18話 餅活
「お芋おいしいね!」
「そうですね!」
「……悲しいよあたしは」
お昼のピーク時も過ぎ、少しゆったりとした時間が流れるフードコート内。
私達はテーブル席に座り、3人でマク
3人でLサイズを1つ。
「女子高生3人集まってポテト1つて……これはまずい状況だぞ」
テーブルの真ん中に広げられているポテトを見ながら、椛さんは溜息交じりに言葉をこぼします。
「え? ほいひーよ?」
そんな椛さんの言葉に、ポテトを口に咥えながら渚帆さんが首を傾げて答えます。
これはポテトゲームチャンスですか?
「いや。ポテトはそりゃ美味いんだけど、そうじゃねぇよ」
「確かに1つのポテトを3人でつつくというのはなんだかさみしい感じがしてきましたね……」
私はフードコート内に設置されているウォーターサーバーから頂いたお水を一口飲みながら椛さんのお気持ちを代弁します。
「みんなお金ないもんね!」
渚帆さんはとても悲しい現実をとても良い笑顔で簡潔に言い放ちました。
お金がなくてもこの笑顔があれば私は何も要らないのかもしれません。
「まじでお金なんとかしねーとこの夏なんもできんぞ」
「なぎはお喋りしてるだけでたのしいよ!」
あぁ! 渚帆さんが夏の日差しのように光り輝いて私には見えます。
真夏の太陽はフードコートにも存在していたんですね。
「そういうの今はいいから、真面目に考えるぞ」
「うぅ」
くそう! 真夏の太陽が大きな雲に覆われてしまったかのように輝きを失ってしまいました。
私が助け出さなければ!
「やはり前にお話ししたように今からでもバイトを探すほかないのでは——」
「そうだ!」
一瞬雲の切れ間から光が漏れ出しました。
「じゃあ、前とおんなじでバイトのしみゅれーしょんを——」
「それはやらん」
「それはやりません」
あ……ごめんなさい……渚帆さん…………
「それでは今から短期ですぐにお金を稼ぐことの出来るバイトを探しましょう」
「おー!」
「おー」
あれから拗ねてしまった渚帆さんのご機嫌を取るために、ポテトを全て献上させて頂いたりと色々ありましたが、これから短期のバイトを探そうと思います。
各々スマホで良さそうなバイトを探していきます。
「お! これなんていいんじゃないか?」
椛さんは私と渚帆さんにご自分のスマホ画面をこちらに向けました。
「これは……」
「ふむふむ。確かにいい写真ですな」
「だろ?」
そうだろう。と椛さんは頷いて得意げな顔をしたのも一瞬。
「ん? 写真?」
椛さんは頭に疑問符を浮かべてからスマホの画面をご自分に見えるように裏返しました。
「んな!?」
そこに映っていたのは先日、渚帆さんのお誕生日をお祝いした帰り際に3人で並んで撮った写真でした。
あらあらまぁまぁホーム画面にしちゃって。
「私達こんなに愛されていたんですね」
「ちょっと照れちゃうね」
私と渚帆さんはお互いに顔を見合わせてはにかみました。
「ち! ちがうちがうちがう!!! こっちだよ! こっち!」
椛さんは首元までお顔を真っ赤にしながら急いでスマホ画面をこちらに向けてきました。
「これは……
毬藻。
北海道阿寒湖に生息している特別天然記念物です。
丸まった一つが毬藻ではなくて、
日本では阿寒湖で初めて発見され、実は日本の他の地域でも毬藻は生息しています。
お土産用の毬藻は勿論養殖です。
「わー! なぎもまるもまりめたーい!」
「楽しそうですが短期のバイトではありませんねこれは」
「あ。ほんとだわ」
渚帆さんには私はいつでも丸めて頂いて大丈夫ですのでそれで我慢してもらいましょう。
ちなみに毬藻はネットで買って育てられます。
「これなんてどうでしょうか?」
私は椛さんと同じ過ちを犯さないように確認してからスマホの画面をお2人にお見せします。
「中学生に勉強を教えるバイトねぇ」
「バイト代も割と高いですし、個人宅に伺う形で不定期にはなりますが、行った日にすぐお金を頂けるそうですよ?」
やはり即日現金支給というのは魅力的ではないでしょうか。
私賢い!
