フードコートで餅を焼く

抹茶豆腐

読み切りお餅

EX話 フードコートで餅をつく

「ハッピーニューイヤー! イェー!」

「「イェー!」」

「……い、いぇー」






 年も明け本日は1月1日。元日です。

 一年で最もお餅が輝くといっても差し支えないお正月がやってきました。


 辺りには大勢の人が居ます。晴れやかな格好の人も多いですね。

 私達3人もお正月らしく着物を着ています。

 普段はあまりしませんが今日は髪も結っています。


 椛さんは私服で現れたので、2人で叱りつけてから、渚帆さんのお家で無理やり着替えさせました。

 ……私も渚帆さんのお下がりの着物を着たかったです。




「それにしてもスゴい人だな」

「ねー! こんなにあつまっちゃうなんてびっくり!」

「やはりそれだけ惹きつける魅力があるということですよ」


 椛さんは改めて、辺りを見回しながら言いました。

 今日私たちが来ているのは初詣で訪れた神社……ではなくてです。

 勿論いつものAE○Nのです。


 普段使っている椅子もテーブルも片付けられており、広いスペースが出来ています。

 そして、その真ん中にはうすきね

 そうです! これからここでお餅つき大会が開かれます。




「はーい! まずは見本として私達がお餅をつきまーす!」


 大きな鏡餅の帽子を被った司会のお姉さんが、私達お客さんに向かって大声で呼びかけます。


「それじゃ、いきますよ先輩」

「よしきた」


 お餅をつくのは司会のお姉さん。

 しゃがんでお餅を返すのは……夏休みのアルバイトでもお世話になった鶴子さんですね。


 ちなみにお餅をつく人をつき手、返す人を返し手や相の手と呼びます。




「ぺったん!」

「よいしょー!」

「ぺったん!」

「よいしょー!」


 景気良くお餅がこねられつかれています。

 思い切りつけばいいというものでもありませんので、優しさと程よい力強さと愛を持って接しましょう。


「さぁ! 会場のみんなもご一緒に!」


 鏡餅お姉さんが杵を振り上げ、私達に掛け声を求めます。


「ぺったん!」

「「「「「よいしょー!」」」」」

「ぺったん」

「「「「「よいしょー!」」」」」


 今度は逆です。


「「「「「ぺったん!」」」」」

「よいしょー!」

「「「「「ぺったん!」」」」」

「よいしょー!」


 ふー。

 この会場の一体感は気持ちが良いものですね。

 ライブに行ったことはありませんが、もしかしてこんな感じなのでしょうか?

 ペンライトとか買って持ってきた方が良かったかもですね。






「それでは会場のお友達でやってみたい子は居るかなー?」


 一通りぺったんを終えたところで、お姉さんが会場の主に子ども達に声を掛けます。


「子どもはあっちにある小さい杵使うんかな?」


 私と渚帆さんの前にしゃがんでいた椛さんは、振り返りながら言いました。


「はい! なぎ! なぎやりたいです!」

「わ、私も! 私にその使命を!」


 振り返ったまま一瞬固まる椛さん。

 私と渚帆さんは選ばれし子どもになるために一心不乱にアピールをします。


「いやいや! 明らかにお前らに対しての声掛けじゃねーよ! 小学生とかだろ!」

「なぎはどっちもできます! 小さいころにこーみんかんでやったこともあります!」

「私は毎年家でやっています! 現役選手です!」


 お姉さんはおでこに手を当てて、お客さんを見渡すように会場を見ています。




「じゃあまず、そこの可愛いお友達!」


 まず1人目に選ばれたのは小さな女の子……と思ったらちゃんでした。

 AE○N内で時々会う5歳くらいの女の子です。


「2人目は〜」


 お姉さんがこちらを見ています。

 これは私の餅力を世に知らしめる時が——


「そこのショートヘアの女の子! こちらにどうぞ!」

「へ?」


 選ばれたのは椛さんでした。






「お名前とお歳言えるかな?」

「なまえはこはるなの! としは5さいなの!」


 元気いっぱいに答える子春ちゃん。


「お名前とお歳言えるかな?」

「本当はやりたくな——」

「お名前とお歳言えるかな?」

「だからあたしは元々——」

「お名前とお歳言えるかな!」

「……幣舞椛16歳です」


 元気いっぱいに答える椛ちゃん。






「はい! じゃあぺったん始めていきま——」


 小さな杵を持った子春ちゃんと、臼の横にしゃがんでスタンバイする鶴子さんを見ながら、お姉さんが開始の号令をしようとしましたが、一旦言葉を区切り、こちらを見ました。


 え! やっぱり私!?


「そこのお団子頭のお姉さんお手伝いいいですか?」


 違いました。

 声をかけられたのは私の横で半ば諦めかけていた渚帆さんでした。


「え! なぎ!? やったー!!!」






「それでは気を取り直していきましょう!」


 渚帆さんが鶴子さんに代わって返し手の位置に居り、椛さんは杵を持つ子春ちゃんの後ろから抱きつくような形で支えています。


「こはるちゃんもみじちゃん! じゅんびはいいかな?」

「だいじょーぶなの!」

「ここまできたらやるしかないか」


 少し嫌がっていた椛さんも流石に観念したようです。




「「ぺったーん!」」


 椛さんと子春ちゃんのお声が会場を和ませます。

 主に子春ちゃんではありますが。


「よいしょー!」


 あぁ! 私のぺったんも渚帆さんに受け止めてもらいたい!


 数回やりとりを行って、つき手と返し手を交代です。

 子春ちゃんはそのままで、椛さんと渚帆さんの位置が変わりました。




「「ぺったーん!!」」


 渚帆さんと子春ちゃんの元気で可愛らしいお声が会場に響いています。


「よいしょー」


 くっ!

 今すぐ代わってください! 椛さん!




「とても息ぴったりのお三方です! まるで親子のよう!」


 お姉さんが拍手をしながらそんなことを言いました。


「「「「「ぺったーん!」」」」」

「「「「「よいしょー!」」」」」


 会場のお客さんのテンションもノリノリになってきています。






「ではでは最後はー」


 会場のお客さんを再び見回すお姉さん。


「あっ」


 お姉さんはお客さんの一人を見て声を漏らします。


「黒髪のお姉さん……そんなにお餅……つきたかったですか?」


 会場中の注目を集めた私の顔にはふっくら膨らんだお餅が2つ完成していました。


 おもち










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