5話② 夏が来る

 んあ。


 本日2度目の失神からなんとか目覚めた私ですが、目の前の女の子の言葉が私の頭の中でぐるぐると、ねりねりねりねを混ぜる時くらいぐるぐると回っています。


 私がばばくさい? 怖い? そんなはずは……私は今をときめく花の15歳のはずでは……


「おねぇちゃん! きこえてるの!? ひょーじょーがまだかたいの! もっとおしゃべりもやわらかく!」

「はぁ」


 椛さんと渚帆さんの間に座っている、私達より10個は下に見える女の子からの有難いお言葉をまとめるとこうです。




 まず私の笑顔は硬いと。

 硬い? この私の笑顔が? 実家のお餅屋さん(今はほぼ和菓子屋ですが)で放課後お客さんに接客することもある私の笑顔が? 確かに私は知らない人が苦手で、高校に上がるまでは頑なに接客はせず裏でお餅をこねこねこねこねしていましたが……なのでまだ人前に出るようになって2ヶ月ですが……


 2つ目に私の言葉遣いがおばあちゃんみたいだと。

 いやいやいや! これは古臭いんでもばばくさいんでもないんです! 丁寧なんです! 誰に対しても慈しみと敬うことを忘れない私の心の表れです! ……人見知りだから誰に対しても敬語になってしまうわけじゃないんですもん。


「こうなったら、なぎママともみじパパの力をかりるの」

「え?」

「よし! がんばるよ!」


 なんか始まりました。


「じゃあまず、なぎママから笑顔をおべんきょーするの。はい! なぎママえがおー!」

「にこー!」


 え? うわ! 辺りが光に包まれていく—— 




 北海道の夏には少し早いですが、空を見上げると澄み渡る青い空に、真っ白な入道雲。どこまでも伸びる一本道の両側には広大な向日葵畑。

 その中でも一際目立つのは白いワンピースに麦わら帽子を被った渚帆さん(末期)


 みなさんは今年の夏何をしますか? ……お祭りに行って型抜きをしたり、砂糖が沢山振りかけられたフレンチドックを食べるのもいいですね……鶴見橋つるみばしの花火大会で打ち上げ花火を見たり……みんなでパジャマパーティもいいですね……渚帆さんのパジャマ……きっとふりふりで可愛いんでしょう……もしかして着ぐるみパジャマ? それはそれでアリ……蟻の着ぐるみパジャマでもアリ……海でスイカ割りなんてのもいいですね……この辺に住んでいると難しいですがやってみたいです……それから……






「はい! つぎ、くろかみのおねぇちゃん! やってみて!」


 は! 心が夏に持っていかれてました。危ない危ない。

 今年の夏は暑くなりそうですね……それでは私の笑顔もお見舞いしてあげましょう。


「にこ」


「うーん。やっぱりちょっとこわいの」

「そんなことないよ! すてきな笑顔になぎはみえたよ!」

「まぁ、なんつーか、お前の笑顔は多分アレなんだよ。その……いや。やっぱいいや」


 椛さんが言い淀むなんてらしくないですね。私気になります。


「どうしました? この際はっきり言っていただいていいんですよ」

「だから。その……本当に言わないとダメか?」

「もみじちゃん! 傷つくようなことは……」

「いや! そうじゃねーよ………………ゴニョゴニョ」

「え? なんですか?」


 なんて言ったんでしょうか? ……あら? 椛さんの耳が赤くなっている気が……


「だ! か! ら! お前の顔はでいつもの真顔がちょっと怖く見えてんだよ! そのうえ笑うのがなんか下手くそだから怖く見えんの!」


 椛さんは顔も耳も真っ赤に染めて言い放ちました。


「ひゅー! もみじちゃん語るねぇ!」

「そっか! くろかみのおねぇちゃんは美人さんでかっこいいから、ちょっとえがおがこわくみえちゃうんだ! ……あれ? でも」


 女の子は私の顔を見て言いました。


「いまのおねぇちゃんのおかおは、とってもかわいいの!」


 私は今どうなっているのでしょうか。

 とりあえず触らなくてもわかるくらいにめちゃくちゃ顔が熱いです。その上口角が上がるのが抑えきれません。


「……すみません。ちょっとお手洗いに行ってきます」


 私は一旦落ち着くべくお手洗いに席を立ちました。






 うぅー! 椛さん! あんな恥ずかしいセリフよく言えましたね!

 なんでしょうか。私達の知らないところで他の女の子にもあんなセリフ吐いているんですかね!! この女たらし! 暑いです! もう夏ですね!





「おーい! ! やっと見つけた!」

「もう! 心配かけて!」


 小春子がトイレに行ってすぐのこと、椛と渚帆と女の子3人の所に、息を切らせて慌てた夫婦が駆け寄ってきました。


「あ! ママ! パパ!」

「こんにちわ! 入初いりそめです。えーと、子春ちゃんとあっちのところで会って、ここで遊んじゃってました! すいませんご心配かけて……」


 慌てて駆け寄ってきた夫婦は、子春ちゃんのご両親でした。


「いえいえ! お2人が子春の面倒を見て頂いていたんですよね。本当にありがとうございます。大変ご面倒をおかけ致しました。」

「本当にありがとうございました。ほら。子春もお2人のお姉さんにちゃんとお礼してね」

「ありがとー! とってもたのしかったの! くろかみびじんのかわいいおねえさんにもつたえてなの! ……あ!! まだきょーいくはおわってないのからまたあそぼうなの!」






 子春ちゃんは優しそうなお父さんお母さんに連れられて、フードコートを後にしました。時々こっちを振り返り小さな手を大きく振っていました。


「また会えるかな? 子春ちゃん」

「まぁ。ここでだべってればまた会えんだろ」


 渚帆は少し意地悪な顔で椛に言葉を投げ掛けました。


「ねぇ。椛ちゃん。」

「なんだ」


「いつまで顔赤いの?」

「うるせーな」


 おもち










 





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