「うーん」
「いやぁ」
私とは裏腹に椛さんと渚帆さんは渋いお顔をしています。
「お前はいいかもしれんが、あたしらは中学生に勉強を教えるのは無理だぞ」
「小学生でもなぎはきびしいです!」
そうでした……椛さん勉強出来る方ではあるのですが、教えるとなると少し不安なのかもしれません……それに渚帆さんでは…………
は? 渚帆さんではなんですか? 誰ですか! 今失礼なことを思ったのは!
私の前に出てきなさい!
「それにおべんきょー教えてくれるなら、こはるこちゃんがなぎの宿題を見てほしいかも?」
「お金は支払いますので是非ご自宅で教えさせてください」
「お前が支払うのも意味わからんし、しかもそれだとお前らでお金が循環するだけだぞ」
「ん? これどういうばいとなんだろう?」
渚帆さんはご自分のスマホを見つめて呟きました。
「ごはんを食べるだけでお金がもらえるのかな? しかも2万!?」
「 」
呟きを聞いた私の身体が固まります。
食事のみ2万……まさかそんな……私の額に嫌な汗が流れます。
「ごはんたべるのなぎ好きだしぴったりかも! ね! こはるこちゃん!」
渚帆さんは疑うことを知らない純真無垢なお顔で私を見つめています。
ガタッ!
私は勢いよく立ち上がりました。
「だめですよ! そんな、い、いかがわしいバイトは! 渚帆さんのご家族が悲しまれますし何より私が許しません! ダメ! ゼッタイ!」
「わわわ! どーしたのこはるこちゃん急に!」
私は早口でまくし立ててしまいました。
食事なら私としましょう!
「盛り上がってるとこ悪いんだけども」
いつのまにか渚帆さんのスマホを手に取って見ていた椛さんが私達を見て言いました。
「これ大食いで成功したら賞金貰えますよって記事なんだけど。そもそもバイトじゃねーし」
「え?」
私の身体は再び時を止めました。
「で? 小春子さんは何と勘違いしたんだ? いかがわしいバイトってなんだよ」
「知りません! わ、わたし何か言いましたっけ? 大食いいいですね! 渚帆さんにピッタリです! ……念のため渚帆さんは後で私と現代社会のお勉強をしましょう」
「は、はい!」
あれから数時間、各々良さそうなバイトを探しましたが、なかなか見つからずに時間だけが過ぎていきました。お腹も空いてきました。
「腹減ったしもう帰るかー今日は」
「むぅ……あしたまた探してみようね!」
「そうですね。明日また集まりましょう」
私達はテーブルの上を片付けてからフードコート横にある出口に向かいました。
「ふんふんふふーん♪ ふん?」
渚帆さんは鼻歌交じりに私達の前を歩いていましたが突然足を止めます。
「もみじちゃんこはるこちゃん!! これって!!!!」
出口横の壁を見て渚帆さんが大きな声を出します。
「大きな声出すなって。他の人にめいわ——」
「どうされましたか? なにかあっ——」
私と椛さんは渚帆さんが見つめていた壁を渚帆さんの両脇からのぞき込みます。
そこには——
『急募!! 短期アルバイト募集!!
日給1万即日現金支給!
2日間だけのティッシュ配り!
さぁ! 君のティッシュ配りの才能を示すとき!』
と張り紙が貼ってありました。
どうやらここAE〇N内の夏のガラポンくじの宣伝らしいです。
こ——
「「これだーーーーーーーー!!!!!!!!」」
おもち
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