていた様だったが詳細も分からず、重く考えていなかった。


しかし、その数時間後救急搬送、意識がなくなり、翌日には死去した。

反抗期の僕は前日祖父に心ない言葉を浴びせていた。

反省というより、とても後悔している。


忙しい両親に代わり、僕は祖父母に育てられた。

祖父は開業医をしており、毎日朝から夜まで働いていた。

祖母も看護師として働いていたので、夕飯を祖父母と共にし、祖父と将棋をする以外の時間はほとんどお手伝いさんと居るか、もしくは一人の時間であった。

それでも祖父母からはたくさんの愛情を注いでもらった。

その為、今でも両親にはあまり心を許せていない。亡くした祖父の存在が大きすぎて…

祖母は今でも健在だ。94歳。

夫が先に去ると、妻は長生きするというが体現している。


二度目の後悔は離婚だ。

そう。僕はバツイチである。

離婚の原因は僕の不倫。それも同じ相手と5度の不倫の果てに離婚した。

後悔は妻と別れた事ではなく、不倫相手との離別だ。

どうしようもない男だ。そんな事は分かっている。

不倫相手を本気で愛してしまったのだ。

何故?そんな事が分かればとっくに忘れられている。

時に恋とは頭で分かっていても体が勝手に動いてしまう事がある。

理性的には良くない事と分かっていても、ただ逢いたい、愛おしい、その気持ちは容易に抑えられるものではない。


人間はたくさんの後悔を背負いながら生きていく生き物だ。

10代の頃、入っていた経営者育成塾で経験しない方が良い経験はない、という言葉をメンターから聞かせられたが、今身を持って思う。


経験しない方が良い経験もある。

まさに今の僕がそうだ。

僕は彼女を失いたくなかった。

不倫相手の事ではない。3年間連れ去った彼女である。


彼女はまるで亡くなったかの様に僕の元から去って行った。


仕事に行き、仕事帰りに「今から帰るね」と彼女からのメッセージ。

その1分後に彼女と音信不通になり、6時間後…

警察から電話があり、彼女に何かあったのだろうかと受話器を取ると、「彼女が別れたいと言っている」と。

まさに、夢の様だった。

信じられなかった。

つい数時間前まで仲良くすごしていた彼女に何があったのか、その理由だけでも聞きたい、その思いでいっぱいだった。


それから今日で1年半。

僕は生きている。

何度もGoogleで「楽な死に方」を検索し、「復縁工作」を調べた。

しかし、死ねず、復縁工作も依頼できない。

ただ、毎日が当たり前の繰り返しで過ぎて行き、過去の当たり前が思い出へと変わっていく。

彼女の荷物は先月まで失踪前日のまま。

やっと全ての荷物を実家に送る事ができたのは先月の事だった。


僕が帰宅し、寝室のドアを開けると「おかえり」と言って彼女が寝ている気がする。


そう。この物語はまるで小説の様なリアルな物語。

これを読んでいる君の心に寄り添えればと思って自伝を書いています。

自らの経験と照らし合わせて読んでもらえれば嬉しいと思う。

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